翻訳者の近況を伝えるコーナー、5回目のきょうは、年末のご挨拶を兼ねて。
田口俊樹
何も悪いことはしてないのに、とうとう還暦になっちまった今年もあと一日を残すのみ。早いもんです。
歳をとっていいことなんかな〜んもありませんが、ただひとつ発見しました。
それはなんでもかんでも歳のせいにできること。仕事でもプライヴェートでもへまをしたら、おれも歳だなあ、なんて苦笑いまじりに言えることです。そんなふうに言うと、ほんとは若い頃からできなかったことでも、昔は能力があったみたいなふりができるところがグッドです。
これを繰り返していると、若い頃にはほんとにできたんじゃないかという自己暗示にかかり、おれってほんとはすごいやつだったんじゃないかって思えてくるから不思議です。同世代のご同輩にお勧めします。「なんでもかんでも歳のせい」積極思考。
よいお年をお迎えください。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
ああ、もう大晦日だ。今年もバタバタしているうちに暮れていく。ほんとうに慌ただしい。せめて大掃除をして、正月はゆっくりしたいものだ。
さて、今さらだが、Christa Faustの“Control Freak”を手に入れた。長年、読みたいと思っていた本だ。この作家は最近、クライム・ノヴェルを書いており、“Money Shot”はお読みになった方も多いのではないだろうか。しかし、情けないことに、読まなければならない本が山積み。これはまずい。来年は少し生活パターンが変わるので、読書の時間をもっと確保しなければ。
と、こんなことを思っている年の暮れであります。今年はペレケーノス『夜は終わらない』で締めくくることができました。それなりに充実した一年であったように思います。来年も突っ走るしかありません……ね。
それでは、みなさま、よいお年をお迎えください。
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
今年いちばん出会えてよかったなと思う本は、ラッタウット・ラープチャルーンサップの短編集『観光』。タイ人作家が英語で書いた現代タイの物語というのは珍しいから、東南アジア好きとして反射的に飛びついたんだけど、どれも実に豊かな物語なのでびっくり。欧米人作家が東南アジアを描いた作品というのはよくあるけど(タイ在住のイギリス人作家がラオスを舞台に描くミステリー・シリーズだってあるほど)、『ガイジン』に描かれた屈折なんて “ガイジン” には絶対書けません。個人的には表題作の『観光』と、カンボジア人の少女との切ない交流を描く『プリシラ』もよかった。来年もこういう出会いがありますように。では、みなさん、よいお年を。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
例年同様、仕事に追われる年末です。年明け締切という習慣は、いつになったらなくなるのでしょうか?(自分の怠け心を棚にあげてつぶやいたり)このゲラがすんだら、正月は翻訳ミステリー大豊作の一年で心ならずも読み逃した作品を手にとりたいもの。おなじ思いの方も多いと思います。大賞発表までのあいだ、当サイトでは惜しくも最終候補にならなかったものの読み逃しては損をするあの作品やこの作品を、名だたる目利きの翻訳者諸氏が熱烈推薦する企画が進行中。ご期待ください。小生の選外おすすめ3作品はこちらです。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊は『デクスター 夜の観察者』。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
『Zの悲劇』をどうにかクリスマスに入稿し、翌日からグァムへ行ってきました。日本語のおやじギャグを自在に駆使する現地人が多数。「サンキュー」と言えば「ヨンキュー」と返してくるし、「オツリハ500万ドル」とか、「ポニョポニョポニョ、ナマコノコ」とか、「オパピトゥース!」とか、楽しかったけど、こういうのは3、4日でじゅうぶんですな。
笑い疲れたせいもあって、向こうで読めたのはエリス・ピーターズの『聖女の遺骨求む』1冊だけ。一見堅苦しそうで、実は気軽に読めるこういう時代ミステリーこそ、旅のお供に最適……と思って帰国したら、なんと、来年早々にこのサイトにこの作品の濃密な紹介記事が載るとわかってびっくり。五代ゆうさんの次回のコラムをお楽しみに。
今年1年、当サイトをご覧になってくださってありがとうございます。来年も引きつづきよろしくお願いします。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen )
加賀山卓朗
唐のある詩人の除夜の作は、老いを嘆じながらも、こう結ばれます(一海知義『漢詩一日一首〈冬〉』より)。
風光人不覚 風光 人 覚(さと)らざるに
已著後園梅 已に著(つ)く 後園の梅
気づかなかったが、ふと見ると裏庭に梅が咲いている。来年もそんなことがありますように。皆さま、どうぞよいお年を。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
翻訳ミステリー長屋の紅一点、上條です。なぜいまごろ自己紹介……いや、「紅一点」って一度使って(なって)みたかったの。
ともあれ、今年も終わりですね。歳をとると一年たつのが早いこと! とくにこの時期は一日があっというまに終わってしまうような気がします。クリスマスが終わったと思ったら(ちなみに今年のケーキはりんごのタルトにしました)、大掃除して年賀状書いておせち作って……あっ、仕事もしないと。大好きなテレビを見ているヒマもありません。今はむっちゃ忙しいけど、年が明けたらゆっくり本を読むんだ。年頭にぴったりの本はなんだろう? なんて考えていると思わず手が止まってしまう……いかん、いかん。でもこの時期、各社が発表するミステリー・ベストテンのランキングを見て、読み残したもののなかからおもしろそうな作品をさがすのも楽しいんだよなぁ。
今年は翻訳ミステリー大賞シンジケートのおかげで去年よりたくさん本が読めました。翻訳ミステリー、今年は豊作でしたね。一次投票してくださった翻訳者のみなさん、ありがとうございました。大賞を獲得するのはどの作品でしょうか。今から楽しみです。
では、来年もおもしろい本がたくさん読めることを願いつつ、みなさま、よいお年を!
(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)