みなさま、こんにちは。韓国ジャンル小説愛好家のフジハラです。ついに北海道にも夏がやってまいりました。一年の体感温度が、寒い→涼しい、の次は「暖かい」を飛び越えて「暑い」になってしまう体質ゆえ、もはや毎日が恐怖でございます。
 さて、7月といえば七夕(北海道はひと月遅れの8月7日ですが)。記憶にある限り、天の川なんぞ見たことありませんが、織姫、彦星にちなんで悲恋の物語をご紹介。


 はじめにご紹介するのは、ファン・セヨンの短編集『完全夫婦犯罪』。夫婦間のいざこざを発端とするナンセンスミステリー、サスペンス8作品が収録された短編集となっております。その中からまずご紹介するのは、「私が殺した男」。主人公の男とミナは数年前から不倫関係にありました。ミナは自閉症の娘と甲斐性のない夫を抱え、保険外交員として家計を支えています。コミュニケーション能力に長けて人好きのする性格のミナは、営業面でもなかなかのやり手で、登山同好会で知り合った「男」も即座に彼女の魅力にとりつかれてしまったようです。

 またホテルで朝を迎えてしまった。妻への言い訳を考えていると、窓の外から聞き慣れたサイレンの音が聞こえてきた。なんとも言えない不吉な予感に眉をひそめる。そこに携帯電話のベルが鳴り響く。
「チェ警部補、殺人事件です。現場はアモールホテル……」
 まさに自分が今いる、このホテルだ。こんなところで殺人事件だって? しかも被害者の名はウ・テグォン。ミナの夫ではないか。事件への関与はないとしても、このままではまずい。捜査陣が事情聴取をしに訪れるのも時間の問題だ。人目に触れないようマスクと帽子で顔を隠し、二人で非常階段を駆け下りる。ミナにはホテルから遠ざかるよう指示し、自分はあたかも外部から出向いたかのように捜査陣と合流した。
同僚たちと、ホテルに設置された防犯カメラを確認する。そこには、まるで罪人のように顔を伏せて歩く自分たちの姿が映し出されていた。一方、テグォンが泊まった部屋の前に設置されたカメラには、テグォンを訪ねてきた金髪の男の姿があった。はたしてこの金髪男は何者なのだろうか。

 捜査線上に浮かんだ謎の男のほか、もちろん(?)現場付近に滞在していた妻も怪しめ。数か月前に夫に巨額の保険金をかけていて、受取人はもちろん妻自身。さて、真犯人は誰なのか。なかなか現実にはあり得ないナンセンスな事件ではありますが、ナンセンスの一言では片づけられない怨恨と家族愛がないまぜになったサスペンス。
 
 お次は、今や国民病ともいえそうな認知症を患った女性が主人公の作品、「結婚から墓場まで」

また、である。頭の中に白い閃光が走り、それまでの記憶がリセットされたような感覚。それまで誰と何をしていたのかまったく覚えていないが、目の前には血まみれの男の死体とゴルフクラブ。男に見覚えはないが、思わず口をついて出た言葉は「あなた!」。状況から見るに、どうやらこの男を殺害したのは自分らしい。身につけているエプロンのポケットに何気なく手を差し込むと、メモ用紙が出てきた。そこにびっしりと書き記されていたのは、殺人の手引書。「あの女」に殺人の罪を着せるための方法が事細かに指示されていた。
午後3時:夫のティータイム。あの女と浮気をするたび私に飲ませていた睡眠薬をコーヒーに溶かして飲ませる。薬は寝室の机の引き出し。
午後3時半:夫が眠ったら、夫と彼女のチャットルームに接続して、夫のふりをして夜7時に家に来るよう誘い出す。
午後4時:あの女の犯行に見せかけるため、蚊取り線香を使って放火装置を設置。装置は何度か試行し……

 メモにあった指示通りに放火装置を設置し、アリバイ工作のためハジョンは友人と外出します。その間に自宅で火災が発生し、計画通りであれば、焼け跡から夫と共に女の死体が発見されるはず。ところが、そこにあったのは夫の死体だけでした。「あの女」はどこへ? 現代社会が育んだ国民病、認知症ともう一つ、最先端の科学が生んだある技術との融合で起きたナンセンスな事件が、笑えない結末を見せてくれます。作品のラスト一行、最後のハジョンの一言(暴露しちゃいたい!)がイミシンすぎて悶えます。

 最後もう一つ、「不道徳が多すぎる」。多くの人が、できることなら回避したいと考える兵役。ところが、すでに兵役を終えた主人公の男は、もう一度、兵役に就きたいと願っていました。彼にとって軍隊とは、衣食住の問題が瞬時に解決される場所、さらに警察の包囲網から逃れられる最高の隠れ家でもあったのです。

 三流大学を卒業後、僕はキリスト像の製作に携わっていた。あらかじめ作られたキリスト像を十字架に打ち付ける仕事である。何年もの間、毎日、膨大な量のキリストを十字架に打ち付ける。やがて罰当たりなその業務のせいで自分は地獄に落ちるのではないかと恐れるようになった僕は、辞職を願い出た。
 無職となり嫁にも見下されるクズ人間となった僕は、大金を手に入れることができる妙案を思いついた。コナン・ドイルが友人相手に施したいたずらのように、友人らに脅迫メールをばらまくのだ。

 ……と、さっそく脅迫メールを送り付ける相手を選出し、連絡先の入手に奔走する「僕」。でも所詮クズ人間のやることはクズ。まんまとせしめた大金を瞬時に使い果たし、さらなる金策に乗り出します。クズのくせに回収率を細かく計算したり、詐欺をしかける標的として相応しい職業を分析、吟味したりしてしまうセコい男の姿がとても滑稽で笑えます。ただ、計算通りにいかないのが人生というもの。詐欺メールは思わぬ人の手に渡り、予定外の事態を招きます。「やっちまった!」感が小気味よい快感を味合わせてくれる、気分爽快な作品。
 

 さて、次にご紹介するのは長編小説、『合理的家庭』(ペク・スンヨン)。売れない作家と彼を支える妻、有名外科医と専業主婦の妻が織り成す「痴情ホラー」。はじめにご紹介した短編集では夫婦間のいざこざや不倫、殺し合いがシニカルに、ナンセンスに描かれていますが、こちらはフツーにドロドロな愛憎劇となっております。

 ソウル近郊に居を構えたヒジンは同僚たちから羨望のまなざしを向けられる生活を手に入れた。戸建てが立ち並ぶ高級住宅街に建てられたヒジンの家は、小ぶりな中古住宅ではあったが、雑誌記者としての稼ぎで家庭を切り盛りしてきた彼女にとっては精一杯の贅沢だった。無名の小説家だった夫のホジェも、2年前に出版された恋愛小説が思いがけない売れ行きを見せ、ベストセラー作家としてもてはやされるようになった。娘のジユルも小学校に入学し、絵に描いたような幸せな家庭が出来上がりつつあった。
 ホジェの名を世に知らしめた恋愛小説『巨人が暮らす森』は、ホジェの実体験を基に書かれた物語である。主人公の女が若くして余命宣告を受けるが、作中の男がその恋をまっとうしようとした反面、ホジェはそんな悲恋を受容できなかった。
 ヒジンの家の隣には、同世代の若い夫婦と子どもが二人、ヒジンたちが購入した物件よりワンランク上のプール付きの一軒家に住んでいた。夫のゴヌは医者の血筋をひく胸部外科医で、妻のユリムはブランド品に身を包み、上流階級の生活を謳歌する専業主婦。息子のヨンビンは学校生活になじめずにいたが、父親によく似た頭脳明晰な少年で、娘のシアはジユルと同学年とあり、二人はすぐに仲良くなった。
 ある日の夜、ヒジンの家を訪れたユリムが、そこに居合わせたホジェと顔を合わせて驚いたように声をあげた。
「ホジェ先輩?」
 
 学生時代を共に過ごした男女が偶然(なわけない……)再会し、家計を担う妻、夫が出勤したあとには、自宅で執筆活動に勤しむ作家と、医者妻として華やかな暮らしを満喫する専業主婦が庭続きの家にご在宅、そこで何も起きないわけがない。帯にも「痴情ホラー」と書かれているのでサラッと明かしてしまいますと、序盤では「あれ、この二人どうなってんの?」くらいなノリが、「やっぱそうなるよね……」になり、終盤には「そこまでやるか!」になるわけですが、この作品にはもう一つ、ちょっと意外な「人間関係の秘密」が隠されています。「痴情ホラー」の「ホラー」部分の大半を担っているのがまさにその部分なのかと。ヨンビンとゴヌだけが知る、ヨンビンの秘密の趣味もとってもホラー。彼らは屋根裏部屋でこっそりハムスターを飼育しているのですが、単なる愛玩動物ではないのです……。
 ただでさえ火が付きやすい焼け木杭。これから始まる暑い夏、良からぬ恋の炎が燃え上がりすぎませんよう。

藤原 友代(ふじはら ともよ)
 北海道在住、韓国(ジャンル)小説愛好家ときどき翻訳者。
 児童書やドラマの原作本、映画のノベライズ本、社会学関係の書籍など、いろいろなジャンルの翻訳をしています。
 ウギャ――――!!ゲローーーー!!という小説が三度のメシより好きなのですが、ひたすら残虐!ただ残忍!!というのは苦手です。
 3匹の人間の子どもと百匹ほどのメダカを飼育中。














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