先日開催しました「どくミス!2026」は多くの方に投票をいただいて、無事に結果発表まで終えることができました。投票していただいたみなさまには心から感謝を申し上げます。今回も、みなさんの投票により五十六もの作品が挙がりました。投票なので順位はつきますが、どの作品も誰かのイチオシ作品です。ひょっとしたらタイトルすら知らなかった作品があるかもしれません。ランキングを楽しむと同時に、そんな新しい作品との出会いの場所として、今後も「どくミス!」を活用していただけたらと思います。
また、さまざまな作品を通して私たちを楽しませてくれる作り手のみなさまにもお礼を申し上げます。翻訳ミステリーを取り巻く状況には厳しいものがあるにも関わらず、コンスタントに作品を刊行してくださっていることに感謝の気持ちを抱きつつ、ささやかながら「どくミス!」のようなイベントを通してお返しができればと考えています。今年もこれからきっと、各社の自信作が刊行されることでしょう。私たちはそれを期待して待ちたいと思います。
今回の結果は読書会のサイトにて公開中です。ぜひチェックをお願いいたします。イベントの様子も配信中です。こちらでは、第一位作品の翻訳者と編集者の方にもご出演いただいています。作り手ならではのお話も披露されていますので、こちらもぜひご覧ください(配信先へは上記読書会サイトよりどうぞ)。
というわけで、今回の読者賞だよりは、今回の「どくミス!2026」で第一位となりました、アンデシュ・デ・ラ・モッツ&モンス・ニルソン『死が内覧にやってくる』(久山葉子訳 創元推理文庫)とその続編『死んでもいいくらいの掘り出し物』を取り上げます。
まず、シリーズ一作目となる『死が内覧にやってくる』です。舞台はスウェーデン南部のエステリエン。のどかな田園風景が広がるこの町で、女優としても名の知られている不動産ブローカーのジェシー・アンダーソンが近代的な新築物件を手がけるところから事件は始まります。海岸に近く、自然豊かな場所に家を建てるなどもってのほかだと反対する人も多いなか、ジェシーはかなり強引に建築を進めていきます。しかし、ジェシーはその新築物件の内覧会のさなか、リビングに据えられた釣り針をかたどった彫刻に刺さった状態で発見されるのです。
事件を捜査するのは、この町唯一の捜査官トーヴェ・エスピングと、休暇でエステリエンを訪れていたストックホルム警察国家殺人班の捜査官ピエテル・ヴィンストン。熱意は人一倍強いもののまだまだ経験の浅いトーヴェは、過去に難事件を解決に導いた凄腕捜査官ピエテルの言動がいちいち気に入りません。たまたまここに居合わせただけの捜査官に「私の事件」を横取りされてたまるものかと躍起になって捜査にのめり込んでいきます。一方ピエテルの休暇はたんなる休暇ではなく、療養を目的としたものでした。そこに、彼の一人娘であるアマンダの誕生日か重なったため、母親(ピエテルにとっては元妻)のクリスティーナとともにエステリエンに住むアマンダを訪ねたという事情がありました。療養が目的だということは誰にも言ってませんでしたが、クリスティーナにはすぐに知られることとなり、ピエテルの体を心配する彼女の前では、ジェシーの死に興味を強くそそられながらも、おおっぴらに捜査に加わることははばかられる状況でした。
串刺しで発見されたジェシーは、状況からして事故なのか事件なのかがはっきりしませんでしたが、トーヴェとピエテルはどちらもこれを事件、つまり殺人であると考えていました。ピエテルは地元の警察署長から要請されたこともあり、まだ新米捜査官のトーヴェをサポートするという形で少しずつ捜査に関わっていきます。
殺人事件の捜査なのに、なぜか牧歌的な雰囲気に包まれているのは、ピエテルがトーヴェを始めとする地元住民との交流がとても軽やかに描かれているから。休日でもスーツを着込み、ポケットにはほこり取りの粘着テープを忍ばせているほどの潔癖症であるピエテルも、彼らと接していくなかで徐々に町になじんでいく様子に、読者もついほっこりとした気分になるのではないでしょうか。
小さなコミュニティ内で事件が起き、その解決までがコミュニティ内で完結することや、食べ物の描写が多い(エッガカーガという料理? が印象的)ことなどから、本作はコージーミステリーに分類されるのかと思います。探偵役が素人ではないなど、コージーの本筋とはやや異なる設定もありますが、本編を包み込んでいる雰囲気はまさにコージーミステリーのそれであり、北欧ミステリーと言えば凄惨なものだという先入観をお持ちの方(私です)も、本作を読めばその印象がグッと変わるのではないかと思います。
事件の真相は、手練れの読者なら途中で気づくかなという感じではありますが、トーヴェとピエテルの二人が捜査と推理、そして間違いを繰り返しながら徐々に真相に近づいていく様子は、王道の警察小説といった雰囲気もたたえていて、読者を最後まで飽きさせません。コージーが好きなかたにはちょっと風変わりなコージーミステリーとして、そうでない方にはコージーミステリーの雰囲気を持った警察小説として、多くの読者に楽しんでもらえる作品です。
十二月刊行ということで、年末のランキングでは次回の対象となる本作が、いち早く「どくミス!」で取り上げられたことを大変うれしく感じています。ぜひ手に取ってみてください。
そして、この事件から二週間ほど後、骨董市のさなかに起こった事件を描いたのが、先月刊行された『死んでもいいくらいの掘り出し物』(久山葉子訳 創元推理文庫)です。前作は新築物件にまつわるミステリーでしたが、今回はアンティークの壺にまつわる謎にトーヴェとピエテルのコンビが挑みます。
七月の第四日曜におこなわれるデーゲベリヤの骨董市。掘り出し物を探しに多くの人が訪れる大規模な骨董市の朝は、市が開かれる朝八時よりももっと早くから始まっています。いちばんいい取引がその時間帯に交わされることを、骨董の専門家たちは熟知しているからです。中国陶磁器に造形の深い七十代の老人、イェット・シリエンもその一人で、朝四時にはすでに会場に到着していました。額に懐中電灯を装着して、会場を歩き回る彼の目に留まったのは、ごく小さな中国製の砂糖壺でした。「膝が震えるような掘り出し物(十三ページ)」に出会った彼は、地元のスカウト団が出品したこの壺をどうしても手に入れたくなり、スカウト団の若者に声をかけようとしたところ、彼自身が別の男から声をかけられます。その男こそ、エステリエン地方でもっとも有名な遺品買取業者、アンティーク業界のハゲタカとの悪名も高いレナート(ナッレ)・ペーションでした。ナッレはイェットが手にしている砂糖壺がきっと価値が高いものなのだろうと踏んで、イェットに払えないほどの金を積んで砂糖壺を横取りしたのでした。
やがて市が開かれ、多くの人が買い物を楽しんでいるなかで事件が起こります。午後の三時が近くなったころ、少しずつ人の流れが減りつつあるなか、店先のアウトドアチェアに座ったまま死亡しているナッレが発見されます。背中には凶器とおぼしきダーク(儀式で用いる武器)が刺さったまま。骨董にはそれほど興味のないピエテルは、アイスクリーム屋でバイトをするという娘のことが気になって骨董市を訪れていて、この現場に遭遇します。別のところにいたトーヴェが署長からの連絡を受けて現場に到着したときには、すでに現場の封鎖など初期の対応は済んでおり、ピエテルがいることを知ったトーヴェはそのことを苦々しく思うのでした。ここに、かみ合っているようでかみ合わない、馬が合わないのになぜか捜査の方向性では一致するというでこぼこな二人の捜査が再び始まるのでした。
今回はアンティークがテーマとあって、スウェーデンのアンティーク事情なども語られながら事件の捜査が進んでいきます。クリスティーナ、アマンダ、ポッペなどの前作からの登場人物に加えて、新しい登場人物も加わり、前作にはなかったロマンスの要素なども加わって、事件はシリアスながら、作品としてはとても楽しいミステリーに仕上がっています。
前作同様、良質のパズラーであるというのは言うまでもありませんが、前作と比べるとツイストも効いており、ミステリーを読んだという満足感で言うなら、今作のほうがちょっと上かなという印象があります。『監視ごっこ』『山の王』といったシリアスなミステリーを書いてきたアンデシュ・デラ・モッツと、脚本家でありコメディアンでもあるモンス・ニルソンの組み合わせが、絶妙なバランスを生んでいることは間違いないのですが、いまのところ、本国でもこの続きは刊行されていないとのこと。もう少しだけ、トーヴェとピエテルのでこぼこコンビの奮闘を楽しみたいところなのですが。
改めて、「どくミス!2026」に投票いただきありがとうございます。「どくミス!」は、読者発のイベントとして、これからも楽しく続けて行きたいと考えています。それには、みなさまのご協力が不可欠です。これからもたくさんの翻訳ミステリーが刊行されることと思いますが、みなさまには頭の片隅にでも「どくミス!」のことを留め置いていただき、次回開催の際にはぜひ投票をお願いいたします。
| 大木雄一郎(おおき ゆういちろう) |
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「どくミス!2026」への投票とご支援をありがとうございました。次回「どくミス!2027」も精一杯がんばって企画しますので、今後ともよろしくお願いいたします。 |
「どくミス!2026」への投票とご支援をありがとうございました。次回「どくミス!2027」も精一杯がんばって企画しますので、今後ともよろしくお願いいたします。