20130627043830.jpg 田口俊樹

 また老犬介護の話でナンですが、私、最近は夜中に鳴かれても眼が覚めなくなりました。私も順応性がありますねえ。で、講師をしている翻訳学校でそのことを話したら、愛犬家の生徒に、明らかに非難を含ませた声音で問い返されました。「先生、そういうのも順応性っていうんですか?」

 確かに。そう言われてみると、なんかちがうか。

 翌日、生徒にそう言われた話を家人にしました。そうしたら、家人にはばっさりと切って捨てられました。「それは生徒さんの言うとおりよ。あなたがそんなことを順応性だなんて思うのはね、それはそもそもあなたという人が向上心というものを持たない人だからよ」

 なるほどね。そう言われてみると——

 一月半ばに倒れて以来、家人とふたりでつけている介護日誌が二百日を超えました。試練の日が今なお続いております。はい、私の、です。なんかぽんぽん言われちまってさ、おれが何をしたっつーの? 太宰治も言ってます、犬より飼い主が大事。記憶ちがいかもしれません、暑いんで、はい。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 20130627043831.jpg  横山啓明

先日、外出したついでに寄ったギャラリーで、ハンス・ベルメールの

ドローイングが売られていました。小品ですがサインも入っています。

値段を見ると……えっ、パソコン一台分で買えるではないですか。

ほしい……とはいえ、やはり諦めました。二、三日してもう一度

見に行くと売れてしまったのか、もうありませんでした。ああ、やっぱり。

それからは、『ハンス・ベルメール 骰子の7の目』

『ハンス・ベルメール イマージュの解剖学』

夜想の『ベルメール』特集を机の脇に置き、仕事の

合間に眺めています。

今、書棚から引っ張り出してきた四谷シモンの『シモンのシモン』

拾い読みしていたんですが、いたるところにベルメールの

名前が出てきます。う〜ん、そう、いいよな、ベルメール。

なんだか最近、昔、興味を持ったものへ回帰しているようです。

これ、年をとったってこと?

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 20130524023841.jpg 鈴木恵

菊池光(きくち・みつ)さんといえば『東西ミステリーベスト100』に訳書が7冊もランクインしている大翻訳家で、その訳文にはいまなお根強いファンがいます。最近ではキクチストなんて言葉も生まれているくらい。しかし、そのキクチストのあいだでもちょっぴり困惑をもって語られるのが、sweater(セーター)という単語を必ず「スエター」とお訳しになっている点。表記としてはそのほうが原音に近いんですが、セーターという安定した日本語があるのになぜそんな? と私もかねてから不思議に思っておりました。ところが先日、刊行されたばかりの『蓼科日記(抄)』(小津映画の脚本で知られる野田高梧の山荘に置かれていた日記帳からの抜粋)を読んでいたら、こんな一文を発見。「元気のいい児達から、ピンクのスエターを着ているのは、いけないとおこられました」 書いたのは俳優の池辺良、昭和32年9月22日の項。スエターという言葉は菊池さんがお使いになる以前からあったんですね。私がものを知らなかっただけでした。全国のキクチストのみなさんも、わかりましたか。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:バリー『機械男』 サリス『ドライヴ』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

  20121210083413.jpg  白石朗

 NHKで外来種のミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)が日本の水辺の生態系を破壊しているというニュースを流していました。この話、少なくともうちが飼いはじめた十数年前からいわれていて、脚力のまさるアカミミがのんびりした日本固有種を日光浴の場から蹴落とすうえ(亀は日光浴をしないと体力が落ちてしまうのです)繁殖力も旺盛なので、「飼えないからといって川や池に捨ててはいけません」と飼育法の本に注意書きがあったと記憶します。ただ、ここへ来て野生アカミミが増えるペースが上昇しているということなのかもしれません。

 そしてわが家のベランダ飼いのアカミミは今年も夏の食欲最旺盛期を迎えています。夏の好物は昆虫類、なかでもカナブン(コガネムシ)。合成飼料や乾燥エビといった通常の餌をやっても、カナブンを水に落とすと目の色を変えて何匹でもばりばりと食べています。自宅周辺にはカナブン・ポイントが数カ所あって、散歩時に二、三十匹はつかまえられるのですが、このところそれさえままならないほどいろいろ立てこみ、気がつけば4カ月近く床屋さんに行ってませんでした……。

 そんなわけで息抜きも巣ごもり族御用達の海外ドラマとCDと、隙を盗んでのこまぎれ読書ばかりというていたらく。楽しんだものを列挙すれば、ドラマは当サイトで堺三保さんがお書きになっていた〈パーソン・オブ・インタレスト〉のシーズン2(これは現在進行形)、CDは高橋幸宏『LIFE ANEW』、本はデイヴィッド・ゴードン『ミステリガール』とギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』といったところ。そのほかの話題作も山積みなのですが、目の前の胸突き八丁を越えるまでちょっとおあずけ。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、最近はワープロソフト〈松風〉で翻訳。最新訳書はアウル『聖なる洞窟の地』、グリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』、ヒル『ホーンズ—角—』など。ツイッターアカウント@R_SRIS

  20130729174114.jpg 越前敏弥

 今年から単独の事務局で運営され、独立したサイトができた読書探偵作文コンクールを、引きつづきどうぞよろしく。ツイッターアカウントは @dokusho_tantei。わたしは今年度から最終選考委員をつとめます。新キャラクターの(フィリップ・)ニャーロウは、「ハンギョドン」「バッドバツマル」「コラショ」「はにわん」などの生みの親、井上・ヒサトさん(サイトはこちら)が、コンクールの趣旨に賛同してデザインしてくださいました。そのニャーロウと仲間たちが翻訳児童書の新作を紹介する〈ニャーロウ(と、なかまたち)の「この本、どうかニャ?」〉のコーナーをぜひご覧ください(随時更新)。書いているのは、実はこのサイトのかつての連載〈やまねこ翻訳クラブ「読書探偵」応援企画〉の執筆陣がほとんどです。

 読書探偵作文コンクールでは、全応募者に対して複数の選考委員がコメントを送ります。今年の応募要項はこちら。ひとりでも多くの小学生のみなさんからの応募をお待ちしています。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )

 20111003174437.jpg 加賀山卓朗

 7月下旬は移動が多かった。

 少々の雨には負けないぞと南蔵王縦走に出かけたら、山形は大雨警報・雷注意報・土砂災害注意報。負けました。山寺見て、温泉入って、友だちとしゃべって帰京。

 次は名古屋でディック・フランシス『度胸』読書会。訳文訳語に議論百出するであろうと予測して、「変態的な乱痴気パーティー」とか「怪我が日常のさして重要でない要素である職業」とか「馬っくさい思い出をたよりに生きてゆく」とか、いかにも指摘されそうな個所をメモしていったんだけど、皆さんとくに引っかかることもなく読まれたようで。キクチストの義務を果たさねば、と気負いすぎました。それにしてもフランシスの再読は思いのほか愉しかった。とくに騎乗の場面、泣ける。

 それから四国の実家に帰省。親は暑い暑いと嘆いていましたが、私も子供もへっちゃらでむしろ朝夕は寒いくらい。体が亜熱帯仕様になってきてるのかな。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

 20130627043832.jpg 上條ひろみ

夏休みの日記風に。

 七月某日、渋谷公会堂に「清水ミチコライブ」を見にいく。ずっと座っていられるライブっていいな。しかもずっと笑いっぱなし。たったひとりで何十人ものモノマネをする清水さんはすごい。昭和懐メロものまねメドレーが異様に盛りあがっていた。お客さんも四、五十代の人が多かったような。

 七月某日、シアターコクーンで唐十郎作・蜷川幸雄演出「盲導犬」(澁澤龍彦「犬狼都市」より)を見る。幕開きから本物のシェパードが五匹も出てきてびびった。毛の色と質が微妙にシェパード風のチビ犬(チワワか?)も出てきたが、妙におとなしく宮沢りえに抱かれていた。ドーピング? いや役者犬なのだろう。

 七月某日、ジョアン・フルークのハンナシリーズ第十四巻を訳了。驚愕のラストについてだれにも語れず悶々とする。秋の刊行までの辛抱だ。とりあえずタイトルスイーツのデビルズフードケーキ(チョコレートケーキ)の試作にとりかかるべし。

 七月に読んだ本でおもしろかったのは、ユッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q—カルテ番号64—』。このシリーズはどんどんおもしろくなっていく気がする。もうひとつはネレ・ノイハウスの『白雪姫には死んでもらう』。期待を裏切らないおもしろさだった。ぜひシリーズ一作目から読みたい!

(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇)

●これまでの「長屋かわら版」はこちら