早川書房編集部のH・Kが、年明け早々に早川書房編集部のレイアウト変えを行うらしいと書いていたのを、みなさんは覚えているでしょうか。この噂が流れ始めたとき、大半の編集者は冗談だと思っていました。二月に入り、もうそんなことしないよねー、という空気が流れる中、ある日、新しい席順が発表されてしまいました。今までと景色が大きく変わるくらいのお引越しです。新しい島ができたり、机の向きを変えたり、ロッカーを動かしたりしなければなりません。こんなの嘘だと思いたい。でも、どうやら現実でした。
机は重いけど、そのくらいやればどうにかなるでしょーなんて思ってらっしゃる方、それはこの魔窟を見たことがないから言えることですよ! 編集者は荷物が多いです。ゲラに、原書に、検討本。それがすべて、机の周りに積みあがっていくんですよねえ。なんと言ったらイメージしやすいでしょうか。鳥の巣? かまくら? 机の上はもちろん、机の下、引き出しの前、背後と、ありとあらゆる場所に本が積まれているのです。これらを切り崩さなければ机は動かせません。
決行日二日前からおのおのが荷物をダンボールに詰めていきました。普段の業務はほぼ停止。夜十時くらいまで残ってやっても床が見えません。出てくるのは大量の資料、あることを忘れたかった検討本、謎の原稿。そして、ここに書くと早川の信用問題に関わりそうなもの。いやいやいや! もう会社を辞めた人とか、亡くなった人とかのものなんです。私たちが知らなかった遺産なんですって!
そして決行日。ふだんはスーツの編集者たちが埃まみれになるのを見越して私服で出社。ダンボールをエレベーターホールに一時退避させて机を動かしにかかります。机の中まできれいにできるほど余裕がなかったため、かなり重いのです。高血圧気味の人たちは、ぷつんといっちゃうんじゃないかと心配になります。机の下とか横とかからは、見なかったことにしたいものばかりが出て心が磨り減ります。その合間にも、ひたすらダンボールを移動させます。エレベーターホールだけじゃスペースが足りなくなって、廊下にも階段にも積みます。百個は確実にあるので、消防法的に許されない感じです。
何がどうなって終わったのかはよくわかりません。夕方ころになり、気付いたら、席順どおりにどうにか移動が終わっていました。動き続けている人が大半ですが、椅子に座って呆然としている人が何人かいます。ゲラが、とか、原書が、とか口にしていたような気がします。進行中の大事なものを紛失したのでしょうけれども、怖いので突っ込んだ事情は聞かずにおきました。
今朝出社すると、トンカチの音が響いていました。何を作っているのでしょう。そういえば、数十単位で出たゴミ袋も、ゲラの山も片付けなくちゃなあ。実はまもなくミステリマガジンの締め切りもやってきます。片づけをしながら進行作業ができるんでしょうか。そもそも、次号用の資料を見つけ出せるんでしょうか。次号のミステリマガジンをお楽しみに!
ミステリマガジン編集部A子