(承前)

 6位の『狼のゲーム』は、暗黒ロシアを舞台にした、暴力過剰の物語。本書については、先日「私設応援団」で紹介したとおり。

 7位は、ジョン・ル・カレの、一見すると冷戦回顧風味の作品。ただし、実は9・11をテーマにした作品である。冷戦時代の緊密さに代わって、自由で奔放なスタイルで書かれた物語。だが、その遠回りしがちな語り口は、紛れもないル・カレのものだ。

 遠回りな語り口ながら、アメリカに対する批判はストレート。そのメッセージは、執筆時のブッシュ政権が退陣し、オバマ政権に交代した今でも意義を失っていない。

 8位の『真昼の非常線』には驚かされた。銀行強盗事件を描いたサスペンスだが、ある事実の提示によって、これまで読んできた物語の構図が一変する。これまで読んできた物語の意味が、全く違うものに書き換えられてしまう。読み終えた部分をも巻き込んで驚きが遡行する、ミステリならではの楽しさを満喫できる作品だ。

 9位と10位は冒険小説。

 9位は第二次大戦下の北アフリカでドイツ軍と戦うことになった英国青年の物語だ。単なる移動も命がけの冒険と化す砂漠という環境もさることながら、多くのエピソードを通じて語られる「英国的」な事物が心に残る小説だ。

 志願して戦場に赴いた主人公たちの英国的アマチュアリズムと、名将・ロンメル元帥に体現されるドイツ的プロフェッショナリズムとの対決、として読むこともできる。

 その北アフリカの戦いで生まれたのが、イギリス陸軍の特殊部隊SAS。10位は、そのSAS隊員(あるいは元隊員)を主人公にした冒険小説を書き続けているクリス・ライアンの作品だ(本人も元SAS隊員)。

 ポスト9・11の「テロとの戦い」という枠の中で幕を開ける冒険活劇は、数々の「お約束」の積み重ねでできている。どんでん返しによって「テロとの戦い」という枠から飛び出してしまうのも、実はお約束の一つ。

 主人公と対決するムスリム戦士は格好よく、身内の英米情報機関は嫌な連中として描かれるという英国作家らしいひねくれ具合も、スパイスとして効いている。

 古山裕樹