イベント続きでしばらくお休みをいただいていたこの欄、また隔週で更新をしますのでよろしくお願いします。

 これまでは現役でシリーズが刊行されている作品ばかりを採り上げてきたが、完結したものや、現在小休止中のシリーズにだって、もちろん本欄は言及していく予定である。ここで紹介したことがきっかけになってシリーズが再開したら、こんなに嬉しいことはないしね。

 最近翻訳がお見限りになって淋しい思いをしているシリーズの一つに、リンダ・O・ジョンストンの〈ペット探偵〉がある。『愛犬をつれた名探偵』『いたずらフェレットは容疑者』『目撃者は鳥カゴのなか』の三冊が出たあと二年以上新作が出ていないのだが、本国ではすでに八作目まで刊行されている。題名を見ていただければ判るように、一作ごとに小動物がテーマに織り込まれていく趣向の連作だ。ケモノ好きの読者は気になりませんか? 未訳作品のうち、五作目の題名はThe Fright of the Iguana。主人公が失踪したイグアナを探す羽目になるお話のようだ。犬、猫、鳥だけじゃなくて、爬虫類まで面倒見ているところが素晴らしい。

 本書の主人公であるケンドラ・バランタインは、もともとは高級取りの弁護士だった。だが、所属していた事務所で濡れ衣を着せられ、資格停止に追い込まれた。訴訟の相手側に極秘情報を漏洩したとして、重要な職務倫理規定違反に問われたのだ。生活のために彼女は、マルホランド・ドライブの豪邸を人に貸し、自らはガレージの二階で生活し始める。当面の問題は生活費である。自分と、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのレキシーの食い扶持を稼がなければならないのだ。幸いなことに、犬用のデイケア・センターを経営する友人のダリルが、ケンドラに当座のアルバイトを世話してくれた。ペット・シッターである。日給は五十ドル。法律事務所で働いていたときなら、十分間の代金にすぎない金額だ(そんなに高いのか!)。しかし、他に収入のあてはない。やむをえずケンドラは、臨時のペットお世話係として働き始めるのである。

 シリーズ第一作『愛犬をつれた名探偵』は、このようにして幕を開ける。新生活の開始早々、愛犬の世話を引き受けた映画プロデューサーが殺害されているのを発見してしまったのは余計なおまけだった。容疑者扱いされたケンドラは、濡れ衣を晴らそうとして独自に捜査を始めるのである。資格停止中の弁護士が、刑事事件の捜査情報を得ようと孤軍奮闘する、という主筋もさることながら、それ以上におもしろいのが、ケンドラがペットがらみのさまざまな悩みを飼い主から持ちかけられるエピソードだ。離婚した夫が共有財産になっているパグ犬をアラスカ州に連れて行こうとしているといって泣きついてきたりする。そうした小さな案件についても目が離せない。

言うまでもなく殺人事件(とペットにまつわる小事件)の解決が本書の焦点となるのだが、ジョンストンはそれだけでは移り気な読者の関心をつなぎとめておけない、と判断したようだ。そのため、ケンドラはペット・シッターがらみのさまざまな何台に直面することにもなる。犬や猫だけではなく、ニシキヘビの世話まで任せられる、というのも苦労の一つだ。最初は蛇が苦手で仕方がなかったケンドラだが、次第に世話をすることに慣れていく。ペット・シッターとして働くことが、だんだんおもしろくなってきたわけです。『愛犬をつれた名探偵』には、ケンドラが再び第一線で活躍する弁護士に戻るのか、それともペット・シッターの生活を続けるのか、という関心も盛りこまれている。「働く女性の小説」としても、興味深く読めるはずだ。

 邦訳第二作の『いたずらフェレットは名探偵』では、ケンドラの店子が事件に巻きこまれる。彼女の邸の母屋を借りていたのは、リアリティーショーに出演したことで一躍セレブリティの仲間入りを果たした、シャーロットという娘だった。その彼女が飼っていたフェレットのそばで変死体が発見されたのである。遺体には多くの咬み傷が残っていたことから、フェレットが死に関与していた疑いが出てきた。州の法律ではフェレットの飼育が禁じられているため、シャーロットは深刻なトラブルに巻きこまれてしまうのである。

この一件を、家主でもあるケンドラが捜査することになるのだが、前作に引き続き彼女はペットに関する小トラブルを引き受ける。「殺人+ペットにまつわるトラブル」という大小の事件が同時進行で解決されるシリーズ、というのがジョンストンのプランのようだ。犬や猫を主人公にしたペット・ミステリーは多いが、こうした形でペットに関する全事象を題材とし、動物好きの関心を広くとらえるような作品は珍しい。独自性は非常に高いシリーズなのである。

 今のところ最後の邦訳作となっている第三作『目撃者は鳥カゴのなか』では、晴れて弁護士事務所に復帰したケンドラが、パートナーになるはずだった老弁護士の殺人事件を調査する。遺体のそばにいたコンゴウインコが目撃者となり、事件当時に聞いたと思われる、思いがけない音声をさえずり始めるのだ。題材とされるペットの種族が事件の性格を左右する、という第二作で確立された手法が、本篇でもうまく活用されている。

 見てきたとおりジョンストンのこのシリーズは、決して派手な作風ではないが、ペットの話題をふんだんに盛りこんで読者を飽きさせないし、ケンドラという女性が逆境に立ち向かってどう切り抜けていくか、という興味でも読ませる。ペットと二人暮らしの独身女性にはもっと人気が出てもいいのにな、と思う次第であります。あなたの周囲にもし、動物はなんでも好きだけどミステリーにはそれほど興味がない、という人がいたら、この作品を薦めてみてくれませんか?

 本書の評価は、ミシュラン方式で以下の通り。

 ストーリー ★★★

 サプライズ ★★

 キャラクター★★★★

 ロマンス  ★★★