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去る2014年6月21日、翻訳家の東江一紀さんが、食道がんのため永眠されました。享年62。東江さんは、訳書『犬の力』(ドン・ウィンズロウ)で、第1回翻訳ミステリー大賞を受賞されました。翻訳ミステリー大賞シンジケートでは、東江さんを偲んで、サイトの主要な関係者及び、各地域の読書会を始めとする関連企画の代表者、そして東江さんと親しかった翻訳家により、それぞれ東江さんが翻訳した作品のベストを選び、コメントを寄せる記事を全5回にわたって掲載します。これをもって東江さんへの追悼の意を表したいと思います。
第2回は翻訳ミステリー長屋によるベストとコメントです。
(写真は2011年4月20日「第2回翻訳ミステリー大賞授賞式」にて)
鈴木恵
『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ
作品社
貧しい農家に生まれた平凡な英文学教授の半生を、淡々とした筆致で描いて心に染みる作品。これが東江さんの遺稿になったという暗合にも思いを致さずにはいられません。作品社より十月刊行の由。
田口俊樹
『犬の力』ドン・ウィンズロウ
角川文庫
強靭な文章でないと、これだけスケールの大きな作品の屋台骨の強度たりえない。もちろん原文あってのことだが、この強靭な訳文、実に見事だった。〜系アメリカ人の台詞の訳し分けにも感服。
越前敏弥
『プッシュ』サファイア(文庫化時に『プレシャス』と改題)
河出書房新社→河出文庫
16歳の黒人女性を語り手とする文章の圧倒的な力に、翻訳の魔術を感じた1作。東江さんへの思いについてはhttp://bit.ly/1mAWmc7に書きました。そして”An Instance of Fingerpost” の刊行をぜひ!
加賀山卓朗
『鮫とジュース』ロバート・キャンベル
文春文庫
楽しかった本、学ばせてもらった本をあげれば切りがありませんが、忘れられない1冊は、ロバート・キャンベルのご機嫌な悪漢小説『鮫とジュース』。中身も訳も大好きです。
白石朗
『子供の眼』リチャード・ノース・パタースン
新潮文庫
代表作は『罪の段階』だが愛着があるのはこちら。小説巧者のサスペンスフルな語り口を一切損なわず、翻訳を意識させないエンターテインメントに仕立てた膂力に感歎。
横山啓明
『ストーン・シティ』『エリー・クラインの収穫』ミッチェル スミス
新潮文庫
最初に読んだ東江作品は、『エリー・クラインの収穫』。匂い立つような訳文に酔いしれました。同じM・スミス『ストーン・シティ』も過酷な世界をみごとな日本語に。早すぎる死、ほんとうに残念です。
上條ひろみ
『仏陀の鏡への道』ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫
東江さん訳のウィンズロウ節はリズムのよさが癖になります。ニール・ケアリー・シリーズは全部好きだけど、本書は衝撃的な訳語でとくに印象に残っています。