第3回目にしてSFを取り上げるとは、よほどテーマに困っていると思われるかもしれません(まぁ、ネタ不足なのは事実ですが)。でも、『星を継ぐもの』はしっかりした「SFミステリ」(原作発表当時「EQMM」にレビューが載ったというほど)なので、12月に第2巻が出たところでもあり、今回紹介したいと思います。

 月面で、宇宙服をまとった遺体が発見されます。氏名不詳のため「チャーリー」と名づけられた遺体は、骨格などから「人間」だと判断されました。しかし、一点大きな疑問が残ります。「チャーリー」が死亡したのは、約5万年前のことだと推定されたのです……。

5万年前の遺体をめぐり、物理学者のヴィクター・ハントと生物学者のクリスチャン・ダンチェッカー(そして、その他の学者たち)が仮設を立て、議論を通じて検証し、ついには「チャーリー」の意外な正体にたどりつく、というのが『星を継ぐもの』の読みどころです。様々な専門家が調査した事実をとりまとめ、大胆な仮説を展開する主人公・ハントの役割は、捜査機関のデータをもとに(そして警察が思いもつかない切り口で)犯人を指摘する「名探偵」のようです。

そうした本書を漫画化したのは星野之宣。『ブルーシティー』『2001夜物語』などのSF漫画を手がけ、1992年には『ヤマタイカ』で第23回星雲賞を受賞している実力派です。

 星野の手により、『星を継ぐもの』で重要な役割を果たす二人の登場人物——ヴィクター・ハントとクリスチャン・ダンチェッカー——が、原作どおりのイメージで描かれています。ひとつの視点に固執せず、軽やかに議論を展開するヴィクター・ハント。頑固とも思えるほどの信念を持って議論に臨むクリスチャン・ダンチェッカー。この二人が「そうそう、こんな感じ」と原作を読んだ者が同感するイメージで登場します。ちなみに、「チャーリー」の謎を解明させるべく、ハントやダンチェッカーを起用した、プロジェクトの責任者・コールドウェル(宇宙軍本部長)は、原作では食えない感じの男性なのですが、星野は艶っぽい女性にしています。この変更は好みが分かれる部分かもしれませんが、私などは原作で描かれた「人を扱ってきて、外れたことのない」というコールドウェルのキャラクターは、女性として描いた方が説得力を増すのでは? と思います。

 さて、デビューが1975年という大ベテランの星野ですから、原作を忠実に映像化してそれで良し(それ自体が、困難なことなのですが)としているわけではありません。先に述べたコールドウェルの性別の変更以上に、大胆な改変を加えています。

ご存知のとおり『星を継ぐもの』は『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』と続く「巨人たちの星」シリーズ(五部作)の第一作です。その位置づけにある『星を継ぐもの』を漫画化するにあたっては、『星を継ぐもの』の内容だけを取り上げるのではなく、次の作品で明らかになる事実などを盛り込んでいった方が、物語としてより面白味が増してきます。そうするためには、原作を全て読み通し、自分なりに再構成するという手間のかかる作業を必要とするのですが、星野之宣はそれをやってのけています。

 活字を単純に映像に置き換えるのではなく、原作小説を消化したうえで、漫画家自身の作品として描き上げる——というのがコミカライズ作品の理想形だと考えるのですが、『星を継ぐもの』は、その理想ともいえる作品なのです。

廣澤吉泰の「ここにもそこにもミステリーの影が」バックナンバー