翻訳者の近況を伝えるコーナーもこれで3回目。今回は原稿到着順です。

 田口俊樹

 先週一週間ほど、妻のお供でバリ島に行ってきました。

 妻が旅行好きなので、夫婦円満のため、できるだけつきあうようにしているのですが、実のところ、外国旅行はあまり好きではありません。ラスヴェガス以外。

 その理由の最たるものは私自身の性癖にあります。

 私、見知らぬ人に——ホテルの従業員にも、土産物屋の店員にも、レストランのウェイター、ウェイトレスにも——無駄に愛想よく、無意味にへこへこしてしまうんですね。そんなことしたくないのに。

 日本でもそうなんですが、それが外国に行くと、なぜか顕著になって、もうやたらへこへこサンキュー連呼おやじになっちまうんですよ、これが。

 ほんとは年相応に、もっと堂々としていたいのに、条件反射というか、宿痾というか、どうにも治らない。

 でも、バリ島はよかったです。なんか知らないけど、バリの人って私みたいな人が多かったんです。とても他人とは思えないような人ばっかりで、私のへこへこがめだたない。気にならない。そこがとってもよかったです。すごくくつろげました。

 旅行中、翻訳ミステリーはキャロル・オコンネルの『愛おしい骨』(務台夏子訳)を読みました。いろんなことを考えさせられた一冊でした。

 ということで、いよいよ第一次投票の締め切りが迫ってきました。

 有資格者の翻訳者の方々、みなさんのご投票あっての翻訳ミステリー大賞です。

 何卒よろしくお願いします!!

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 越前敏弥

 新刊の『SIX-WORDS たった6語の物語』は、6語で「自分史」を語る英語版俳句の傑作集。おしゃれな装丁のせいもあって、書店では、クリスマスギフトの棚、語学書の棚、ディスカヴァー社の専用棚、海外文学の棚など、店舗によって扱いがばらばらで、探すのが大変。和歌・俳句の棚に置いてある書店まであって驚いた。

 われらが翻訳ミステリーについて言えば、探しに行って棚をまちがえる心配はほとんどないわけだが、それはほんとうによいことなのかどうか、とも思う。海外文学の棚からはみ出してしまうぐらいの作品がどんどん出てくるほうがよいのかもしれない。でも、そういうヒットは一過性のものだから、結局のところ、海外文学の棚の常連さんの数を増やすには地道におもしろさを伝えつづけていくしかないんだろう。

 先週はディーヴァー滞在記や若手の新連載が好評で、アクセス数が急増。新たにこのサイトを見てくださっているみなさん、どうぞ末長く翻訳ミステリーとこのサイトをよろしくお願いします。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen

 横山啓明

歩けない。右脚のふくらはぎに痛みが走る。うう……。昨日、日課のジョギングをしていたら、いきなり、痛みに襲われた。半袖のTシャツに短パン姿で脚をひきずりながら帰る。かっこ悪い&寒かった。半年ほど前と同じ。また運動不足になってしまうのか。こんなこと、若いころはなかったのに。やはり年なんだろう。幸い座業なので仕事には支障なし。ご安心ください、担当編集者様。さて、第一次投票まで一週間を切った。今、読んでいるのは『愛おしい骨』。どの作品を選ぶかは思案中。有資格者のみなさま、一緒に投票いたしましょう。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。夏が好きなのに虫が苦手。主な訳書:ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』ペレケーノス『変わらぬ哀しみは』など。ツイッターアカウント@maddisco

 加賀山卓朗

 クラシックのコンサートに行くと、曲が終わってもいないうちに断末魔の叫びのごとくブラヴォと大呼するおじさんがいる。各方面で非難されているはずなのだが、いっこうに滅びる気配がない。

 そしたらなんと先週末、私のふたつ横にいたのがそのブラヴォおじさん(のひとり)だった。なるほどあなたでしたか。ミステリで意外な犯人がすぐそこにいたような。よし、顔は憶えた、今度見かけた日にゃ……どうする?

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 上條ひろみ

恥ずかしながら、自他共に認めるネットオンチのわたし。ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』(池田真紀子訳/文藝春秋)は「ネット上に形成された仮想世界と現実世界の境界線が曖昧になりつつあること」がテーマということで、わたしに太刀打ちできるのか?と、ちと不安でしたが、もちろんそんな心配はいりませんでした。読んでいるうちに、とっても自然にわかるんですよ。どんな読者にもフレンドリーなディーヴァーさん、ほんとにいい人です。人間嘘発見器のキャサリン・ダンスが、意外にアナログ人間というせいもあるんですけどね。ということで、勝手に親近感を覚えてます、ダンスさん。靴フェチなところもね。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)

 白石朗

 角川文庫〈山田風太郎ベストコレクション〉の一冊として『幻燈辻馬車』が刊行された。わが最愛の明治物の傑作で、これまでにも数種の版が出ている。しかし今回の日下三蔵氏編集の角川版は特別だ−−週刊新潮連載時に話の収拾がつかず、予定どおり完結できなかったため、最終回に添えた「お詫び」のひと幕が収録されているのだ。しかも、ただのお詫びではない。思わずにやりとさせられる人物を登場させて本文と見事に融合した芸。これが読めただけでも満足だが、ちょっとのつもりで本文を読みはじめたら……。

 さて、翻訳ミステリー大賞の一次選考投票締切まであとわずか。事務局一同、有資格者の方の投票をお待ちしております。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊は『デクスター 夜の観察者』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 鈴木恵

 L・T・フォークス『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』の続篇を訳了(アメリカの小さな町を舞台に素人探偵団が活躍するピザマン・シリーズの第2弾、今回はミステリー成分も大増強!)。やっとゆっくり本が読めるようになり、「翻訳ミステリー大賞」の投票締め切りを前に、積みあがっていた未読書の山を崩しているところ。せっかく翻訳者が選ぶ賞なのだから、物語の面白さだけでなく翻訳のイキのよさにも着目したいと思っていたら、今年はそれにぴったりな作品が現れた。それをここで明かせないのは残念だけど、本命はこれでキマリ!

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なしorz。ツイッターアカウント@FukigenM

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