田口俊樹
夢の話なんですけどね。つい先日、起きたあとでもあまりに鮮明に覚えてたんで。
どう考えても新聞で読んだふたつの記事——ゾンビブームとマラソンブーム——が基になってると思うんだけれど、気づくと私、マラソン走ってるんですよね。全然そんな趣味ないのに。なんかゼッケンまでつけて。で、まわりがみんなゾンビなの。ゾンビ・マラソン。
そのゾンビがみんなやけに慣れ慣れしくて、近寄ってくるんです。最初は気持ち悪いだけだったんだけど、そのうち段々怖くなりましてね。ダッシュして走り出すと、もうゾンビはついてこられない。なんせゾンビですからね。でもって、私が一位でゴールイン。
すると、そのさきがなんか知らないけど、阿波踊りの会場みたいになってて、ゾンビが踊ってる。これはもうマイケル・ジャクソンの『スリラー』ですね。でも、なんで阿波踊りなのか。なんで「踊るゾンビに見るゾンビ、同じゾンビなら、踊マラソン、ソン!」なんつって踊らなきゃならんのか(あ、これは今つくっちゃいましたけど)。
でも、同時に町内会の盆踊り大会っぽくもあって、ふと見ると、この長屋の面々と思しいゾンビが手づくり感あふれる屋台を出してて、越前ゾンビと白石ゾンビが焼きそばを焼いてるの。これは先日、読書会で二本松に行って(主催者の杉澤さん、ありがとうございました!)B級グルメ全国第四位のなみえ焼きそばを食べた(旨かったあ!)せいですね。
で、そのうちなんかの順位が発表されはじめ、なんと長屋焼きそばがグランプリ。そこからは翻訳ミステリー大賞の授賞式会場に変わって、拙訳は候補にもなってないのに、マラソン一位ということでまわりに促され、なんか悪いっすねえってな感じで、へこへこしながら表彰台に向かうところで眼が覚めました。夢って決まって最後までいかないんですよね。そんな様式美にも則った、いやあ、実に愉しい夢でした。もう一回再放送で見たいくらい。
ということで、大賞の授賞式およびコンヴェンションは来たる4月14日(土)です。みなさん、奮ってご参加ください、ってかなり強引な〆ですね、はい。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
『マルタの鷹』講義 を買いました。
仕事の合間に少しづつ読んでいますが、
とてもスリリングです。
ミステリ翻訳の勉強をしている人は、
必読ではないでしょうか。
今、尻に火が付いているので、時間をかけて
じっくり読めないのが残念。
あ、そうだ。翻訳ミステリー大賞二次投票の
締切りも迫っているのに、まだ、あれを読んでいない。
忙しいときって、やりたいことや読みたい本がいっぱい
でてきますね。
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
映画の公開に合わせて新装版が出たジェイムズ・サリスの『ドライヴ』。主人公のドライバーは目立つことを本能的に避けて暮らしている。「都市の一部でありながらもそこから距離を置くという匿名性こそ、彼が都市にあって何より愛しているものだった」サリスはこういう人物が好きなようで、『黒いスズメバチ』の主人公ルー・グリフィンは友人にさえねぐらを教えようとしない。こういう生き方は、大人になったら知能犯になりたいと思っていた私のいけない嗜好にもぴったりで、それだけで激しく共感しちゃいます。同好の士にはお薦め。て、そんな人はいないか。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『生、なお恐るべし』『ピザマンの事件簿2/犯人捜しはつらいよ』『ロンドン・ブールヴァード』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
仕事に詰まっていつもどおり手近な本の適当なページをぱらっとひらきました。江戸時代の慶長19年(1614年)が舞台の時代小説、雑誌発表は昭和33年〜34年です。たまたまひらいたページで目についたのが「五メートルばかりへだてて、夜の天空から滔々と滝がなだれおち〜」という文章。
あれ、時代小説でメートル法表記? と、思ってさらにめくると「種子島の銃弾も貫通しない厚さ三センチの板戸(中略)土蔵の壁はさらに十センチの土砂をつめこんだ板で〜」や「刃わたり一メートル」「巻物は十メートルも後方の路上に〜」といたるところにメートル法表記がありました。そもそも開巻1ページめに「五メートルばかりはなれてむかいあった二人の男」という文章があります。列挙したのはどれも地の文ですが、「八里あるいて、その夜は掛川の宿」と尺貫法の箇所もあります。時代小説でメートル法をつかい、しかも度量衡が不統一。それだけきくと首をかしげる方もいるかもしれません。
種明かしをすれば、山田風太郎の忍法帖シリーズ第一作『甲賀忍法帖』です。何度も読んでいるはずなのに(何冊も版ちがいまで持っているはずなのに)、メートル法には初めて気がつきました。とんだぼんくらファンですね。奇想がつくりだした「この世ならぬ江戸時代の怪異な風景」を現代読者にクリアに伝えるため、時代設定とはそぐわないことなど百も承知で、風太郎がメートル法に「翻訳」したのでしょう。ひたすらおもしろく読まされたたため不覚にも気づかなかったのですが(言いわけ)、そういった抜群のリーダビリティのために作者が無数に凝らした工夫のひとつが、このさりげない「翻訳」だったのかもしれません。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最新訳書はデミル『ゲートハウス』、キング『アンダー・ザ・ドーム』。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
先日出た《ミステリーズ》に『飛蝗の農場』のジェレミー・ドロンフィールドが消息不明だと書いたら、ある人がメールをくれた。iPhoneやiPad用のアプリの開発者として、ドロンフィールドの名前を見かけたという。そこであれこれ調べたところ、5年ほど前から同姓同名の人物がいくつかのゲームを作ってApp storeに登録しているのがわかった。会社組織にもなっているようだ。ドロンフィールドはかなり前からマックユーザーであり、また『サルバドールの復活』にはビデオゲームのバーチャル体験を思わせる濃密な描写があったことを考えると、これは本人と考えてほぼまちがいないだろう。でも、あまりおもしろそうな感じのゲームじゃ……いや、それはいいとしても、もう小説を書く気はないのかなあ。ドロンフィールドのドロンしちゃった事件の結末としては、ちょっと残念。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )
加賀山卓朗
突然ですが、コード進行の話。個人的には、すぱっと曲想が切り替わる転調より、あれあれと不思議なコード進行をして、気持ちいいところにすっと収まるものが好き。古くはモーツァルトのジュピターの終楽章とか、スティーヴィー・ワンダーのCome Back As A Flower、ドゥービー・ブラザーズのWhat A Fool Believes、荒井由実の中央フリーウェイ、とか。
でも自分にとっての最高峰は(もっと古くなるけど)バッハのマタイ受難曲の名アリア「憐れみたまえ、わが神よ」ですね。去年、ジギスヴァルト・クイケンとラ・プティット・バンドの演奏(輸入盤のみ?)を買ったところ、これが本当にすばらしく、もうどれだけ聴いたか。畏怖の念を抱くというより、砂地に水がしみこむようにすーっと入ってくるマタイです。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
この冬は東京でも雪が多いですね。雪に慣れないせいで転んでけがをする人も。
昔、青森市に二年半ほど住んでいたのですが、凍った雪道でも自転車に乗っている人がいてびっくりしました。歩いていて転ぶ人もめったに見なかったけど、雪が降ってもだれも傘をささないのと関係があるのかもしれません。マンション住まいだったので、屋根の雪下ろしはしなくてすみましたが、駐車場が屋根なしだったので、毎朝車を雪から掘り出すのがひと苦労でした。
その青森時代、歩いていけるところに市立図書館があったので、雪に埋まりながらも毎日のように通っていました。当時読んでいたのは、『太宰治全集』全十巻とか、『失われたときを求めて』とか、『魅せられたる魂』とか、『戦争と平和』とか、ハーレクインロマンス一日三冊とか、いま思えばまるで大食い選手権のようなヘヴィーなラインナップ。でもあのときのドカ読みのおかげで、かなり読書体力がついた気がします。
寒い日はおうちで読書が最高!
てことで、第三回翻訳ミステリー大賞二次投票もよろしくお願いします!
(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)