ハニー・トラップ探偵社The Honey Trap (2007)

 ラナ・シトロン(Lana Citron)/田栗美奈子訳

 定価:1900円(税別)/発売日: 2011/10/31

 ISBN: 978-4861823480

エロかわ毒舌キュート! ドジっ子女探偵の泣き笑い人生から目が離せません(しかもコブつき)——岸本佐知子さん推薦。

スリルとサスペンス、ユーモアとロマンス——一粒で何度もおいしい、ハチャメチャだけど心温まる、とびっきりハッピーなエンターテインメント。

 夫の不貞を疑う妻からの依頼を受け、“スペシャル・エージェント”と呼ばれる女性たちが夫に近づいてあの手この手で誘惑、はたして彼は妻に忠実な良き夫であるのかを確かめる、というのが、この本のタイトルにもなっている「ハニー・トラップ探偵社」の主たる業務内容です。そして本書の主人公であるイシー・ブロツキーはもちろん、ここに勤めるスペシャル・エージェントのひとり。彼女は、3歳半の息子マックスを女手ひとつで育てるシングルマザーでもあります。

 仕事に育児に奮闘し、さらに新しい恋を求めて大忙しの日々を送るイシー。しかし彼女の毎日は、おだてられて舞い上がり、調子に乗ってドジを踏み、余計なことを言ってはどっぷりと落ち込む、典型的なお調子者のそれなのです。そしてこの愛すべき我らがイシーの周りには、やはり個性的でアクの強い面々がたくさん。手術を受けて女性になる日を心待ちにしている、ハニー・トラップ社社長フィオナ。歌手を夢見るナディアはイシーの同僚で親友ですが、腹に一物ありげなやはり同僚のトリシャとイシーはそりが合いません。他にも、イシーの兄で同性愛者のフレディ、つっけんどんな近隣住人“スカーフェイス”などなどが、イシーの生活をよくも悪くも賑やかなものにしています。

 さて、そんな彼女にある日、奇妙な事件が降りかかります。息子マックスが自宅の中庭で、指を見つけてしまったのです。切断された、人間の、指。ところがうっかり者のイシーは、警察に届けなければと持ち歩いているうちに、あろうことかこの指を紛失してしまうのです。やがてどうにかこうにか再発見、警察に届け、捜査の進展を待っていると、この指がある殺人事件に関係していることがわかってきました。

 しかし、事件を担当する初老の刑事バンバスはマックスのベビーシッターである五十路のマリアとねんごろになり、イシーはイシーで被害者の息子に一目ぼれ。捜査そっちのけで、ストーリーは恋と笑いとに一層の拍車がかかっていきます。本書の読みどころはむしろ、訳者の田栗美奈子氏もあとがきに記しているように、「“困ったちゃん”だけど、なぜか憎めず、ついつい応援したくなる、ツッコミどころ満載の等身大のヒロイン」イシーの日々、にあると言えましょう。推薦文では岸本佐知子氏がこの魅力を、「エロかわ毒舌キュート!」の一語にギュッと濃縮してくださいました。まさに、言いえて妙です。

 ところで、本書の最後には殺人事件の犯人捜しとはまったく別に、ちょっとしたどんでん返しがひとつありまして、ちゃんと伏線もいくつか張られている。ミステリファンの読者の皆様には、ここにも注目していただきたいところです。

 著者のラナ・シトロンはロンドン在住の作家・脚本家・女優・コメディアンで、小説以外の著作にはキスについての研究書などというものもあるユニークな書き手です。本書が初めての邦訳となりますが、この「イシー・ブロツキー」シリーズには続篇があります。The Brodsky Touch がそれで、『ハニー・トラップ探偵社』が皆様に好評を持って迎え入れられた暁には、きっと続篇の邦訳もお届けしようと考えています。

 それでは皆様、是非ともこの“全面ピンク色の立方体”『ハニー・トラップ探偵社』を手に取ってお読みくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

(作品社編集部・青木誠也)

【著者・訳者略歴】

◇ラナ・シトロン(Lana Citron)アイルランド生まれ、ロンドン在住。作家・脚本家・女優・コメディアン。本書は4作目の小説。本書の続篇として、The Brodsky Touch(2007)がある。ほかに短篇集や、キスに関する研究書A Compendium of Kisses(2010)など。

◇田栗美奈子(たぐり・みなこ)翻訳家。訳書にリチャード・フライシャー『マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者』、ジョン・バクスター『ウディ・アレン バイオグラフィー』(以上作品社)他多数。