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去る2014年6月21日、翻訳家の東江一紀さんが、食道がんのため永眠されました。享年62。東江さんは、訳書『犬の力』(ドン・ウィンズロウ)で、第1回翻訳ミステリー大賞を受賞されました。翻訳ミステリー大賞シンジケートでは、東江さんを偲んで、サイトの主要な関係者及び、各地域の読書会を始めとする関連企画の代表者、そして東江さんと親しかった翻訳家により、それぞれ東江さんが翻訳した作品のベストを選び、コメントを寄せる記事を全5回にわたって掲載します。これをもって東江さんへの追悼の意を表したいと思います。
第5回は東江さんと親しかった翻訳家たちによるベストとコメントです。
高橋恭美子
『ハイラム・ホリデーの大冒険』ポール・ギャリコ
復刊ドットコム
大好きなギャリコのデビュー作が大好きな東江さん訳で復刻! 本当にうれしかった。東江さんも、囚人生活を終えて冒険の旅に出たのかな。
吉澤康子
『黄泉の河にて』ピーター・マシーセン
作品社
東江先生には、翻訳修行の仕上げをしていただきました。明解な説明と、言葉に対する熱い思いが忘れられません。本書は純文学の短篇集で、翻訳後、二十数年ののち、先生が亡くなられる直前に刊行されたものです。
河野万里子
『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫
本好きのニールと片腕の‘父さん’の間に通うあたたかさ、いきいきした会話のウィット、軽やかで知的なお訳——読書と仕事と人生を愛しつづけた東江さんの、笑顔のような一冊。
布施由紀子
『狂気のやすらぎ』ポール・セイヤー
草思社
カタトニー(緊張病)患者の独白。凜としたみずみずしい筆致に衝撃を受けました。東江一紀先生37歳のときの訳書です。その非凡な才能には改めて驚かされます。
峯村利哉
『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫
下訳者として関わらせていただき、翻訳の楽しさと厳しさを教わりました。完本を読んだときの無力感は忘れられません。一作品としても教科書としても永遠のバイブルです。
柳沢伸洋
『ショールの女』シンシア・オジック
草思社
美しく抑制の効いた文体が切なさを倍加させる。言葉の持つ力を改めて認識させてくれる一冊。すぐれた翻訳の役割とは、こういう作品の紹介にあるのでは、とさえ思えてしまう。
内藤文子
『デイヴ・バリーの笑えるコンピューター』デイヴ・バリー
草思社
Windows95が出たころ書かれた本だけど、パソコンに振り回される人間を笑いのめす精神は現役。その諧謔精神と親父ギャグに笑いつつ、遊びを支える訳文のキレにうなるのです。
那波かおり
『プレシャス』サファイア
河出文庫
98年初版時の書名は『プッシュ』。16歳のハーレムの少女が読み書きを覚え、自尊心を獲得していく。主人公の一人称語りの成長と変化に圧倒される。体温と痛覚をもつ訳文。
本企画は今回で最終回です。翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局一同、東江さんのご冥福をお祈りいたします。