ところが、ウチの会社では、このカンヅメ作業をやったことがあります。しかも、2回も。それは、サッカー選手デイヴィッド・ベッカムの自伝『ベッカム:マイ・サイド』のときと、映画『ダイ・ハード4.0』のノヴェライゼーションのとき(笑)。どちらも、現地在住の訳者さんがいらっしゃったので、前者の場合はロンドンの出版社に、後者の場合はハリウッドの映画会社に通ってもらい、一室に閉じこもっての翻訳作業をお願いしたのでした。なぜそこまでしたかと言えば、ひとえに日本での出版に時間的な制約があるから。つまりは訳者さんも編集も、きびしい締め切りにむけた過酷な作業を強いられることになるのです。
話をダン・ブラウンにもどすと、版元としてはいまさら事前のパブリシティなど必要ないので、逆に秘密をたもって読者の期待感をあおったほうがよい、という判断なのでしょうね。中味が解禁されたいま、訳者の越前さんは必死で作業を進めておられることでしょう。がんばってほしいなあ。というのは、こういう大きな目玉があるのは、業界的によいことだと思うからです。ミステリーというジャンルに世間の関心が向くのは、まちがいないですからね。
ちなみに、“The Lost Symbol”の発売が発表された今年の春以降、さっそく謎解き本の企画が米国の版元から届きはじめました。9月15日まで中味が読めない本のガイドブックの企画が、ですよ。いくらなんでも早すぎ。しかも、10月出版予定だというし。
ま、それだけ出版界の期待が大きいってことですね。
扶桑社(と)
早川書房勤務後、サービス業を経て、扶桑社の翻訳書編集に携わり、現在にいたる。テリル・ランクフォード『惨殺の月夜』(近藤隆文/訳)など多くのB級エンターテインメントを編集し、ジム・トンプスン『ポップ1280』(三川基好/訳)、ウォルター・テヴィス『ハスラー』(真崎義博/訳)などの発掘企画も担当。カミンスキー〈刑事エイブ・リーバーマン〉シリーズ(棚橋志行/訳)の挫折が惜しまれる。裏世界での担当書に、スペンサー・ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』(門田美鈴/訳)など。