第4回

 さて、前回は、本を作るとどれぐらいの利益が出るかを考えました。

 例として、初版1万部・定価1000円で計算してみたところ、出版社の利益は1冊あたり190円という話でした。

 もちろん、現実にはウラがあって、宣伝費を削減したり、経費を切り詰めたり、さらには翻訳者の印税を値切ったり(ああ!)、ついでに社員の給料を減らしたり(あああ!)と、各方面に無理を強いることで、出版社はなんとか利益を確保しようと努力するわけです。

 読者のみなさんのなかには、「出版は文化事業なのだから、赤字覚悟で本を出せ!」と叱られることもあるのですが(とくにシリーズものの続巻が出せないときとか)、でも、会社が存続できないとどうにもならないのですよねえ。

 出版社がほんとうに報われるのは、本が売れて重版したときです。重版の際は、当初の費用はすでに処理がすんでいますから、支払うのは造本費用と印税ぐらいで、出版社の利益は増えるわけです。

 そうは言っても、出版社のもうけはこの時点で確保されたわけではありません。そこには、日本の出版の特殊事情がからんでくるのです。

「再販制度」という言葉をご存じのかたも多いでしょう。

「再販売価格(2010/12/24 07:54時点)維持制度」の略で、出版に即して乱暴に言えば、つまりは価格(2010/12/24 07:54時点)を崩さない、本は安売りしない、という意味です。

 ふつうの商売なら、商品の値付けを決めるのは小売業者ですね。仕入れ価格(2010/12/24 07:54時点)に利益をのせて決めるわけですが、出版においては定価を変えることはできないのです。

 ずっと売れ残っている本だとしても、あるいはちょっとぐらい汚れていたとしても、汚品として安売りする、などということは原則的にできないのです。

 さらに、出版では、実質的な委託販売制度が敷かれています。

 いま書店にならんでいる本のほとんどは、委託して店頭に置かれている状態です。じっさいは、経理的には金が動いて、本の所有はいったん書店に移る仕組みになっているのですが、売れなかった本は出版社に返品できるのです。委託制度というより、返品制度というべきでしょうか。

 第2回でお話ししたように、日本では年間約8万点という膨大な新刊が出ています。

 新しい本が入荷すれば、書店ではそれをならべる場所が必要になります。しかし、店内のスペースはかぎられていますから、新刊のために古い本を片づけなければなりません。そこで、売れ残っている本を出版社に返してしまうのです。

 出版社としては、返品されたぶんがマイナスとなって計上されます。3ヵ月ほど書店に置いてもらって、それでも売れなければ返品される、といった約束が一般的なのですが、現実には新刊が多いために期限より早く返品されてしまったり、それどころか、届いた新刊を店頭にならべずにそのまま返品してしまうケースもあるとかないとか……

 現在、この返品の割合が、ほぼ4割と言われています。つまり、出した本の40%は、売れずに出版社に返されてしまうわけです。

 前回例にあげた1000円の本を1万部作った場合で考えた場合、6割売れただけでは、利益に対して支払いが超過し、赤字になってしまうでしょう。しかもいまは、60%も売れない本がたくさんあります。

 もちろん、本によっては重版して利益を出せるものもあります。ただ、そういう売れ行きのよい本が減っているのが実情です。だからこそ、全体の返品率が下がらないとも言えるわけです。

 というわけで、せっかくのホリデー・シーズンなのに、気が重い話になってしまいました。やっぱり出版社はきびしいのですなあ。

扶桑社T

扶桑社ミステリーというB級文庫のなかで、SFホラーやノワール発掘といった、さらにB級路線を担当。その陰で編集した翻訳セルフヘルプで、ミステリーの数百倍の稼ぎをあげてしまう。現在は編集の現場を離れ、余裕ができた時間で扶桑社ミステリー・ブログを更新中。ツイッターアカウントは@TomitaKentaro

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