今回は通常の形にもどり、それぞれの翻訳者の近況報告です。こんなお題で、というご要望がありましたら、事務局宛にメールまたはツイッターでお知らせください。

 田口俊樹

 エジプトが大揺れしてます。

 アメリカもなんかあたふたしてる感じですよね。クリントンなんかコメントをころころ変えちゃって。

 CIAは何してたんだろう? なんて思っていたところ、たまたま仕事の関係で、「アフガニスタン」(渡辺光一著 岩波新書)という珍しく固い本を読んでいたら、面白い記述にぶつかりました。

 アフガニスタンという国は(2003年現在の話だけど)一度も国勢調査をしたことがないんだそうです。でも、人口は基本的に水増しして報告される。なぜか。国連の援助をより多く受けるためです。なるほどね。

 でも、おかしいのはこのあと。そんな国の人口をCIAは2002年7月現在で、推定人口、2775万5775人と公式ウェブ上で公表してるというところ。なんなの、この端数? タリバンに手こずりながら、いったいいつどうやって数えたっつうの? それにこの5と7の微妙な並び。しかも、前年と比べると、一気に94万人も増えてるんだそうです。

 この数字、おかしいと思った人はCIAの担当部局にひとりもいなかったんでしょうか。

 まあ、これだけをもってとやかく言うつもりはないけど……いや、言っちゃお。CIAも大したことないね。エジプト市民のことを考えると不謹慎なんですがね。でも、社会に隠然たる力を持ってるやつがヘマると、やっぱいい気味だって思っちゃいます、私。別にCIAに恨みはないですけど。でも、なんか肩で風を切って歩いていたヤーさんが犬のうんこ踏んづけたところを見ちゃったみたいで、つい。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 横山啓明

原書のリーディングと翻訳の日々。今日は今年はじめてのライヴへ行く。ブランキー・ジェット・シティーの三人のうちふたりが集まったバンド、PONTIACS。チケットはあっという間に完売だったが、手にした整理番号は5番。最前列へ行ける。モッシュとダイブの嵐が予想される。毎日、走り、筋トレをやっている(つもりだ)が、この歳でだいじょうぶだろうか……。でも、ま、大いに暴れて発散してきます。ちなみに、来月行くSLASHのライヴの整理番号もなんと18番。今年は幸先がいい。仕事も……ね。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 鈴木恵

米澤穂信『折れた竜骨』を堪能した。内容とは別に、翻訳者として面白かったのは、この作品が中世ヨーロッパを舞台にしているという点だ。当然ながら登場人物も地名も全部カタカナ。小山内さんや小鳩くんじゃなくて、アミーナやファルク。作者名を隠して読んだら、たいていの読者は翻訳作品だと誤解すると思う。翻訳ミステリーってこんなに面白いんだ——そう思うのではないか。なぜかというと、とくに会話部分の文体が、みごとなまでの翻訳文体なのだ(そんなものがあればの話だけど)。ものすごく端正な翻訳文体。米澤さんが意図的にそういう文体にしたのか、それとも、中世ヨーロッパを舞台にしたらおのずとそうなったのか、翻訳者としては、ちょっぴり興味がある。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

 白石朗

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 シンジケート読書会に行く途中、古本屋でグレース・メタリアス『楡の葉のそよぐ町』(山内英一訳・新潮社・昭和32年初版)を購入しました。当時の大人気ソープオペラ《ペイトンプレイス物語》のベストセラー原作。あとがきで本書の舞台であるニューイングランドの田舎町の特徴を説明する訳者氏の名調子をまず引用。

「……恐ろしく排他的で、旋毛曲りで、世間体ばかり気にし、ゴシップ好きで、隣りの人の噂さ話に明け暮れる人々の、変化もなければ、動きもない、窒息しそうなほど退屈な、物静かな町、干からびた誇りと偏見のじじむさい殻に片意地に閉じこもっていて、伸び伸びと呼吸(いき)一つ自由にできない、行いすました田舎町と思えばいい」

 本書はその町の隠された素顔が、ひとりのよそ者の登場をきっかけに暴かれていくという筋らしい(未読です、すみません)。こんな紹介を読むと、ニューイングランドはメイン州の田舎町を舞台にしたキングの作品を連想してしまうのが、ぼくのわるいクセです。

 というのもキングの近刊『アンダー・ザ・ドーム』(仮題)の舞台がチェスターズミルという小さな田舎町であり、想像を絶する大異変〈ドーム〉によってこの町の醜悪な素顔が否応なく暴かれる物語だからですし、物語のキーパースンのひとりがよそ者だからです。邦訳刊行を控えたいまの時期に『楡の葉のそよぐ町』を入手できたのも、なにかの縁と思わずにはいられません。読まなくちゃ。

 なお『楡の葉のそよぐ町』の訳者あとがきには、「原作は千二百枚にものぼる長篇である。(中略)割愛して、一巻にまとめなければならなかった」とあります。東西問わず重厚長大な作品が当たり前になった現在、やはり隔世の感がありますね。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊はマルティニ『策謀の法廷』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 越前敏弥

 翻訳者生活ではじめて体験したゲラ(校正刷り)三発完全同時進行地獄のさなか、東京・福岡・大阪の読書会をはしごしてきました。参加のみなさん、楽しいひとときをありがとう。心地よい疲れってこういうものですね。読書会のレポートは今夜掲載し……ます、たぶん、はい。いまから書きます。

 そんなわけで、『七人のおば』のほかはほとんど読めなくて、ゆえあってクリスチアナ・ブランド『招かれざる客たちのビュッフェ』に毎日少しずつ目を通したぐらい。むちゃくちゃ忙しいときは、こういう粒ぞろいの短編集こそがよき伴侶になるんだよね。毎日15時間労働だった予備校講師時代は、寝る前の30分に『黒後家蜘蛛の会』の短編ひとつかふたつを読むのが何よりの楽しみだった。こういうのは翻訳ミステリー特有の魅力のひとつだから、各社のみなさん、これからもどうぞ、たくさんご紹介よろしく。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen

 加賀山卓朗

 ベン・アフレック監督・主演の『ザ・タウン』を観ました。原作『強盗こそ、われらが宿命』をうまく2時間にまとめていますが、プロット上、大きくちがうところがある。聞くところによると、試写テストでこちらのほうが評判がよかったらしい。FBI捜査官も、映画のほうがタフかな。アフレックは無精ひげ生やしてもあまり強盗っぽくないけど、相棒/ほとんど兄弟/同居人のジェレミー・レナー(『ハート・ロッカー』)が抜群の存在感でした。

 あと大阪の読書会の皆様、愉しい時間をありがとうございました!

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 上條ひろみ

「ミステリマガジン」2011年3月号の「トッカンお茶会報告〜ガールズトーク」がすごくおもしろかった。『トッカン——特別国税徴収官——』の著者・高殿円さんと女性書店員さん五名、「ミステリマガジン」編集長を含む早川書房の女性社員さん二名が、フルーツパーラー万惣でデザートを食しながら(もちろん『トッカン〜』について)語るという「女子会」です。この独特のノリは女子にはたまりません。映像化された場合の鏡特官やぐー子のキャスティングを考えたり、こういうのって盛り上がるんだよね〜。個人的にはツンデレでシベリアンハスキー似の鏡特官役は及川光博なんかもアリだと思うんだけど、どう? 

 ちなみに、『トッカン〜』はとくに悪質な事案を担当する国税特別徴収官(トッカン)・鏡を上司にもつ新米徴収官ぐー子が、汗と涙とぬかみそにまみれながら奮闘して難問を解決し、人間としても成長していくお仕事系エンターテインメント。映像化を激しく希望します。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)

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