1『犬の力』ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

2『メアリー−ケイト』ドゥエイン・スウィアジンスキー(ハヤカワ・ミステリ文庫

3『ミレニアム2 火と戯れる女』スティーグ・ラーソン(早川書房)

4『バッド・モンキーズ』マット・ラフ(文藝春秋)

5『ビューティ・キラー2 犠牲』チェルシー・ケイン(ヴィレッジブックス)

6『ボックス21』ルースルンド&ヘルストレム(ランダムハウス講談社)

7『リンカーン弁護士』マイクル・コナリー(講談社文庫)

8『前夜』リー・チャイルド(講談社文庫)

9『清掃魔』ポール・クリーブ(柏書房)

10『迷惑なんだけど?』カール・ハイアセン(文春文庫

 2位以下の順序はいまの気分による。来週あたりには年末のアンケートの投票をしなくちゃならないが、その時には(まだ未読の本もあるし)順位が入れ替わる可能性があることをお断りしておく。

 逆に言えば1位は不動ってことだ。こいつを引っくり返すのは容易なことじゃない。膨大な時の流れのなかで、ドラッグとカネと政治のグルーヴに乗って、暴力者と麻薬密売人とゲリラと聖職者と娼婦と官憲が銃撃と悪徳のロンドを踊る。銃声をサンプリングした爆音の交響曲の底で彼らが小さく口ずさむのは自分の信ずるものへ捧げる悲痛な頌歌だ。

 ほどよいスリルや管理された危険を穏やかに楽しみたい向きにはおすすめしない。物語表層を埋めつくす暴力と悪徳に「下賤だ」と眉をしかめるお品のよい善男善女もお呼びじゃない。しかしcrime fictionというものに大いなる可能性と壮大な物語を求める者は『犬の力』を読まない手はない。ページを埋め尽くすのは破壊と悪行と悲嘆だが、その暗い画材を用いて描かれるのは叙事詩にまで高められた荘厳なドラマだ。ここにあるのは世界の現実であり、人間のミクロな営みを通じてそれを丸ごと取り込もうとす作者の野心と、その達成とが、脳を感情と理性の双方のレベルで揺るがす。こんな本はめったにない。

 ちなみに本作は、ジェイムズ・エルロイ『BLOOD’S A ROVER』と広江礼威『ブラック・ラグーン』《死の舞踏》編(単行本6巻〜9巻)という09年に生み出された2つの傑作とともに、アメリカ帝国主義と中南米というテーゼを歴史の軸で貫く血みどろのトリニティをかたちづくる。いずれも必殺の傑作なので、この場を借りておすすめしておきたい。

(つづく)