今回は、先ごろ発刊された《東西ミステリー ベスト100》がお題です。
田口俊樹
週刊文春臨時増刊号『東西ミステリーベスト100』が巷で話題になってます。
海外部門だけですが、私は次のようにベスト10のアンケートに答えました。
お目汚しかもしれないけど、ご笑覧いただければ幸い。
1 「ミレニアム1.2.3」 スティーグ・ラーソン
本格からハードボイルドまでミステリーの面白さてんこ盛り。
このスケールのでかさ。このヒロインのかっこよさ。
読者本位のこのエンターテインメント性。
どれをとっても一級品です。
2 「マルタの鷹」 ダシール・ハメット
3 「大いなる眠り」 レイモンド・チャンドラー
一寸の虫にも五分の魂のあるところを身をもって示すのがハードボイルド、かな。
泥だらけの男の純情に心からの敬意を払うマーロウの独白は何度読んでもうるっときます。
4 「ドルの向こう側」 ロス・マクドナルド
5 「樽」 F・W・クロフツ
6 「黄色い部屋の謎」 ガストン・ルルー
7 「郵便配達夫は二度ベルを鳴らす」 ジェームズ・M・ケイン
8 「ウォッチメイカー」 ジェフリー・ディーヴァー
とにもかくにもどんでん返しの快感に尽きます。
9 「おれの中の殺し屋」 ジム・トンプスン
日本でも“悪人”がいっとき話題になりましたが、やっぱりどこにでもいそうで、怖いけど、魅力的な“ワル”——現実味と人情味あふれる異常者——を書かせたらこの人の右に出る作家はいないんじゃないでしょうか。
10 「二流小説家」 デイヴィッド・ゴードン
これほど途中からびっくりした小説もありません。てっきりオフビートな素人探偵ものと思って途中まで読んでたんですが。これだけびっくりさせてくれたらもうそれだけで文句はありません。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
『東西ミステリーベスト100』出ましたね。
死ぬまで使いますよ〜。
やはり古典が強いようですね。
アンドリュー・ヴァクス『凶手』、
ジェイムズ・リー・バーク『ネオン・レイン』、
J・C・ポロック『樹海戦線』
など個人的な思い入れだけで投票したら、
やはりかすりもしませんでした。
ジョージ(・P)・ペレケーノス
『俺たちの日』が83位に入ったのは
嬉しいんですが、やはり順位としては
こんなものなのかな……。ちなみに
わたしの一位はこれ。
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
わたしはいま、祭りに参加しそこねた者の悲哀を噛みしめている。まぬけな理由で『東西ミステリー ベスト100』に投票しそこねたのである。まさにあとの祭りだけど、この場をお借りして10作選んでみた。といってもベスト10ではなく、自分史的に忘れがたい10作品(ほぼ読んだ順)。 アイリッシュ『暁の死線』 ライアル『深夜プラス1』 ハメット『血の収穫』 キング『呪われた町』 ラングレー『北壁の死闘』 レナード『野獣の街』 トンプスン『内なる殺人者』 トレヴェニアン『夢果つる街』 フィニイ『ふりだしに戻る』 ゴダード『千尋の闇』 ラーソン『ミレニアム』 あれ、11作ある! ま、いいよね。もうあとの祭りなんだから。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:サリス『ドライヴ』 ウェイト『生、なお恐るべし』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
毎年恒例の〈さとがえるコンサート〉で矢野顕子さんの歌声をきくと、いよいよ年末の実感が迫ってきます。もはや刷りこみのようなものですね。帰り道、ラーメン屋に寄ってしまうのもお約束です。
見かえしたら二、三の作品を(作家はそのまま)入れ替えたくなりましたが、『東西ミステリーベスト100』で票を投じた作品は以下のとおり。初読のインパクトもさりながら、「翻訳ミステリー」を読むにあたって私的な座標軸としている作品をならべました。
1『ザ・スタンド』(S・キング)
2『遥か南へ』(R・マキャモン)
3『アンドロメダ病原体』(M・クライトン)
4『誓約』(N・デミル)
5『立証責任』(S・トゥロー)
6『透明人間の告白』(H・F・セイント)
7『大聖堂』(K・フォレット)
8『ヒューマン・ファクター』(G・グリーン)
9『ホテル』(A・ヘイリー)
10『魔性の殺人』(L・サンダーズ)
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」で翻訳。最新訳書はグリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』、ヒル『ホーンズ—角—』、キング『アンダー・ザ・ドーム』など。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
「死ぬまで使えるブックガイド」という売り文句に偽りはない充実のガイドブック、刊行おめでとうございます。死ぬまで大切に使わせてもらいます。
自分のベスト10は、締め切り日に送信し忘れるというていたらくでしたが、以下のとおり。言うまでもなく、翻訳者としての自分の大いなる糧となった作品ばかりです。
(1) 黒後家蜘蛛の会1
(2) 災厄の町
(3) フリッカー、あるいは映画の魔
(4) ストリート・キッズ
(5) 皇帝のかぎ煙草入れ
(6) 伯母殺し
(7) 警察署長
(8) リオノーラの肖像
(9) 終りなき夜に生れつく
(10)二日酔いのバラード
ぜひわたしが生きているうちに『黒後家蜘蛛の会6』の刊行をどうぞよろしく>T京S元社さま……
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )
加賀山卓朗
いろいろなベストテンも一段落して、翻訳ものからしばらく離れていたくなり、『谷崎潤一郎犯罪小説集』を読む。収録の4作品はどれも傑作です。ああこの表現力……欲しい。圧巻は、壁の節穴から殺人をのぞき見る趣向を見事に活かした「白昼鬼語」でしょうが、「柳湯の事件」の湯船に沈んでいたものの気持ち悪さといったら! 今後仕事で「ぬるぬる」したものが出てきたら、これをかならず読み返すことにします。
東西ベスト100の1位は『カラマーゾフの兄弟』に投票しました。私にとって永遠の無人島(監獄)本です。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
先ごろ刊行になった文藝春秋さんの「東西ミステリーベスト100」について書いてくださいとのことなので、わたしが投票した作品を発表します。いわゆるオールタイムベストですね。こういうものを作成したことのある方ならわかっていただけると思いますが、考える時期によって(ひどいときは時間によっても)どんどん変わっていってしまうので、ある時点でのベストとお考えください。最近ときどき自分の考え方や感じ方の変化に、自分でついていけなくなるときがある……
で、わたしの2012年9月14日(締め切りの日ね)の時点でのオールタイムベストは以下のとおり。
第1位 『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン
第2位 『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ
第3位 『八百万の死にざま』ローレンス・ブロック
第4位 『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ
第5位 『ポップ1280』ジム・トンプスン
第6位 『クリスマスのフロスト』R・D・ウィングフィールド
第7位 『スイート・ホーム殺人事件』クレイグ・ライス
第8位 『クリスマスに少女は還る』キャロル・オコンネル
第9位 『チャイナタウン』S・J・ローザン
第10位 『ミレニアム1』スティーグ・ラーソン
総合ランキングの上位とかぶっているのは『幻の女』(4位)と『ミレニアム』(12位)ぐらい。つぎが『八百万の死にざま』(21位)。あとはシリーズものの第一作が多いですね。ああ、でもこうして見ると、やっぱり全部好きだなあ。総合ランキングを見ても、なんかワクワクします。何を読みそこねていたのだろう、何を再読しようかとチェックするのがたまらなく好きなので。「死ぬまで使えるブックガイド。」というコピーも、なんかすごいです。
(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)