1ドン・ウィンズロウ『犬の力』(角川文庫)

2ロバート・リテル『CIA ザ・カンパニー』(柏艪舎)

3スティーグ・ラーソン『ミレニアム1〜3』(早川書房)

4ジョシュ・バゼル『死神を葬れ』(新潮文庫)

5マット・ラフ『バッド・モンキーズ』(文藝春秋)

6ブレント・ゲルフィ『狼のゲーム』(ランダムハウス講談社文庫)

7ジョン・ル・カレ『サラマンダーは炎のなかに』(光文社文庫)

8リサ・ブラック『真昼の非常線』(ヴィレッジブックス)

9スティーヴン・プレスフィールド『砂漠の狐を狩れ』(新潮文庫)

10クリス・ライアン『ファイアファイト偽装作戦』(ハヤカワ文庫NV)

 各種アンケートの中にはすでに回答済みのものもあるので、実はもはや暫定ではない。これが正真正銘の今年のベスト10である。

 この一年に読んだ本の中で、最も鮮やかに心に焼き付いたのがウィンズロウの『犬の力』だった。

 数十年に及ぶドラッグ戦争。その中枢にあるのは二人の男の争いだ。数々の抗争を生き抜いて麻薬組織を率いる男と、麻薬取締のために人並みな幸せを投げ捨てて修羅と化した男。

 その対決を中心にして、メキシコ政界の腐敗、バチカンの思惑、さらにはコロンビアの内戦やアメリカの中米政策をも視野に入れながら、多数の人物を絡めて重層的に描いている。個人の小さなエピソードから、大国の思惑まで。地を這う虫の視点から、空を舞う鳥の視点までを自在に駆使してみせる。

 そして何より、激しい物語を語るにふさわしい、躍動する語り口が忘れられない。

 荒々しく重厚な叙事詩。今年に限らない、オールタイム・ベスト級の力作だ。

(つづく)