『ミレニアム』を2位とすることにはまったくためらわなかった。小説の実力からいって当然である。先になんでもありと書いたが、どの要素も均等に優れているという意味ではない。たとえば『ミレニアム1』は犯人捜しの要素を持った小説だが、フーダニットの関心で最後まで引っぱるわけではないからだ。同時に孤島からの人間消失の話でもあり、ミッシングリンクを求める連続殺人の小説でもあり、犯罪に関係した人の「なぜ」を問う物語でもある(おお、なんかこう書くとやはりすごくおもしろそうだ)。それらの要素を他の作品と比較してみたら、一歩譲るところだってあるだろう。だが、そうした形で欠点をあげつらって批判しても本書の場合はあまり意味をなさない。複合体として優れた小説だからだ。一つの作品にここまでアイデアを盛りこむことができる。ミステリーにはまだまだこんな可能性がある。そうした気づきを与えてくれたことに、素直に感謝したいと思います。
単純におもしろかったという意味ではパーシヴァル・ワイルド『検死審問ふたたび』を三位に置きたい。私が解説を書いた『検死審問——インクエスト』も抜群におもしろかったのだが(読んでね)、『ふたたび』も捨てたものではない。いや、同じくらいおもしろい。今回の審問は不審火による焼死事件を扱っている。その死に犯罪性があるか否かを証拠によって審議するわけなのだが、陪審員の一人にとんでもない変物がいて、関係者の言葉の端々をとらえていちいち批判してくるのがまず可笑しい。この人物の行動に目を奪われていると、裏で実は……という寸法だ。語り口の飄逸さでは本年のベストであったと思うし、ミステリーとしての物語の閉じ方にも満足させてもらった。