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 田口俊樹

 まずはお詫びから。

 前回このコラムで、私、「天皇に納税の義務はない」と書きました。

 実は、あるんですね。

 読んでくださった方からご指摘を受けてわかりました。遅ればせながら、ご指摘してくださった方にお礼申し上げます。

 天皇も所得があったら、われわれ庶民同様、所得税を払う義務があるんですね。実際に天皇がこれまでに確定申告をしたことがあるのかどうか知りませんが、とにかく「納税の義務がない」わけじゃない。

 こういうことは思い込みで書いてはいけません。いい歳をしてお恥ずかしいかぎりです。

 ご指摘を受け、すぐに削除しましたが、改めてお詫びし、訂正させていただきます。

 そんなあとにまことに心苦しいのですが、宣伝をば。

 本サイト管理人の杉江松恋さんが六本木の青山ブックセンターでなさっている「杉江松恋の○○話」。前回は本サイトでも告知がありましたが、訳者の黒原敏行さんをゲストに、ドン・ウィンズロウの話題作『サトリ』が取り上げられました。今回(6月15日午後7時)はキース・ドノヒュー著、拙訳の『盗まれっ子』です。あんまり話題作じゃないですけど。

 どんな作品かというと、西洋の取り替え子伝説を下敷きにしたふたりの少年の成長小説、このふたりが「ありのままの人生を受け入れるまでを描いた」大人のファンタジーです。

 40分ほどの立ち見のトークショーですが、ちょうど今日から予約募集をしていますので、時間と関心のある方、来ていただけたら嬉しいです。詳細は http://www.aoyamabc.co.jp/event/sugietalk-vol7/ をご覧ください。

 以上、今回はお詫びと宣伝でした。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 横山啓明

そして、砂漠は美しかった。焼けるように熱い砂を

すくいとると、指のあいだからさらさらと落ちていく。

砂粒と砂粒をくっつける湿度は、ない。

風紋を刻んだ砂丘の連なり。

静かだった。かすかにそよぐ風の音しか聞こえない。

叩き割った鏡の破片を車から取り出し、

砂丘にさしていった。鏡は空を映し出す。

鏡の配置を吟味し、調整した。

美しい。

おれはバラード『ヴァーミリオン・サンズ』

世界を思い描いていた。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 鈴木恵

 ロノ・ウェイウェイオールの正統派ハードボイルド『鎮魂歌は歌わない』『人狩りは終わらない』を立てつづけに読んで、頭がすっかりワイズクラック(へらず口)モードになっていた過日の昼下がり。

 近所の弁当屋に行って290円の海苔弁をひとつ注文すると、「こちら、おハシは何膳おつけしますか、お客さま!」と大きな声で訊かれる。

「290円の海苔弁てのはパーティ用か何かか?」と思わずへらず口を返しそうになっているワタクシ。感化されやすいタイプです、はい。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ピザマンの事件簿2/犯人捜しはつらいよ』『ロンドン・ブールヴァード』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

 白石朗

 2週間も前のことで恐縮ですが、去る5月13日の〈スティーヴン・キング酒場〉にご来場のみなさま、Ustream 中継をごらんになったみなさまにこの場を借りて御礼を申しあげます。滝本誠さんや風間賢二さんなど名うてのキング通の諸氏もいらして、貴重なお話をうかがうことができました。愛読者の方々とお会いできたことも楽しかったなあ。当日の模様は杉江松恋さんによるエキサイト・レビューの記事〈『アンダー・ザ・ドーム』刊行記念イベント「スティーヴン・キング酒場」が大にぎわい〉や LiveWireサイト内の Ustreamアーカイブでどうぞ。

 そんなふうに浮かれていた反動で仕事漬けの毎日ですが、そんななか読んだニック・ピゾラット『逃亡のガルヴェストン』がすばらしい。死の予兆と血煙と硝煙のオープニングから胸に迫るラストまで、主人公の魂の逃避行に引きずられて一気読みでした。あと、作中に出てくる地名が懐かしかった。ジョン・グリシャムの初期作品にはアメリカ南部、それもメキシコ湾沿岸の街がよく出てきたからで、地名のあれこれにふっと訳していた当時のことなどを思い出しました。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最新訳書はキング『アンダー・ザ・ドーム』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 越前敏弥

 レギンスとトレンカの意味を逆に覚えていたことがつい最近判明し、あわてていろいろ調べてみた(暇なやつ、とか言わないでね)。いまの日本でのファッション用語としては、くるぶしまでで切れているのがレギンス、足の裏まで引っかけるのがトレンカなんですか、やっぱり。逆だと思ってた。正確に言うと、レギンスは両方の形状のものを合わせた総称で、足の裏まで引っかけるのが「トレンカレギンス」なんだろうけど、一般にはそう呼ばれていないよね。

 いや、言いわけめくけど、取りちがえていた原因は、英語のleggings(発音は「レンス」ではなく「ギンズ」)という単語の意味は日本のファッション用語よりはるかに広く、脚絆だの、すねあてだの、ゲートルだの、幼児用防寒ズボンだの、そしてもちろんスパッツだの、ありとあらゆる時代や年齢層で用いられるからで、なんとなくこのほうが布の面積が広いように感じていたんです。

 一方、トレンカの語源はスキー用語らしいんだけど、諸説あってどうもはっきりしませんね。英語では stirrup pants(あぶみ型パンツ)というそうで、これは納得。

 ともあれ、いい勉強になりました。「なんの勉強?」とか訊くなかれ。こういう調べ物のひとつひとつが翻訳の肥やしになるんですよ、肥やし、肥やし。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen

 加賀山卓朗

 ある会で韓国の話が出たついでに、長屋の鈴木さん上條さんに勧められて、パク・チャヌク監督『オールド・ボーイ』と『親切なクムジャさん』を見る。

 感想は……絶句。韓国とか日本とか、そういうの超えてますね。過剰な残酷さと、不気味にきれいな映像。こういうものを作り出す人間の業について考えたり。でも目と耳は惹きつけられる。

 復讐三部作の残りのひとつ『復讐者に憐れみを』も見るつもりだけど、貧血起こさないか正直心配。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 上條ひろみ

 コージーミステリの主人公は割と無鉄砲な人が多くて、読者をハラハラさせてくれるけど、ジョン・J・ラム『嘆きのテディベア』のブラッドリー・ライオンさんはちとちがう。思いつきで突っ走ったり、まわりに心配をかけまくったりしない。そして何より、妻に隠し事をしない! これこれこういう事情でこうするからね、と妻にちゃんと事前に説明するのだ。これにはわれらがコージー番長・杉江氏も解説で感心(?)しているほどで、妻から見ればほんとうによくできた夫。しかも結婚二十六年になるのに妻をこよなく愛し、妻の趣味であるテディベアも夫婦そろって楽しんでいる。もうラブラブなんである。へっ、軟弱な男、と思います? ところがブラッドリーさん、サンフランシスコ市警に二十五年勤務していた元刑事なんですよ。長年の経験による勘とたしかな推理で事件にのぞむので、素人探偵といってもすごくレベルが高い! 「危なっかしくて目が離せないわ〜」というのもコージーのよさだけど、「なんなのこの安心感は」と思いながら読むコージーというのも新鮮でした。なんと著者のラムさんも元警官でテディベア好きで、ブラッドリーさんと似たような経歴なんだって。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)

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