1『犬の力』ドン・ウィンズロウ

2『ミレニアム』スティーグ・ラーソン

3『検死審問ふたたび』パーシヴァル・ワイルド

4『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボン

5『荒野のホームズ、西へ行く』ステーィヴ・ホッケンスミス

6『死神を葬れ』ジョシュ・バゼル

7『泥棒が1ダース』ドナルド・E・ウェストレイク

8『迷惑なんだけど?』カール・ハイアセン

9『毒蛇の園』ジャック・カーリー

10『水時計』ジム・ケリー

「『犬の力』すっげー。もしかすると『ミレニアム』より上かも」などと大騒ぎ(一人で)する日々を送っていたわけだが、某雑誌のベストテン企画に投稿した際、うっかり入れ忘れていたことに気付いた、今。『ミレニアム』には投票したのに。このお茶目さんめ。てへ。そんな慌て者が今回は暫定ベストテンをお送りします。

 まず『ミレニアム』ではなく『犬の力』を1位に置く理由を書いておきたい。なんでもありの楽しさで娯楽小説のお手本というべき『ミレニアム』に唯一足りなくて『犬の力』にあるもの。冷酷な現実に対する心からの抗議が記されている点に胸を打たれたからである。『犬の力』は1970年代から現在に至る長い時間を描く物語であり、メキシコルートでアメリカ国内に持ちこまれる麻薬ルートを廃絶するため戦った捜査官を主人公としている。

 ただ、こうして綺麗に書いただけでは小説の真価は伝わりにくい。正義の陣営にいるはずの主人公が、敵を滅ぼすためにあえて情を捨て、相手を上回る邪悪な力を受け容れていく話だからである(それが犬の力だ)。そのため、麻薬戦争に関わるさまざまな位相の人々を副主人公の扱いで幾人も登場させ、力と力の闘いがいかに個人の存在を無化するものであるかを複層的な視点で描いている。個人の尊厳が踏みにじられる現実に対する怒りが本書の執筆動機であり、その矛先はたとえばローマ・カソリック教会などにも向けられている。バチカンは、メキシコ地震の援助を取引条件に使って同国内の宗教上の地位を獲得しようとしたのだ。そうした行為は、南米諸国の共産化に対する盾とするため、当時の軍事政権を支持し、結果として麻薬栽培をはびこらせることになったCIAとなんら変わるところがないと、ドン・ウィンズロウは書くのである。そうだ、そこに痺れた。

(つづく)