田口俊樹
私は長いこと〈フェロー・アカデミー〉という翻訳の専門学校で講師をしてるんですが、授業のあと、生徒たちと学校の近くで飲むのが、老後の数少ない何よりの愉しみになっています。
その席でのこと。
先生ってセクハラ発言多いですよね、なんて言われてしまいました。
ええ!? と驚くわけもありません。ま、確信犯ですから。
いや、私だって、下ネタなんかには条件反射的に眉をひそめ、誰かがセクハラっぽいことなど言おうものなら、きみ、そういう失礼なことを言うのはやめなさい、なんて諭すロマンスグレーの紳士でいたい気もないではないのですが、それより何より、まわりにうけたくて——実際にはうけなくても——ついつい言ってしまうんですね、その手のこと。
ま、それはともかく、その席でちょっと面白かったのは、生徒のひとりがこんなことを言ったことです。
「わたしなんか先生に、おまえにだけは絶対にセクハラしないって言われたんですよ。それも立派なセクハラです」
ええ!? とこれまた驚くまでもありません。そう言われれば、確かにそのとおりかもしれません。
でも、考えてみるに、セクハラをしたら、それはやっぱりセクハラですよね。また、セクハラをするぞって言うだけでも、セクハラになりそうです。だけど、セクハラはしないぞって言ってもセクハラになるのって、論理的にはなんか矛盾してません?
こういうところ、セクハラって微妙ですねえ。ちょっと面白い。だから、やめられない? あ、結論、まちがえました。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
おいおい、なくなっちまったぞ! まずい。どうしたらいい。頭がくらくらした。いや、待て。削除していないんだから、なくなるはずがない。落ち着け。ううう。どうして表示されない。いったい、どこにいちまったんだ……これ、数日前のおれの姿。トンプスン祭りの参加希望者のメールが表示できなくなったのだ。サポートに電話しようと思ったのだが、番号がわからない。不親切だ。みんな、こんなわけのわからんものを使いこなせているのだろうか?
ああ、やはり、おれってパソコンやケータイを使いこなせない時代遅れの男なのだな。長屋の住人の田口氏と上條氏もパソコンは苦手のようだが、おれもここでカミング・アウトしよう。
途方に暮れながらも、適当にいじっていたら、なんとかメールの表示方法がわかった。ふー。でも、まったく使いこなせていないな、Gmail。
さて、トンプスン祭りの参加申し込み、三十名を超えました。定員になりしだい締め切らせていただきますので、参加ご希望の方は、なるべく早めにお申し込みください。よろしくお願いいたします。
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
スティーヴ・マルティニ『策謀の法廷』を読んでいるところ。マルティニの本邦デビュー作『情況証拠』を読んだときは、アメリカの裁判て、真相を究明するプロセスというより、検察・弁護側双方の知力を尽くした戦いなのね、とびっくりしたものだったけど、この法廷での駆け引きが、なんといってもリーガル・サスペンスの醍醐味。『情況証拠』ではたしか、陪審員を選任する段階からもう戦いが始まってるんですよね。今回の依頼人も、不利な証拠ばかりがそろっている殺人事件の被告。はたしてマドリアニ弁護士はこの依頼人をどう救うのか。では、失礼して続きをば。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
当サイトの記事『第2回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションのお知らせ その1』で告知されていますように、合宿企画として文藝春秋の翻訳書担当の永嶋俊一郎氏ともども「キングと『アンダー・ザ・ドーム』部屋」を担当することになりました。同書は四月末刊行予定ですが、いわばその前夜祭。ネタバレに充分配慮しつつ、この本ができるまで(ひいては翻訳書が世に出るまで)のあれこれをお話しようかと思っていますが、むしろみなさんとキング作品を肴にファン・トークで盛りあがりたいのが本音です。同好の士のみなさんをお待ちしております。会場の関係で定員がありますので、お申込はお早めに。……さて、それまで読書と仕事をあとひと踏んばり。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊はマルティニ『策謀の法廷』。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
わが師・田村義進との対談がきのうからフェロー・アカデミーのサイトで公開中。よかったらご一読を。後編は25日公開。自分が翻訳学校にかよっていた時期のことを師匠の前で話すというのは、やはり照れる。
それにしても、最初の授業で訳したのがジェイムズ・エルロイの作品だったというのは、自分にとって最大の幸運だった。ほかのどんな作家よりも歯ごたえのある原文、ことばに力のある原文と向き合ったことで、翻訳のきびしさもおもしろさも桁ちがいのレベルで堪能できた。
そのころ扱っていたのが、アンダーワールドUSA3部作の第1作『アメリカン・タブロイド』。そして、3部作の完結篇 Blood’s a Rover は今年5月に田村訳で翻訳刊行予定。なんと15年がかりの大偉業。未体験のかたは、第2作『アメリカン・デス・トリップ』と合わせて、この機会にまとめてどうぞ。
あ、その前に、同じ文春から出たばかりの拙訳『夜の真義を』もぜひ。小説の愉しみがたっぷり詰まったヴィクトリアン・ノワールです。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen )
加賀山卓朗
私は「話せばわかる」人間が好きです。話してもわからない人とか、まして話ができない動物は(いや、できるのかもしれないけど)苦手。でも家にいる低学年の子は、もうグッピーやテトラでは満足できません。哺乳類でないといけない。哺乳類ということばは使わないにせよ。いつの間にかそれが犬になっていて、柴犬とか何々テリアとかいった犬種名が出ている。いずれにしろ活発なんですよね? ああどうすればいいのか……つづく。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
前回に引きつづき、テレビの話。
テレビの街頭インタビューなどで、よく画面の下に字幕が出ますよね。耳の不自由な方に配慮してのことでしょうが、「てにをは」やことばの使い方のまちがいをそのまま文字にされると、すごく気になってしまいます。一般人がいきなり道でインタビューされればドギマギしちゃうから完璧な日本語で話せなくてもしかたないし、聞くだけならそんなに気にならずにすっと流せるんですけど……かといって、たまにまちがいを訂正した字幕になってたりすると、あれもなんか上から目線でカチンときません? じゃあどうすりゃいいんじゃ〜! と言われそうですが、ともあれ、わたしもことばを文字にするときは(それが仕事なんですけど)気をつけなければ、と思ったしだいです。やっぱりテレビは勉強になるなあ。
あ、翻訳ミステリーの話もしなきゃ。最近読んでおもしろかったのは、チャック・ホーガン『流刑の街』(加賀山卓朗訳/ヴィレッジブックス)。クライムノベルなのに、若い主人公のストレートさがさわやか。アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『死刑囚』(ヘレンハルメ美穂訳/RHブックス・プラス)も衝撃的ですごく考えさせられる作品でした。エーヴェルトが部下の女性警部補とダンスをするシーンがいい。
(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)