『道化の館』上・下/THE LIKENESS (2008)
タナ・フレンチ(Tana French)/安藤由紀子・訳
集英社文庫/定価各880円(税込)/2010年12月16日発売
, 978-4-08-760617-1
数多くの新人賞に輝いた『悪意の森』に続く第2弾。
前代未聞の潜入捜査に刑事キャシーが挑む!
もしも、自分と瓜二つの他人と知り合えたなら……。試しに入れ替わってみて相手の生活を体験してみたい。デートだって代わりにしてみることができるかも(デートの相手次第だけど)。でも、本書の主人公、ダブリン警察の刑事キャシー・マドックスが自分のソックリさんに出会った時には、相手は刺殺死体になっていた。しかも被害者は、キャシーがかつて潜入捜査課に在籍していた時に作り上げた架空の人物「レクシー・マディソン」と名乗っていた。「レクシー」の素性は一体何なのか? なぜ殺されたのか? そして殺したのは誰なのか? キャシーはレクシーの死を伏せて、彼女が暮らしていた古い屋敷「ホワイトソーン館」へと向かう。死者になりすまして殺人事件を究明する、前代未聞の潜入捜査を試みるのだ。
そんな驚きの設定で幕を開ける本作だが、やがて焦点はホワイトソーン館に住む4人の男女とキャシーの駆け引き、さらには、レクシーの素性を探ることに当てられていく。そこに、アイルランドゆえの舞台が生み出すホワイトソーン館の暗い歴史や、地元住民との確執などが巧みに織り込まれ、真犯人がなかなか絞り込めない緊迫感をキープしたまま、グングンと物語は進んでいく。
作者タナ・フレンチは、デビュー作『悪意の森』でエドガー賞、バリー賞、アンソニー賞など数多くの文学新人賞を受賞。巧みな心理描写や緻密な文体で、たちまち注目を集める作家となった。そして、その『悪意の森』で主役だったロブ・ライアン刑事と鉄板コンビを誇っていた相棒のキャシーが、この第2弾『道化の館』の主人公。失ってしまったロブとの絆、現在の恋人で同僚刑事サムとの関係など、潜入捜査が“天職”のようなキャシーの、悶々とした「女」の部分をしっかりと押さえている。さらには、ホワイトソーン館で暮らす男女のキャラの肉付け方。大学院生である彼らが、キャンパス内のほかの学生からは浮きまくり、彼らを取り巻く現代社会にいまひとつ溶け込めない姿を巧みに描き出している。「ひきこもり」や「オタク」といった、日本にも通じる人間像。異国アイルランドの雰囲気たっぷりの作品でありながら、切ないほどのシンパシィを感じるのは、そういったタナ・フレンチの人間の捉え方にあるのかもれしれない。
発表年の2008年にAmazon.comミステリ部門でエディターズ・チョイス第1位に選ばれた本作の醍醐味を、ぜひ堪能してください!
タナ・フレンチ(Tana French)アイルランド、イタリア、アメリカ合衆国、マラウィ共和国で育ち、1990年以降はアイルランドのダブリンで暮らす。トリニティ・カレッジで演劇を学び、女優や声優として働いた。『悪意の森』で作家デビュー。エドガー賞新人賞をはじめ数々の文学賞新人賞を受賞し、一躍注目を浴びる存在になった。
●タナ・フレンチ公式サイト→ http://www.tanafrench.com/
担当編集者による特製力作リリース(3ファイル/画像クリックでPDFファイルを別窓でひらきます)
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