『バッド・モンキーズ』/BAD MONKEYS

マット・ラフ(Matt Ruff)/横山啓明・訳

 SHORT SHARP SHOCK!!!——曲者作家が放つ、速く鋭い一気読みサスペンス!

 “あたしは悪を殲滅する組織《バッド・モンキーズ》の一員なのさ”。

 殺人で逮捕された女ジェインはそう告げた。鮮やかなオレンジ色の銃で悪を葬る。それが自分の仕事なのだと。

 これまで殺してきたのは:幼児連続殺人犯、連続男娼殺し、爆弾魔……。ジェインは悪との壮絶な対決を告白する——だがそれは真実なのか? すべてを監視し盗聴する「眼」。自然死にしか見えぬかたちで人を殺す銃。雑誌の記事に隠された暗号。斧を持って車にひそむピエロ。ジェインの世界には、そんな異様なものが満ちていて……

 ……そんな本書の原書を何の気なしに読みはじめたときの衝撃はまだ鮮やかです。異様に緊迫した空気に満ちた冒頭シーンを読んだが最後、先を読まずにいられなくなりました。真っ白な密室。そこに座る男女。女は殺人の容疑者、男は精神科医。やがて二人の対話は女の一人称によるアクション・サスペンスにするりと滑り込み、語られてゆくサイコ・キラーとハイスクールの少女の対決。だがそこに、じわじわと奇怪な事態やモノが混じりこむ——これはいったい何だ? すべては心を患った女の妄想なのか? 痛快に連続するアクションと背中合わせに、都市伝説じみた悪夢の気配がずっと立ち込める。

 そんな奇怪な物語だったのです。第一章を読み終えたときには、翻訳権を絶対に入手してやると決めていました。

 しかもラストで……!! 読み終えてまっさきに連想したのは山口雅也さんの某短篇。アメコミっぽいファンタスティックなカッコよさと、どこかニューロティックな空気と、××××××【ネタバレ自粛】。じつは本邦初紹介の著者マット・ラフ、SF/ファンタジーの意匠を援用したスリップストリーム系のカルト作家で、風間賢二さんや山形浩生さんからの注目も受けたことのある曲者。その第四長篇が本書、曲者が放った豪速のスクリューボールなのです。

 ロック好きの翻訳者・横山啓明さんがクールな訳文で綴った本作、POPでPULPでBAAADな作品世界を見事にあらわす寺田克也さんによるジャケと、紙質がっさがさのペーパーバック仕様でお贈りします。是非ご一読を。

(文藝春秋翻訳出版部:永嶋俊一郎)