原潜デルタ?を撃沈せよ 上下

 ジェフ・エドワーズ(Jeff Edwards)/棚橋志行訳

 The Seventh Angel

 文春文庫/定価=上巻690円、下巻700円/ISBN 978-4167705831(上)/978-4167705848(下)

 ロシア叛乱勢力の手に落ちたミサイル原潜。

 核の狙いは米国、ロシア、日本に定められた。

 氷海の底に潜む原潜を探り出す手立てはありや?

 ロシア辺境、カムチャツカ。その地方知事ズーコフが核ミサイル搭載の原子力潜水艦を奪取、その武力を背景に独立を宣言した。これを受け入れぬ場合、核攻撃がモスクワ、ウラジオストック、サンクトペテルブルグ、東京、大阪、横浜、ロサンジェルス、シアトル、デンヴァーに行なわれる。原潜は海底にひそみ、攻撃命令を待っている。それを探り出すのはきわめて困難だった。しかもズーコフは、米ロの潜水艦のすべてを浮上させろと命じていた。原潜を探り出し、叩く手段は皆無……たったひとつを除いて。

 民間の無人深海探査艇のテストのために偶然、近海にあったステルス艦タワーズ。腕利きの艦長と探査艇〈マウス〉がそろえば、事態の打開も可能かもしれない——

 ハイテク軍事スリラー期待の新星ジェフ・エドワーズ(デビュー作『U307を雷撃せよ』も文春文庫より上下2巻)、第2作の登場です。

 とかく巨視的になりすぎて散漫になってしまいがちな軍事スリラーですが、エドワーズは、状況の焦点を絞り込み、物語をきりりと引き締めるのが巧い作家です。本作ではすなわち、「深海にひそむ原潜の場所をどう特定し、沈めるか」。この軸がブレないので、国際的に展開する各パートが、全体のなかでどういう意味を持つのかがクリアなのです。

 キャラ立ちのよさも美点のひとつ。いかにもヒーロー然とした頼れる艦長や、クールな水測長といった乗組員のみならず、本作は軍事スリラーには珍しく、民間の理系のエンジニアが事実上の主役を張っています。「人間よりも機械のほうが好き」というアン・ロアーク。「敵を叩く=敵兵を殺す」ということに疑問を抱かない軍人たちに真っ向からぶつかる彼女の存在が、とかく軍の論理一辺倒になりがちなこの種の小説に一石を投じています。このアンに萌える読者もいそうですし、怒るアンをなだめる相棒シェルダンに癒される読者もいそうです。つまり本書、ライトノベルばりのエンタメ演出を施された軍事スリラーでもあるのです。世界の命運を丸い甲羅に背負って凍えるような深海を往く探査艇〈マウス〉の健気さには、古き良き空想科学小説の快感を感じます。

 ミリタリー・スリラー・ファンはもちろん、こうした小説に縁遠い読者にも楽しめる正調娯楽小説に仕上がっています。 

(文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎)