今月はロブ・オスラーの長編デビュー作、“Devil’s Chew Toy”(2022)をご紹介します。2023年のレフティ賞、アンソニー賞、マカヴィティ賞、アガサ賞の新人賞候補となった作品です。
物語は主人公のヘイデンがナイトクラブの倉庫で仰向けで寝かされ、天井を見つめている場面から始まります。なぜそんなところに寝かされているのかと言えば、お立ち台でセクシーなダンスを披露するイケメンダンサーにチップを渡そうと近づいたとき、バランスを崩したダンサーの足が顔面を直撃、鼻血が盛大に出てしまったから。
とはいえ、おかげでカミーロというそのイケメンダンサーと知り合うことができ、おまけに彼の自宅に誘われるという幸運まで舞い込んだのですから、顔を蹴られた甲斐があったというもの。そう、ヘイデンはゲイなのです。けれども幸運は長くつづかず、翌朝、目が覚めるとカミーロはいなくなっていました。忽然と姿を消してしまったのです。コマンダーという名の愛犬を残して。
どうやらカミーロは事件に巻き込まれたようですが、それに関しては警察も動いています。とはいえ、カミーロは幼少期に両親とともにアメリカに不法入国し、アメリカで教育を受けた、いわゆるドリーマーです。DACAという若年移民への国外強制退去の延期措置によって強制送還を免れていますが、そんな不安定な立場の彼の失踪を警察がどこまで真剣に調べてくれるかわかりません。ヘイデンはカミーロの知り合いのホリスターとバーリーというふたりの女性の協力を得て、カミーロの行方を追うことに。
カミーロの元カレ、大学の友人たち、バイト先であるペットショップのオーナーなど関係者から話を聞き、ときにはあやしいとにらんだ相手を尾行し、とヘイデンたちの調査はしだいに本格的なものになっていきます。そして当然のことながら、彼らの身にも危険が迫ってくるのです。
あらすじだけを読むと、よくある素人探偵ものという印象ですが、この小説の最大の魅力は、強烈な個性を持った登場人物たちの存在です。たとえば主人公のヘイデンを助けるホリスター。プロテニス選手のセリーナ・ウィリアムズのような風貌で、髪型は本格的なモヒカンという、どこにいても目立つ存在です。しかも乗っている車はポルシェ。そんな車で尾行して、なぜ気づかれないのかが不思議です。ちなみにポルシェには“モー”という名前がついています。作家のトニ・モリスンが由来とのこと。
そのほか、身長198センチで体重140キロ弱、強面ながら、おいしいケーキを提供するカフェを経営しているバーリー、ホリスターの交際相手でお金持ちのお嬢さまのミスティ、ヘイデンのおばの隣に住み、ときに含蓄に富む助言をしてくれる高齢のジェリー、なにかとヘイデンを目の敵にしている隣人のサラ・リーらもいい味を出しています。ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラム・シリーズやジャナ・デリオンのワニ町シリーズがお好きな方に強くおすすめします。
これだけ個性豊かなキャラクターを揃えたのですから、これ一冊で終わったらもったいない……と思ったら、2024年に “Cirque du Slay” という続編が出ていました。これも読んでみなくては。ロブ・オスラーはこの〈ヘイデンと愉快な仲間たち〉シリーズのほか、19世紀末のシカゴを舞台に、ハリエット・モローというレズビアンの女性探偵を主人公にしたシリーズも執筆しています。その第1作、“The Case of the Missing Maid”(2024)は今年のレフティ賞の最優秀歴史ミステリ賞を受賞しています。こちらもおもしろそうですね。すでに手元にあるので、いつかご紹介できればと思います。
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東野さやか(ひがしの さやか) |
| 最新訳書はローラ・チャイルズ『ピーチ・ティーと仮面舞踏会』。その他、クレイヴン『デスチェアの殺人』、テイラー『ボニーとクライドにはなれないけれど』、ヴァン・ペルト『親愛なる八本脚の友だち 』、スロウカム『バイオリン狂騒曲』など。埼玉読書会と沖縄読書会の世話人業はただいまお休み中。ツイッターアカウントは @andrea2121 |