田口俊樹

 同じ長屋の住人、鈴木恵さんが去年出会った本のベストワンに挙げておられた『観光』(古屋美登里訳、ハヤカワepi文庫)、それほど言うならと思い、私も読みました。

 すんばらしい! のひとこと。久々に短篇集を一気読みしました。

 何よりタイ系アメリカ人の作者、ラッタウット・ラープチャルーンサップの才能にくらくらしました。ジャンルで言えば、純文学ということになるかもしれないけれど、こむずかしいところなんか全然なくて、誰にも勧めたいです。

 読後、こんなに心をさわやかにしてくれる小説ってそうそうないと思います。

 ただ、唯一難点を挙げると、作者の名前でしょうか。

 どうしても覚えられない。空(そら)で言えなきゃファンとは言えませんね、田口さん、なんて鈴木さんには言われちまいましたが。そう言えば、担当編集者もちゃんと覚えてたな。

 となると、これは私だけの難点か。やっぱ歳のせい? かもしれません。もちろん、積極思考の「歳のせい」だけど。

 だって、私だって若い頃にはタイ人のボクシング・チャンピオンの名前とか、ちゃんと覚えてたんだら。ポーン・キングピッチとか。全然、覚えにくくない? あ、そう。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 横山啓明

 一部ツイッターなどで流れていますが、4月13日(水)にジム・トンプスン祭りを

開催することになりました。

映画“The Killer Inside Me”の公開に合わせ、トンプスンに関するトークショーです。

ゲストは滝本誠、吉野仁、扶桑社の冨田健太郎の各氏。そのほかにもシークレット・ゲスト&

プレゼントもあります。

えっ? トンプスンって誰? 読んだことがない、ノワールなんか知らないという人もOK。

おもしろそうだと思った方、参加歓迎です。美男美女を多数そろえてお待ちしております……

詳細はまもなくシンジケートのページで発表いたします。乞う、ご期待。

本を仲立ちとして、人と人が出会える楽しい場ができないかと去年、

エルロイの翻訳でお馴染みの佐々田雅子さんと

(酔っ払って)盛り上がり、実現に向けて動き出した次第です。

今回はトークショーですが、今後も誰でも気軽に参加できる場を作っていこうと

思っています。

みなさま、よろしくお願いいたします。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 鈴木恵

『アランの戦争——アラン・イングラム・コープの回想録』は題名だけ見ると、かたくるしいノンフィクションに思えるけど、じつはバンド・デシネ、つまりフランス産の劇画。第2次大戦でヨーロッパ戦線に従軍したアメリカ兵の体験談だ。激しい戦闘場面があるわけではなく、軍隊生活や占領地住民との交流を淡々としたエピソードの積み重ねで描いているだけなのだが、面白い伝記を読んだような読後感を覚えた。読んでいて思い出したのは、『水木しげるのラバウル戦記』。これってまさに、ヨーロッパ戦線版の『ラバウル戦記』だと思う。どちらの作品もつまるところ、水木二等兵やアラン・コープ伍長という人間が面白いのだ。どっちもオススメ。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

 白石朗

 読売新聞の「21世紀活字文化プロジェクト」の一環「新!読書生活」で、光栄にも『マルドゥック・スクランブル』『天地明察』の冲方丁さんと対談しました。冲方さんのキング愛に圧倒されたひとときでした。連載中の『水圀伝』のヒントのひとつが『悪霊の島』だったとは。キング話だけではなく、ウフコックとバロットのお話もうかがえて楽しいひとときでした。紙面では2月24日掲載、そのあと読売のサイトにも掲載されましたので、ご興味のある方はこちらをどうぞ。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊はマルティニ『策謀の法廷』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 越前敏弥

 昨秋以来、会う人会う人に薦めてきた〈ヘヴンズ ストーリー〉が、ベルリン映画祭で国際批評家連盟賞とNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)の2冠受賞! ここまで神の視点に徹した映画、ここまで人間の愚かさと絶望を真正面から描ききった映画、ここまで映画作家が商業論理を無視して作りたいものを作った映画は、10年に1作あるかないかだと思う。当分DVD化しないらしいから、みなさん、ぜひ劇場へ足を運んでください。4時間38分、絶対に損はさせません。

 それにしても、瀬々敬久といい、園子温といい、若松孝二御大といい、映画興行のあり方に一石を投じた近年の長大な傑作の作り手がみなピンク映画の出身だというのは偶然じゃあるまい。出版人だって学ぶべきことは多いはず。

 話は変わりますが、拙著『日本人なら必ず悪訳する英文』、今週のはじめに刊行されました。タイトルのあざとさに眉をひそめているみなさん、どうかご寛恕を。翻訳表現のおもしろさ、翻訳書の楽しさを、ふだんそういったものとあまり縁のない人たちにも知ってもらいたくて書いた本です。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen

 加賀山卓朗

 泣いてしまった、しかも大野晋『日本語の教室』で。

 この本、「私のことを打(ぶ)った」のコトとは何かとか、日本語の過去形「〜た」の成り立ちとか、日頃の業務に役立つ情報満載なのですが、胸打たれたのは、著者が日本語のタミル語起源説で学会から総攻撃されたときの話。引用せずにはいられません。「誹謗は度を加えました。私は考えました。今私にとって必要不可欠なことは何か。自分の研究を行けるところまで進めること。すでに六〇歳を越えていて余命はいくばくもない。この研究は古代日本語が分っている人間でなければできない。自分のこれまでの研究を、私は自分のぎりぎりの研究だと思って来た。しかしそれらの仕事で得た古代語二万語の知識は、実は今のこの研究、日本語とタミル語との比較研究のための準備だったのだ。研究はこれからである。そう考えて私はこの攻撃をやりすごすことにしました」——告白すると、私の頭に浮かんだのは、ディック・フランシスの最良の作品群の主人公たちです。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 上條ひろみ

 ストレス解消法のひとつはテレビを見ること。とくに国内の連続ドラマ。恋愛ドラマは苦手で、刑事もの、法廷もの、病院ものなど、あんまり恋愛がからまないお仕事系が好き。このところ日本のドラマは刑事ものが多いので、謎解きの過程や伏線の張り方につっこみを入れながら楽しんでいます。本とちがって犯人はすぐにわかっちゃうことが多いけど(キャスティングとかでね)、2010年7月〜9月にテレビ朝日系列で放送の「熱海の捜査官」と、同10月〜12月にTBS系列で放送の「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」(長い!)は、不思議系で全然わけがわからないまま話が進んでいくので、めちゃめちゃはまりました。「熱海の捜査官」は懐かしい「ツインピークス」へのオマージュがちりばめられていて、決めゼリフは星崎捜査官(オダギリジョー)の「わかっちゃいました」。「SPEC〜」は同じく不思議系ドラマ「ケイゾク」の続編的内容で、決めゼリフは当麻捜査官(戸田恵梨香)の「いただきました」。おんなじタイプですね。どちらも小ネタがすばらしい。現在のお気に入りは日本テレビ系列で放送中の「デカワンコ」。とにかくバカバカしくていいです。

そういえば、素人探偵ものが多い二時間サスペンスドラマには、コージーミステリ的要素がありますね。ちょっぴり設定が強引(?)だし、シリーズ化しているものもあるし。わたしもコージーミステリを訳しながら、日本人俳優ならだれに演じてもらいたいか、キャラクターのキャスティングを考えて楽しんでいます。たまにね。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)

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