みなさん、お待たせしました! 第3回「真夏の読書探偵」作文コンクールの最終審査結果を発表します。

 今年の応募総数は84作(小学生79作、中高生5作)。9月下旬の予選委員による選考によってまず17作(小学生16作、中高生1作)の1次選考通過作が選出されたのち、去る10月12日、早川書房会議室にて最終選考会がおこなわれました。選考委員は昨年と同じく、小説家の川端裕人さん、翻訳家の羽田詩津子さん、翻訳家でやまねこ翻訳クラブ会員のないとうふみこさんの3名。1次選考に携わった事務局メンバーも加わって、2時間以上に及ぶ楽しくも熱い議論ののち、入選作品が決まりました。

 今年は中高生の応募が少なかったこともあり、中学生による1作をいっしょに審査するという形をとりました。

 結果は以下のとおりです。

 最優秀賞  木下雄太さん(小1) 「あおい目のこねこ」

 最優秀賞  小平采果さん(小4) 「宇宙への秘密の鍵」

 最優秀賞  山内優莉さん(小5) 「モーツァルトはおことわり」

 優秀賞   角田祐実さん(小4) 「麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッスなぞのいたずら犯人」

 優秀賞   田口蒼依さん(小5) 「十五少年漂流記」

 優秀賞   山田佐穂さん(中1) 「宝島」

 最優秀賞・優秀賞のみなさん、おめでとうございます。最優秀賞のかたには賞状と図書カード5,000円ぶんを、優秀賞のかたには賞状と図書カード1,000円ぶんを後日お送りします。

 惜しくも選に漏れたみなさんも、感想文だけでなく、登場人物への手紙、オリジナルの続編、自分自身が主人公になっての創作物語など、さまざまな形式の作品をたくさん送ってくださってありがとうございます。後日、全員のかたに参加賞と個別コメントをお送りします。

 最優秀賞のかた3名(木下雄太さん、小平采果さん、山内優莉さん)の作品は、来週末(27日または28日)に全文を掲載させていただきます。

 今年も最優秀賞や優秀賞に選ばれた作品に共通するのは、読んだ本への熱い思いがしっかりとわかりやすく述べられ、その作文を読んだ人もまたその本に強い興味を持つだろうということでした。その本や作家が大好きだという気持ちが最もよく伝わってきた作文を読むと、本にかかわっているわたしたちはとてもうれしくなります。これからもぜひ、本をたくさん読んで、そのときの思いをどんな形でもいいから書いてみる、そしてできれば、読んでいない人にもおもしろさを伝える練習をしてみてください。そして、自分の世界をどんどん広めていってください。

 去年に引きつづいて応募してくれた人が何人もいらっしゃり、とても心強く感じたとともに、わずか1年足らずのあいだに驚くほど成長したと感じられる作文がいくつも見られ、このコンクールをつづけてきてほんとうによかったと思いました。多くの生徒さんを紹介してくださった作文教室や学校の先生がた、どうもありがとうございます。来年もぜひよろしくお願いいたします。

 さて、ここからは、最終選考に残った17作のそれぞれについて、選考委員からの感想やアドバイスなどを簡単に紹介します。 

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◎須貝綾さん(小1)

 お読みになった本——『ぺちゃんこスタンレー』 ジェフ・ブラウン著、さくまゆみこ訳、あすなろ書房

川端「『ぺちゃんこスタンレー』がおもしろい話だというのが伝わってきました。よく書けていると思います」

ないとう「?ご飯より本を読むのが好きです?というのがすばらしい! すごく上手にまとめてあります。自分なりの感想がふくらむと、さらにいいですね」

羽田「『ぺちゃんこスタンレー』がどういうものかをうまく紹介しています。それにかわいらしい。文章も読みやすいですね」

◎森井亜希さん(小1)

 お読みになった本——『アンナのうちはいつもにぎやか』 アティヌーケ著、永瀬比奈訳、徳間書店

ないとう「お手紙方式の作文ですね。アフリカを舞台にした大家族の物語を自分の身に引きつけて身近なものとして読んでいて、好感が持てました。?大家族はたいへんですね?という感想もおもしろかったです。そのあたりをもっとくわしく聞きたかったなと感じました」

羽田「素直に書けていますね」

川端「まとまっていますが、もう少しふくらみがあるとよかったかな」

◎松本淳ノ介さん(小1)

 お読みになった本——『ぺちゃんこスタンレー』 ジェフ・ブラウン著、さくまゆみこ訳、あすなろ書房

羽田「すごく素直で、発想がおもしろい。この作品のどこがいいのかが伝わってきます。家族みんなでぺちゃんこになりたいという部分はほほえましいですね」

川端「?ぺちゃんこになってみたいけれど、ずっとはいやだ?という気持ちを生き生きと描いている。動きがあります」

ないとう「発想が豊かで、いっぱい頭を動かしていろいろなことを想像しているのがいいなと思いました」

◎木下雄太さん(小1) 最優秀賞

 お読みになった本——『あおい目のこねこ』 エゴン・マチーセン著、せたていじ訳、福音館書店

川端「6歳にして文章の構成がしっかりしているんですね。ほほえましくもしっかりしている、という絶妙なさじ加減です」

ないとう「絵の感想も書いてあるのがすばらしい。読んでいて噴き出すくらい、ほんとうにおもしろかったです。自由に生き生きと書いているのがいいですね」

羽田「小説のテーマもきちんと読みとれていて、構成も論理的。上手に書かれた作文だと思いました」

◎蝦名春吾さん(小2)

 お読みになった本——『くぎになったソロモン』 ウィリアム・スタイグ著、おがわえつこ訳、セーラー出版

ないとう「お話のつづきを書いてくれたんですね。その結末がブラックでびっくりしました」

羽田「結末が衝撃でした。発想がおもしろいですね」

川端「最後のところ、むふふと笑ってしまいました」

◎風間智悠さん(小2)

 お読みになった本——『きょうりゅうで町はおおさわぎ』 アン・フォーサイス著、熊谷鉱司訳、金の星社

羽田「?歯がたくさんあるきょうりゅうはなんですか?という質問が、新鮮でおもしろかったです」

川端「かわいらしい作文です。シリーズものなので、このあとの作品を読んだら答えがわかる質問もあったかな」

ないとう「質問だけで終わらず、自分の思ったことを添えると、どういったところがおもしろかったがよく伝わりますよ」

◎福本莉彩さん(小3)

 お読みになった本——『ここがわたしのおうちです』 アイリーン・スピネリ著、渋谷弘子訳、さ・え・ら書房

川端「主人公の気持ちの揺れにシンクロして書いてくれていて、それがすごくみずみずしい書き方だなと思いました」

ないとう「これは散文詩をつなげてストーリーができている本で、こういう詩の形のものはむずかしいと言われているんですが、ちゃんと物語を読みとって、自分の心の揺れをよく表現できていますね」

羽田「この本を説明するのはやはりむずかしかったのかなと思いましたが、感動したというのがよく伝わってきました。?ノートと心を開いている?という一文に感心しました」

◎角田祐実さん(小4) 優秀賞 お読みになった本——『麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッスなぞのいたずら犯人』 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ著、末延弘子訳、講談社

ないとう「物語のつづきを作られたんですね。原作と同じような感じで、会話を使ってテンポよくお話を書いていますね」

羽田「姉妹のやりとりや登場人物の特徴をよくとらえて続編を書いているので、物語として楽しんで読めました」

川端「?つづき考えちゃう?モノとして非常によくまとまっています。生き生きとしていて、いい作品だと思います」

◎小平采果さん(小4) 最優秀賞

 お読みになった本——『宇宙への秘密の鍵』 ルーシー&スティーヴン・ホーキング著、さくまゆみこ訳、岩崎書店

——これは、作文+絵+新聞という形です。

羽田「いろいろ調べて、自分なりのイメージをふくらませ、星を動物や花にたとえているところに感心させられました。作品世界にはまりこみながらも、きちんとどういうふうにおもしろかったかも説明されていて、非常にすぐれた感想文だと思います。絵もすごくきれいです」

川端「単に感想文や書評にとどまらず、夏休みの研究として出せそうな感じですね。枠組におさまりきらない破天荒なおもしろさがある。あの手この手で内容を伝えようというのと、自分の解釈を全面に出して、非常に魅力なものになっています」

ないとう「人間が星空をながめて星の神話を生みだしたような原初的な発想力があって、ひたすら感心しました。昨年のファーブルの感想文と全然ちがうものに挑戦していて驚かされました」

◎鈴木美紅さん(小5) 

 お読みになった本——『ランプの精リトル・ジーニー(10)ハッピー・クリスマス』 ミランダ・ジョーンズ著、宮坂 宏美訳、ポプラ社

川端「ジーニーを知らない人がこれを読んでも、よくわからないかもしれませんね。好きな物語について人に伝えようと意識したらよくなるのでは」

ないとう「『わたしはプレゼントをもらうよりあげるのが好き』という一文から書いた人の心根のよさが伝わってきました」

羽田「あまりに短すぎるかな。もうちょっと説明があるといいと思います」

◎サトシさん(小5) 

 お読みになった本——『二年間の休暇』 ジュール・ベルヌ著、朝倉剛訳、福音館書店

ないとう「ひとつの場面を抜きとって書いたんですね。ロールプレイングゲームやアニメを連想させる感じで、おもしろかったです」

羽田「?登場人物になりかわって物語のなかにはいってみる?という読みかたはおもしろいと思います。想像力が豊かですね」

川端「一場面を選んで一枚だけ書いていて、新鮮な驚きを感じました。読んだ者同士で語り合っているふうなので、もうちょっとほかの人にもわかるように書くとよかったかな」

◎田口蒼依さん(小5) 優秀賞

 お読みになった本——『十五少年漂流記』 ジュール・ベルヌ原作、志水辰夫翻案、講談社

羽田「”わたし”の一人称でストーリーをうまく紹介しています。あらすじだけなのに、作品の危機一髪感がよく出ている。ただ、書き手の視点がどこにあるのかわかりにくいのと、感想がまったくないのがどうだろうかと感じました」

川端「読み聞かせ的、講談風でおもしろい。『十五少年漂流記』を短くまとめる荒業だなと。声に出して読みたい感想文です」

ないとう「こんなに手際のよい再話があるのかと思いました。生き生き感を残したまままとめているというのがすごい。感想はひとことも書いてありませんが、あらすじの伝えかたが斬新」

——感想はないけれど、魅力的なあらすじの伝え方ですね。ディズニーランドの筏ツアーのような。書き出しは「あれ、私たちが乗った船が嵐の海の中にいる。知らないあいだに、故郷のオークランドの町をはなれちゃったらしい。何が起こったんだろう。それにしてもすごい嵐だな」というふうに。

◎山内優莉さん(小5) 最優秀賞

 お読みになった本——『モーツァルトはおことわり』 マイケル・モーパーゴ著、さくまゆみこ訳、岩崎書店

川端「自分に引きつけて、うまくまとめています。感想文として非常にすぐれている」

ないとう「ただ聞きかじった知識だけではなく、疑問を持って、映画を観たりして自分なりに深めようとしているのがすごい。音楽についての表現がすばらしいので、本を読んだ感想も深みをもって伝わってきます。感動しました」

羽田「迫害されたユダヤ人という重いテーマをしっかり受け止めています。自分の意見をきちんと持っていて、またその表現の仕方が巧みです」

◎内海大樹さん(小5)

 お読みになった本——『りっぱな兵士になりたかった男の話』 グイード・スガルドリ著、杉本あり訳、講談社

ないとう「イタリアの原作版との比較まで踏みこんで分析してあるのが、おもしろくて感心しました」

羽田「テーマをしっかり読みとっています。自分ならこうするといったことを、もうちょっと書くといいですね」

◎S・Sさん(小6)

 お読みになった本——『モーツァルトはおことわり』 マイケル・モーパーゴ著、さくまゆみこ訳、岩崎書店

川端「自分がピアノを習っているところに引きつけて書いているところがいいですね」

ないとう「文章もちゃんとしていて、整った作文になっています。あとは、自分のことばで自分の頭のなかを探して深く書くというのが大事だと思います」

羽田「人間が人間に加えた仕打ちに対して怒りを燃やしているのが、強く出ていますね」

◎北山志帆さん(小6)

 お読みになった本——『走れ!マスワラ』 グザヴィエ=ローラン・プティ著、浜辺貴絵訳、PHP研究所

ないとう「物語をよく読みとっていますね」

羽田「ストーリーはうまくまとまっているなと思いました。自分のことばで自分の気持ちをもう少し入れるといいかな」

川端「ストーリーをまとめる系の文章ですね。どれだけおもしろいのか、人に?読みたい?と思ってもらえるように、何か工夫があるといいですね」

◎山田佐穂さん(中1) 優秀賞 

 お読みになった本——『宝島』 R.L.スティーヴンスン著、海保眞夫訳、岩波書店

羽田「ジムより海賊のジョン・シルヴァーに心引かれたんですね。自分なりの読みかたをしていておもしろいと思いました」

川端「ラブレター方式の作文ですね。こういうのもありだと思います。ジョン・シルヴァーが悪役なのにどんなにすてきなのか、読んでみたいと思わせるように書くといいです」

ないとう「場面を拾ったりして、ジョン・シルヴァーが物語のなかでどういう人なのかをはっきり示してあると、もっと深まったかな」

【総評】

川端「本を読んで、刺激を受けて、どんな形で何をまとめるかというのは自由度が高いはず。そんななかで、こんなのもありか、と驚かせてくれる作品が来るとうれしいです。自分が好きな物語を人に伝えたいという気持ちをどういう形で表現するか。今年も最優秀賞をとった方々の文章には、やはり驚かされましたよ。学校で感想文を書くのとはちがう意味で肩の力を抜いて、また来年もいろんな人が応募してくれるといいなと思いました」

ないとう「最優秀賞の3作品は読んでいて思わず噴き出してしまったり、ひたすら感心したり、素直に感動したり、作文を読んでそういう気持ちになれるのはほんとうにうれしいことです。それぞれにスタイルがちがう作文が集まったのもうれしかったです。これをきっかけにして、私自身、読み逃していた本を読めましたし、そういう意味で?読書探偵?の役目を果たしてくれていて、ぜひここにあがった本をいろんな人に読んでもらいたいなと思いました」

羽田「小学校の低中学年のかたが特に充実していたので、これから受験やクラブで忙しくなると思うけれど、読書はつづけてもらいたいなと思います。課題図書にとらわれず、自分が好きな本を紹介するのもいいかと思います。来年は自分の大好きな本を、自分のことばで、自分のやり方でユニークに紹介してもらえるといいなと期待しています」

——去年も書きましたが、究極の目的は、その本を多くの人の読んでもらいたいという気持ちを伝えるということで、いろいろな形でそれを実現している作品が最終的に残ったと思います。もっと羽目をはずしてもいいな、とも感じました。

 3人の選考委員のかた、どうもありがとうございました。

 そして応募してくれたすべてのみなさん、今年もすばらしい作文を読ませてもらってほんとうに感謝しています。どうか来年もまた何か翻訳書を読んで、情熱あふれる「読書探偵」として、本を読む喜びをぜひみんなに伝えてください。