20110910144630.jpg 田口俊樹

 予選委員の楽屋話。

 去年12月1日には第一次投票の結果が判明。ただ、私、上位に来そうな作品はある程度読んだつもりになっていたんで、高を括って一週間ほど旅行に出てしまいました。

 それが帰ってきて、さあ、大変。

 予想しなかった作品が三作も上位を占めてるじゃありませんか!

 まあ、読みが甘かったと言われればそのとおり、予測しなかった三作には失礼だったんじゃないかって言われれば、それまたそのとおりなんですが、これがまた三作とも長いやつばかりで、一作なんか死ぬほど長く……と言っちゃうと、その三作、ばれてると思いますが。

 予選委員の集まりは20日。それまで二週間もない! しかも本業の締め切りが26日!!!

 まず考えたのは、読めませんでしたって、ほかの予選委員に白状するときの言いわけのことばでした。半日ほど考えました。ほんと、こういうときに人格って出ますねえ。他人事みたいに言っちゃうと。

 でも、読めるだけ読もうって思い直して読んだら、なんと、これが読めたんです。もちろん、どの作品も面白かったおかげですが。でも、嬉しかったですねえ、堂々と予選委員会に出られて。

 自分がこれほど誇らしく思えたのは、忘れもしない26才の夏、ストリップ小屋の座席に誰かが置き忘れた財布を警察に届けたとき以来です。財布には3万円近くもはいってたのに。一緒にいた友達には、山分けしようぜってそそのかされたのに。それに何より、警察では、どこで拾ったのか言わなきゃならないのに。でしょ? そうそう、新宿駅東口の交番の壁に貼ってあったポスターを見て、大学の同級生で、革マルの活動家だった男が殺人罪で全国指名手配になっているのを知って、愕然としたのもそのときのことでした。私はと言えば、大映画監督になる夢破れ、埼玉県立高校の産休補助教員になることがちょうど決まったばかりの頃で、いろんな感慨を覚えたのを覚えています。

 全然話がそれました。

 何が言いたいのか。

 誇らしくはあったけれど、予選委員として当然のことをしただけのことを自慢しようというのではありません。また、翻訳者って案外、本を読む時間が取れない商売であることも、同業者としてよくわかっているつもりです。それでも、読書家でもなんでもない、書見台のまえよりパチンコ台のまえに8時間ほど坐っているほうがよほど好きな私でも、なんとかクリアできた。できないことじゃないですよ、それにそもそも候補作五作はそれだけ面白い作品ですよ、読んで損はありませんよって、それが言いたいんです。

 第二次投票の締め切りまであと二ヵ月を切りました。

 ひとりでも多くの方々からの投票をお待ちしています。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

  20111003173346.jpg  横山啓明

翻訳者に必要なものってなんなんでしょうね?

いろいろと挙げてみましたが、なんだか怖くなって

書いたものを消してしまいました。

でも、体力だけはなんとかクリアしているかな。

ということで、これから走ってきます。

必要な道具ということであれば、辞書、パソコンは

もちろんですが、一日座っている仕事なので、

忘れてはならないのが、椅子。

机なんてのは、みかん箱(おっと古い! 今は木の

みかん箱なんかないですね)でもOK(なわけはないが)。

椅子は腰を支えてくれるものなので、これには

金をかけたほうがいいですね。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

20110819080047.jpg 鈴木恵

 ニュージーランドのクライストチャーチを舞台にしたミステリーを読んでいたら、「東の窓から射しこんでいた日射しが北へまわっていく」という記述があってちょっと面喰らった。北あ? そうか、南半球では太陽は南中するんじゃなくて、北中するんだ。考えてみればあたりまえなんだけど、いまごろ気づきました。些細なことながら、自分がいかに北半球中心のものの見方に慣れきってしまっているかを痛感。ちなみに、ニュージーランドでは売春も合法なんだとか。へええ。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『生、なお恐るべし』『ピザマンの事件簿2/犯人捜しはつらいよ』『ロンドン・ブールヴァード』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

  20111003173742.jpg  白石朗

 年賀状のお年玉くじで十数年前に一度だけ携帯型CDプレーヤーが当たったことがあり、味をしめて毎年当選番号をチェックしているのですが、そううまい話があるわけもなく、年賀切手シートが一、二枚当たればいいほうです。いや、それで充分——小学校時代以来、断続的に日本の特殊切手をあつめているので。あ、泉麻人さんの『昭和切手少年』、気になっていたのにまだ読んでない……。

 それにしてもずっと疑問なんですが、松の内もおわって寒中見舞の時期になってから、なぜわざわざ「その年の年賀切手」を賞品として出すんでしょうか? いや、ふつうに切手として使用できるのはわかってますし、そうつかってます。でも、やっぱり、本来の年賀状には時期遅れではないですか? といって、年末に発売される来年用年賀切手や年賀状葉書との交換券なんかだと、ぜったい交換を忘れそうだし……。

 などと、例年のよしなしごとをつらつら思いつつ番号チェック。今年も年賀切手シートだけでしたが、例年よりちょっぴり枚数が増えた(遅ればせの)お年玉にうれしくなってしまうのですから、このままでいいのかもしれません。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最新訳書はデミル『ゲートハウス』、キング『アンダー・ザ・ドーム』。ツイッターアカウント@R_SRIS

 20120102101224.jpg 越前敏弥

 このサイトが開設された2009年10月以来、訪問者数は、ときどき突出して増える日があったものの、約2年余り、大きく変化はしなかった。それが今年にはいってから、1割から2割程度ではあるけれど、確実に増加したという手応えがある。もちろん、理由をひとつに特定はできないけれど、これまでしつこくつづけてきたことの成果が目に見えて現れたのはうれしい。

 アクセス増加が福島読書会の告知の日から一気に勢いを強めたのは偶然ではあるまい。もちろん、二本松まで実際に足を運べる人はそう多くないけれど、なんらかの形で支援しようとしてくださっているかたがおおぜいいらっしゃるのはまちがいなく、それが結果としてアクセス増につながっているはずだ。なんとしても成功させなきゃね。

 読書会といえば、名古屋のパワーもすごいぞ。なんといっても、どさくさにまぎれて恵さん割引! 第1回、第2回のゲストがどちらも恵さんだからだが、ならばいっそのこと、第3回のゲストにぜひ、おれの恵、もとい、〈ヒミズ〉ではなんのために出演しているかいまひとつわからなかったけれど、眼福そのものだったあの恵さんを呼んで……くれるわけないか……こ、この思い、あの人に届け!……ふみ〜

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )

20111003174437.jpg 加賀山卓朗

 なんというか、人類の「大きなものごとをさくっと理解する」能力は明らかに衰えてきていると思う。ナスカの地上絵とか世界各地のピラミッドとか、宇宙人がやったなんて説があるけれど、あれみんな人間がやったもので、科学で視野狭窄になった現代人が理解できないだけでしょう。

 源氏物語に作者複数説があるのも同じ。紫式部がすごすぎるから、とてもひとりの人間の作品とは思えないわけですね(大野晋・丸谷才一『光る源氏の物語』の受け売りです)。音楽でも、昔はワグナーの指環の1夜分まるごと歌えますなんていうドイツ人のおばあさんが、たぶんふつうにいたけど、いまやついていくのも大変……。

 そんなことを思ったのも、昔の長い小説を読んでいて、あれ、この人誰だっけ? ということが多いからです。翻訳ミステリーみたいに登場人物表が欲しいなと。昔の人は表なんてなくてもすらすら読んでたはずですよね。え、それはあたしが耄碌したせい? 失礼しました。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

20111003174611.jpg 上條ひろみ

 翻訳ミステリの主人公は、煮詰まったときや、何から手を付けていいかわからないとき、何気ないことをしているうちに「ひらめき」を得ることがあります。コージーミステリのヒロインだと、料理やお菓子作りをしながらということも多いですね。慣れた作業を淡々とこなしながら、頭のなかでひとりブレインストーミングをするうちに、思わぬ盲点に気づかされたりする。

 なかでも変わり種はアラン・ブラッドリーの少女探偵フレーヴィアちゃん。化学大好き少女の彼女は、なんと化学実験をしているとひらめくのです。

 実験室であたしはドアに鍵をかけ、自分の手が何をするか見てみようと待った。

 いつもこの調子。リラックスしてあまり考えないようにしていると、偉大な化学の神があたしを導いてくれる。——『水晶玉は嘘をつく?』

 もう神がかってます。

 で、考えてみたら、わたしにもありました、ひらめきのツールが。それはお風呂。お風呂にはいっていると、どうしても思いつかなかった訳語を思いついたり、悩んでいたあとがきの出だしがするっと出てきたりするのです。ぶっちゃけ、長屋のネタのほとんどはお風呂で思いついたものだったりして……お風呂探偵か。でも、あてにして待っているとひらめかないんだな。のぼせるだけで。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)

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