ようやく日本語版が刊行された『ロスト・シンボル』、もうお読みになったでしょうか? 連載第3回は、先週おこなったフリーメイソン東京ロッジ探訪の様子を紹介します。その前に、まずは前回のクイズの答から。
[1] ラングドンという名前は、ある人物にちなんでつけられたものです。その人物のダン・ブラウンとの関係は?
(1) 高校時代の恩師
(2) 大学時代の親友
(3) 『パズル・パレス』でIT関係の知識を提供してくれた人物
(4) 『天使と悪魔』のアンビグラムの作者
正解は(4)。前回も書いたとおり、ダン・ブラウンは小説を書く前にシンガーソングライターだった時期があり、第2作として出したCDのタイトルが〈天使と悪魔〉でした。このときのジャケットの表紙をデザインしたのがジョン・ラングドン。上下逆さに見ても同じになるアンビグラムのデザインを大いに気に入ったダン・ブラウンは、のちに小説として『天使と悪魔』を発表した際にも、同じ図案を選びました。この表紙がそれ。”Angels & Demons” がアンビグラムになっているのがわかりますね。
もちろん、小説『天使と悪魔』に登場する数々のアンビグラムの作者も同じ人物です。無名時代から協力してもらったことへの感謝をこめて、ダン・ブラウンは主人公の名をラングドンに決めたそうです。
ジョン・ラングドンの作になるほかのアンビグラムは、ここでたくさん見ることができます。
[2] ダン・ブラウンは仕事の合間にある健康器具を使っているそうです。それは何?
(1) エキスパンダー
(2) ブルワーカー
(3) ぶらさがり健康器
(4) 足つぼ健康器
正解は(3) の「ぶらさがり健康器」。毎朝4時に起きて執筆をはじめるダン・ブラウンは、仕事の合間にぶらさがり運動用のブーツを履いて、5分から10分にわたってコウモリのような恰好で逆さ吊りになるそうです。「頭を下にしてぶらさがっていると視点が一変して、構成上の難題を解決するのに役立つんです」と、かつてインタビューで答えています。
[3] ダン・ブラウンの出身大学はアマースト大学ですが、ロバート・ラングドンの出身大学は?
(1) イェール大学
(2) ハーヴァード大学
(3) プリンストン大学
(4) スタンフォード大学
これは難問中の難問です。だれもがハーヴァードだと思うでしょうね。わたしも最近までそう思っていました。ところが、『ロスト・シンボル』を訳していたとき、意外なことがわかったのです。お持ちのかたは文庫版上巻の29ページ、後ろから3行目(ハードカバー上巻の23ページ、後ろから3行目)を見てください。
——ピーター・ソロモンは友人にして恩師であり、歳はひとまわり上でしかないものの、プリンストン大学ではじめて会って以来、父親のような存在でありつづけている。当時ラングドンは二年生で、その著名な若き歴史家かつ慈善家の夕方の客員講義は必修とされていた。ソロモンの講義には人を引きこむ情熱があり、そこで示された記号論や原型の歴史についての鮮やかな考察はラングドンの心に火をつけ、象徴学に対して生涯にわたる情熱をいだくきっかけとなった。
これを見るかぎり、ラングドンはプリンストン大学の学生だったころに客員教授ピーター・ソロモンの講義に出席した、と読むのが自然ではないでしょうか。最初は作者のまちがいかと思い、『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』の全文を確認したのですが、たしかにハーヴァードという語は数えきれないほど登場するものの、ラングドンがハーヴァードの学生だったという記述はどこにもないのです。
そんなわけで、正解は(3)の「プリンストン大学」。たった1か所の記述ですが、そう断定するほかなさそうです。いつか書かれるであろう第4作にどんな説明があるのかが、いまから楽しみです。
ミュージシャン、教師、ノウハウ本の著者……。苦労人だったダン・ブラウンの人となりをもっと知りたいかたは、角川書店のダン・ブラウン公式サイトや伝記『「ダ・ヴィンチ・コード」誕生の謎』などをご覧ください。2回にわたるクイズのうち、最後の問題以外はこのふたつが出典です。
(つづく)