田口俊樹
三川基好という翻訳者がいました。大学の先生をしながら、ジム・トンプスンなんかを訳してました。
惜しいことに六年前に五十七歳で早世したのですが、私とは中学、高校、大学、さらには翻訳という仕事も一緒という関係で、ふたりといない私の友人でした。半世紀近くもまえのことになるけれど、高校のときには、ビートルズの武道館公演に一緒に行った仲でもあります。
で、今回のポール・マッカートニーの日本公演。三川も連れていってやろうとふと思い、形見のジャケットを着てみたんですが、どうにも寸法が合わない。あっさりあきらめ、悪いが、置いていくよ、と断わって、家人とふたりで東京ドームの最終公演に出かけました。
すると、なんてこったい、奇跡が起こりました。
ポールが新曲を歌いだしたとたん、ステージの背景のスクリーンいっぱいになんと“三川”という文字がでかでかと現われたのです!
私が連れていかなかったもんだから、自力で来ちゃったんですね。それも私が坐っていた二階席なんかじゃなくて、ポールとおんなじステージの上まで!
はい、こじつけです。映し出されたのは、ポールのニュー・アルバム「NEW」のロゴ(→こちら)だったわけです。でも、これ、絶対「三川」って読めるでしょ? あとからわかったんですが、関空に降り立ったときに着ていた法被の図柄もこれだったんですね。そうとは知らず、ステージにいきなり映し出されたときには、それはもうびっくり仰天でした。
驚くと同時に、なんだかね、すごく愉しくもなって、笑っちまいました。あの世から這ってでもやってきて、汗だくになってステージを上がってる三川というシュールな図が思い浮かんじゃって、それが可笑しくて。いや、ほんとうに。
実は私、ポールという人がいつからかなんかわざとらしい人に思えてしまって、行こうか行くまいか迷ったライヴだったんですが、そんなこんなで行ってよかったです。三川をステージに上げてくれたし、アンコールで私のカラオケの持ち歌の『ゴールデン・スランバー』を私と一緒に歌ってくれたし。ポールってけっこういい人かもね。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
先週から今週にかけ、生まれて初めて
入院しました。読書ができると思い
何冊か持ち込んだのですが、想像以上に
はかどりませんでした。たしかに
11月30日の投票締め切り前に、分厚い
あれをなんとか読み終えることができそう
なほど時間はとれたのですが、薬の副
作用とやらでぼうっとしたり、うとうとしたり。
それにまわりが病人しかいないので
(あたりまえですね)、気力がそがれ、
パワーダウンでした。
早くトレーニングを再開したいと思っている
今日この頃であります。
さて、翻訳ミステリー大賞一次投票の締切りが
迫ってきました。年一回のお祭りです。
うーん、どれにしようか……
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
商店街の福引きで時間旅行が当たっちゃったら、過去と未来とどっちに行きたいか。そんな話を、ひまつぶしに内輪でしたことがあるんですが、ぼくは断然、過去派。そのせいか、1930年代に作られた小津安二郎のサイレント映画(→こちら)を立てつづけに見ていたら、物語もさることながら、細部がとても面白い。80年前の東京にタイムスリップしたみたいなものですからね。断髪のモダンガールも、ヴィンテージ・カーも、当たり前だけどみんな本物。「マリー時間旅行社」に大金を払わずともできる、お手軽なお茶の間時間旅行です。けれどキングの『11/22/63』を読んで思うのは、いまその1930年に行けるとしたら、日本人は何を阻止したいと思うのだろうかということ。いやそれより、50年先の日本人が現在にタイムスリップしてきたら、はたして何を阻止したいと思うんでしょうか。考えずにはいられない今日このごろのニュースです。でもまあ、福引きで時間旅行が当たっちゃったら、とりあえず、このあいだの日曜日に戻って馬券を買いなおすかも。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:コンロン『赤と赤』 ウェイト『訣別のトリガー』 バリー『機械男』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
先日、二十数年ぶりに胃カメラの検査をすませてきました。しばらくサボっていた年一回の健康診断で要再検査といわれたのをいい機会に受けたんですが、いろいろ技術の進歩はいちじるしい。初回はひたすら苦しく涙目になった厭な記憶しかなかったのに、今回は楽に検査をおえることができました。検査後は一時間ほど回復室で横になって休めるという話だったので、いさんで読みかけの気になるミステリーをもっていったのですが、検査直前に投与された麻酔薬のおかげで、ページをひらくなり、すとんと寝込んでいました。ということで、はい、これからつづきを読みます。だって先が気になるんだもん。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。最新訳書はキング『11/22/63』、アウル『聖なる洞窟の地』、グリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』など。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
まもなく翻訳ミステリー大賞の1次投票締め切り。今年は1次から投票するつもりで、ほぼ5作は決めたつもりだけど、どこまでがミステリーの範疇にはいるのかって、けっこう迷いますね。自分としては、謎か犯罪か冒険のたぐいが少しでも盛りこまれていればOKだと思ってます。たとえばこの前の名古屋読書会の課題書だった『黒後家蜘蛛の会』なんて、謎解きといっても、日常の本の些細なことばかりが扱われているけれど、まちがいなく極上のミステリー。要は面白きゃなんでもいいんだろ、と思って投票します。
ダン・ブラウン『インフェルノ』、本日発売です。どうぞよろしく。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )
加賀山卓朗
仕事が一段落ついたので、BBC制作、アレック・ギネス主演の”Tinker, Tailor, Soldier, Spy“と”Smiley’s People“を見はじめた。昨年公開された映画『裏切りのサーカス』よりずっと地味で時代がかっているけれども、こちらのほうが自分のスマイリーもののイメージには近いかな(『裏切りのサーカス』は、イギリス情報部のオフィスひとつを取っても未来都市のようにかっこよかった)。まあル・カレですから、英語字幕を読んでもわかりにくいところもあるのですが、台詞などはわりと原作に忠実で、来月発売の”A Most Wanted Man”(邦題は『誰よりも狙われた男』……宣伝です)とほとんど同じ言いまわしが出てきてびっくりすることも。
翻訳ミステリー大賞投票のための読書もあとひと踏んばり、です。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
もうすぐ第五回翻訳ミステリー大賞一次投票の締め切りですね。翻訳者のみなさま、投票はもうお済みでしょうか? 多くの人たちに自信を持っておすすめする作品を選ぶとなると、責任を感じずにはいられませんが、各社で年間ベスト作品が発表されるこの時期は、毎年なんだかワクワクします。本好きにとっては悩ましいながらもいい季節です。年末年始のお休みに何を読もうかと考えるのも楽しいけど、迷ったら翻訳ミステリー大賞の一次通過作品を選べばまちがいなし。ともあれ、早く投票しなきゃ。
(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇)