こたつミカンに、エヴァン・ディレイニー・シリーズ!
どうもどうも、皆さんご無沙汰しております。前回こちらにお邪魔した時には、冒険小説のことなんざべらべらと語りまして、今回いきなりメグ・ガーディナーを語っちゃう、というのもなんだか節操があるような無いような微妙な気分なんですが、細かいことは気にしない気にしない。
さあ皆さん、スリルお好きですか?
ページを繰る手が止まらないエンターテインメント、お好きですか?
熱血ヒロインと皮肉屋イケメンの、ハラハラさせられるラブロマン、お好きですか?
アー・ユー・レディ?
今回ご紹介するのは、アメリカ生まれで現在はイギリス在住の作家、メグ・ガーディナーの「エヴァン・ディレイニー・シリーズ」。イギリスで出版されていた第一作『チャイナ・レイク』を、かのスティーヴン・キングが移動中の退屈しのぎに読み始めたところ、「なんだこれは面白いじゃないか!」てんで大コーフン。ブログで激賞したところ、とんとん拍子にアメリカでの刊行が決まったとやらいう、いわくつきのシリーズです。
現在、『チャイナ・レイク』(ハヤカワ・ミステリ文庫、山西美都紀訳)、『裏切りの峡谷』『暗闇の岬』『死の同窓会』(以上三冊、集英社文庫、杉田七重訳)の四冊が翻訳されています。
このシリーズについては、登場人物から語ったほうが早いと思うので、まずは主なキャラクターをご紹介します。
エヴァン・ディレイニー: リーガル・リサーチを引き受ける弁護士でジャーナリスト、SF作家(!)の顔も持つ。父親は元海軍大佐、兄は現役の海軍中佐で戦闘機パイロット、根っからの海軍一家に生まれ、海軍の街「チャイナ・レイク」に育つ。「ボーイッシュだと周囲に評されるわたしの容姿——短距離走者の足、控えめな胸、キャラメルのような柔らかな茶色のくしゃくしゃの短い髪」(『チャイナ・レイク』)。少年のような容姿に、人間ダイナマイト並みの熱い血が流れている、爆走系主人公。
ジェシー・ブラックバーン: エヴァンの恋人。黒髪に青い目の優秀な弁護士(らしい)。水泳で世界ランカーだった元アスリート。ひき逃げされて脊髄を損傷し、松葉杖をつけば少しは歩けるが、普段はスポーツタイプの車椅子を愛用している。スマイリーマークのネクタイを受け狙いで締めてエヴァンのひんしゅくを買ったり、スターウォーズのTシャツを着て法廷に出て、裁判長のお叱りを受けたりするお茶目な面も。障碍を負った自分を、恋人エヴァンが見捨てなかったことに対して、複雑でひねくれた感情を抱えている。
テイラー・ディレイニー・ボッグズ: エヴァンの従姉妹。(サブキャラですが、この人を書かないわけにはいきません!)ゴシップ好きのおせっかい焼き。一族の女性たちは彼女から芸能ゴシップを仕入れている。近ごろでは「ザラ伯爵夫人のランジェリー」販売代理人なる仕事につき、「めくるめく繊細」というエロ系ランジェリーを売りまくる。事件の合間にハリケーンのように現れ、エヴァンの血圧を上げる怪女。
とまあ、そんな感じですが、このエヴァンとジェシーのコンビ、そりゃもうとんでもない事件に次から次へと巻き込まれる、巻き込まれる!!
第一話『チャイナ・レイク』では、エヴァンの兄ブライアンの別れた妻タビサが、カルト教団に入信。ブライアンに養育権のある、六歳のわが子ルークをタビサが取り戻そうとして、勃発するエヴァン・ディレイニー VS カルト教団の死闘! エドガー賞受賞作。
第二話『裏切りの峡谷』は、ジェシーが障碍を負ったひき逃げ事件の裏に隠された、衝撃の事実を探ります。派手なアクションとスリル満点のクライムサスペンスながら、エヴァンとジェシーの屈折した恋愛感情を丁寧に描き、これまた飽きさせません。
第三話『暗闇の岬』は趣向を変えて、エヴァン名義の偽造クレジット・カードを大量に持っていた女性の遺体が発見されます。エヴァン・ディレイニー、破産!? クレジット・カード詐欺を端緒に、事件の真相を探るエヴァン&ジェシーのコンビ。
第四話『死の同窓会』——エヴァンのハイスクール時代の同窓生が、ここ数年間で次々に不可解な死を遂げていた。エヴァン自身にも忍び寄る魔の手。事件の裏には、ハイスクール時代に起きた、ある「事故」の影が——。
「このふたり、この先いったいどうなるの!?」
毎回、毎回、恐怖のどん底と手に汗握るアクションと息が詰まるような爆笑との間を、ぶんぶんと振り回され、しかもなおエヴァンとジェシーの恋の行方から目が離せません!
彼女たちが巻き込まれるのは、その後の人生を変えてしまうぐらい深刻な事件ですが、変に深刻になりすぎないところが、このシリーズ最大の魅力です。緊迫感が高まり、手に汗を握りすぎて読者が息切れを起こしそうになると、突然襲ってくる爆笑名場面・珍場面の数々。「やられた!」と叫んで本を握ったまま吹き出すこと請け合いです。
とびきり重いボールを、あえて軽やかに投げる。
メグ・ガーディナーの離れ業、ぜひご賞味ください!!
福田 和代(ふくだ かずよ) |
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◇1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。2007年、陸の孤島と化した関西国際空港を舞台にハイジャック犯と警察との攻防を描いた『ヴィズ・ゼロ』 (青心社刊)で力強いデビューを飾る。専門知識を活かした取材力と高いリーダビリティが話題となった。また2008年に上梓した長篇第2作、テロリストが起こす未曽有の東京大停電とそれに立ち向かう人々を描いた『TOKYO BLACKOUT』(東京創元社刊)も大好評を博した。最新作は、<死>の匂いを嗅ぐ異能の刑事を描く『怪物』(集英社)、金融機関のシステムエンジニアの日々の活躍を描く『リブート!』(双葉社)、倒産間際の病院を舞台にした青春小説『ヒポクラテスのため息』(実業之日本社)。 ●公式サイトはこちら→ 福田和代 ONLINE ●日々の呟きはこちら!→ 福田和代 on Twitter! ●雑誌掲載など最新情報はこちら!→ Visibility Zero(ブログ) |