電子の闇にひそむ、もっとも卑劣な殺人鬼。
そいつは罪なき者を殺し、あやつり、その人生を破壊する。
ただ楽しみのためだけに。
科学捜査の天才リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人容疑で逮捕された。アーサーは無実を主張するも、数多くの物的証拠が発見され、有罪確実と見えた。だがリンカーン・ライムは不審を抱く——証拠がそろいすぎている! 刑事アメリア・サックスらとともに捜査を開始したライムは、同様の事件が複数起こっており、刑務所に送られた者までいることを知る。何者かが、己の罪を他人になすりつけ、殺人を繰り返しているのだ。
だが敵の持つ強大な力にライムは、かつてない苦戦を強いられる……
お待たせしました。秋の恒例、ジェフリー・ディーヴァーの新作が刊行されます。絶賛を受けた『ウォッチメイカー』につづくリンカーン・ライム・シリーズ最新作。今回、名探偵ライムと頭脳戦を演じる「敵」は、《ウォッチメイカー》や《ボーン・コレクター》といった劇場型の犯罪者たちと趣を変え、安全圏からすべてを監視し、あやつり、追及の手を逃れつづける姿なき者。そいつの犯行は「もっとも卑劣」というにふさわしく巧妙で、悪意に満ちています。立ち向かうのはおなじみの捜査チーム、アメリア・サックス、ロン・セリットー、メル・クーパー、そしてロナルド・プラスキー。しかし追い込まれた敵が打つ反撃の一手一手は、ライムと仲間たちを逆に窮地に追い込んでゆく——そんな後半の展開は、読んでいるこちらの内分泌系を直撃、強烈な不安と恐怖をもたらします。
非道への怒りをいつも以上に燃やして再反撃に出るライム・チーム。なかでも本書におけるMVPは間違いなく、『12番目のカード』で初登場の若き警官、プラスキー君でしょう。頼りない天然系の彼が憤怒に燃える! 訳者の池田真紀子さんに送る校正刷りに、つい「カッコいいぞルーキー!」と書き込んでしまったほどでした。
さて、「21世紀の神」とでも言うべき本書の犯人の強大な力。読んでいて他人事ではない恐怖をおぼえるほどなのですが、弊社から刊行されているノンフィクション、『その数学が戦略を決める』(イアン・エアーズ著/山形浩生訳)を一読いただくと、これがまったくの絵空事ではないことがわかって、恐怖は倍増です。
最後に、本書の邦題『ソウル・コレクター』について。これは《怪人vs名探偵》の構図を愛する日本のファンのために、著者のディーヴァー自身が命名してくれたものです。ディーヴァーさんは海外作家のなかで飛び抜けて親切なのです。どんな問い合わせにも素早く、こちらが恐縮してしまうくらい真摯に対応してくれる“グッド・ガイ”・ディーヴァー。第二短篇集『More Twisted』、ノンシリーズ長篇『The Bodies Left Behind』、キャサリン・ダンス・シリーズ第二作『Roadside Crosses』も待機中です。一向に衰えを見せぬドンデン返しの魔術師の今後の活躍にもご期待ください。
(文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎)