アンダーワールドUSA(上下)Blood’s a Rover (2009)

 ジェイムズ・エルロイ/田村義進訳

 ISBN 9784163742809(上)9784163742908(下)/発売中

 四六判上製/定価各1890円

 ケネディ大統領を殺し、キング牧師を殺した男たち。

 やつらが今、新大統領リチャード・ニクソンと手を組み、

 さらなる悪行に手を染める——ドミニカを手にいれろ。

 アメリカ文学の狂犬が10年の沈黙を破る白熱の超大作。

 1964年——LAの路上。現金輸送車が襲われた。警備員は皆殺しにされ、積まれていた現ナマとエメラルドが奪われた。その行方は杳として知れない。

 それから4年。アメリカは大統領選に燃えていた。民主党有力候補ロバート・ケネディは殺された。その恩恵に浴した男=リチャード・ニクソン。キューバの利権を失ったマフィアは、元刑事ウェイン・ジュニアを密使に仕立てる——ニクソンにカネを渡し、大統領となった暁には便宜を図ってもらいたいと。

 一方、FBI長官エドガー・フーヴァーは老齢によりパラノイアを悪化させていた。沸騰する黒人過激派運動がおそろしい/地下でうごめく共産主義者がこわい——フーヴァーは腹心のFBI捜査官ドワイト・ホリーに黒人過激派/共産主義組織の監視/浸透/破壊を命じる。ホリーは共産主義シンパの恋人を通じて非合法捜査に着手した。

 そしてLAでは窃視症を持つ若き探偵クラッチが、懸想する女性を尾行して侵入した家で凄惨なバラバラ死体に出くわし、覗きと盗聴によってアメリカのでっっっっっかい秘密に触れてしまう。JFK/RFK/キング牧師暗殺の実行犯たち。殺されないためには彼らと行動するほかない——アメリカの地下世界に生きるしかない。23歳の若き探偵が強いられるのは=不法侵入/拷問/国境侵犯/殺戮——ありとあらゆる悪行。

 黒人への共感を抱きつつ黒人たちを殺してきたウェイン・ジュニアを蝕む自責の念。フーヴァーの命を受けて動きつつも左翼の女たちに惹かれてゆくドワイト・ホリーの苦悩。国家の手先どもが展開する残虐行為を体験して鍛造されるクラッチの魂。

 迷宮のごとき陰謀の支流は、やがて源流たる1964年に奪われたエメラルドの因縁に合流、大いなる黒い奔流が招来するのは——悪い白人どもへの復讐の宴。

 死にゆく白人の帝国アメリカの断末魔がここにはじまる。

 2001年、9.11の日に日本語版が刊行された『アメリカン・デス・トリップ』から10年。長い長い沈黙を破り、ジェイムズ・エルロイの新作長篇が日本で刊行されます——ビン・ラディンが殺害されたこの年に。

 多くは申しません。十年の沈黙ののちもエルロイのパワーはビタ一文も劣化していない、その狂気めいた構想力と白熱の筆致はやはり唯一無二である、そう保証するにとどめましょう。

 映画《L.A.コンフィデンシャル》《ブラック・ダリア》の原作者としてエルロイを知るというかた、同じく7月に発売されたゲーム《L・A・ノワール》の世界観の原点となった作家としてエルロイを知ったというかた、あるいは冲方丁氏の“クランチ文体”の源流としてエルロイの名を耳にしたというかた——是非エルロイを体験ください。

 白熱/悲痛/激烈/緻密/ブルータル/ロマンティック——それが本作です。

(文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎) 

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