「ミステリマガジン」でコミックレビュー(小財満氏と隔月交代)を担当している廣澤吉泰と申します。海外ミステリは勉強中なのですが、杉江松恋氏から「翻訳ミステリのコミックはありますかね?」と聞かれたのがきっかけで、まずは試しにと書いてみることになりました。海外のコミックを原語で読むような語学力はないため、翻訳物に材をとった、日本の漫画を取り上げていきます(現時点では、それほど作例がないので、これから出てくることを期待するしかないのですが……)
さて、第一回で取り上げるのは、森田崇『アバンチュリエ』です。これはモーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズを漫画化したもので、現在も「イブニング」(講談社)に連載中の作品です。
本書の特徴は、極めて原作に忠実な漫画化が行われている点でしょうか。それは描かれているルパンが「若い」ということに現われています。私などには、ルパンといえば、シルクハットを被って、片眼鏡をかけた紳士然としたイメージがあります。これはジュブナイル版の表紙絵や、アニメ「ルパン対ホームズ」などからできあがったものなのですが、実はルパンは初登場となる「アルセーヌ・ルパンの逮捕」の時点で25歳。本書の題名であるAventurier(冒険家という意味のフランス語)という呼び方がしっくりくる、やんちゃなルパンの姿こそが原作本来のものといえましょう。
ルパンファンである森田崇は、原作を尊重しつつも、ルパンの部下のキャラクターを立てるなどの工夫をしています(そのあたりが、サブタイトルでうたわれた「新訳アルセーヌ・ルパン」たるゆえんでしょうか)乳母のビクトワールは、原作より若く設定されて、盗みの手助けなどをするし、シャロレという名を与えられた部下は「獄中のアルセーヌ・ルパン」で重要な役割を果たします。こうした“ルパン・ファミリー”ともいうべき仲間の存在は、物語にふくらみを持たせています。
第1巻に収録されているのは「アルセーヌ・ルパンの逮捕」「獄中のアルセーヌ・ルパン」「アルセーヌ・ルパンの脱獄」と「王妃の首飾り」の前編まで。ルパンの過去が語られる「王妃の首飾り」中編以降が収録された、第2巻は11月22日に発売予定です。
ちなみに、森田には『ジキルとハイドと裁判員』(小学館ビッグコミックス/全5巻)という作品もある。異形の生物の力により、事件の真相を見抜くことができるようになった若手判事が、裁判員たちを自らの望む結論に誘導しようとする……という設定の作品。主人公と他の判事、裁判員との駆け引きが読みどころです。『アバンチュリエ』を読んで森田崇に興味を引かれた向きは、ぜひこちらにも手を伸ばしてください(って、いいのかな翻訳ミステリに関係のない作品を薦めてしまって……)