ミステリ試写室 film 4 恋人たちのパレード

 不意打ちのような親の死により、暗転する人生。あれ、最近どっかに似たような話があったなと思ったら、オージー産犯罪映画の「アニマル・キングダム」だった。あちらは、十七歳の少年が犯罪者ばかりの一家に引き取られていくというお話だったが、この『恋人たちのパレード』で無一文になった獣医志望の医大生は、ひょんなことからサーカス団で働くことになる。

 では、例によって予告編をご覧ください。

 原作は、カナダ生まれの女性作家サラ・グルーエンのベストセラー小説『サーカス象に水を』で、2008年にランダムハウス講談社からハードカバーで翻訳紹介され、ミステリ読者の間でも評判になったのは記憶に新しい。冒頭に語られる老人の回想の中に謎があり、事件はなぜ起きたのかをめぐり、物語は七十年という時を遡っていく。ミステリといえなくもないが、動物と人間の心の交流を暖かく描いている点でポール・ギャリコを思わせる面白さがあり、サーカス文化の華やかなりし時代の雰囲気が大きな魅力になっている作品だ。

 メガホンをとったフランシス・ローレンス(「アイ・アム・レジェンド」)にしても、脚本を書いたリチャード・ケグラヴェネーズ(「マディソン郡の橋」、「フィッシャー・キング」)にしても、そのあたりはよく心得ていて、原作よりもミステリ色はさらに後退しているものの、その分大恐慌下という時代のアメリカの空気や、鉄道で大陸を縦横に移動するサーカス団をノスタルジックに描くことに力が注がれている。

 しかし、なんといっても注目を集めているのは、今をときめく人気スター、ロバート・パティンソンが出演していることだろう。〈ハリー・ポッター〉シリーズにおける上級生セドリック・ディゴリー役での成功を皮切りに、現在も新作が公開中のステファニー・メイヤー原作〈トワイライト〉シリーズにおける美しきヴァンパイア、エドワード・カレン役での大ブレイクはすでにご存知のとおり。本作では、数奇な運命からサーカス団に加わり、そこで女曲芸師と恋に落ちる若くてハンサムな青年という役どころを演じている。

 お相手役は、アカデミー賞女優のリーズ・ウィザースプーン(「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」)だが、ときにこのカップルをもしのぐ活躍を見せるのが、サーカス団の団長でウィザースプーンの夫役であるクリストフ・ヴァルツだろう。タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」におけるナチス将校役がまだ記憶に鮮明だが、笑顔の裏側にサディズムを潜ませ、次第に嫉妬をつのらせていくサディストの不気味な存在感が、牧歌的なサーカスの日常や主人公らの燃え上がる恋と好対照をなし、観るものを不安にさせる。

 サーカスの映画といえば、オールド・ファンならずともセシル・B・デミルの大作「地上最大のショウ」(1952年)を思い浮かべるかもしれないが、この「恋人たちのパレード」は原作の持ち味を巧みに引き出した愛すべき小品として記憶されるに違いない。久しく品切れ状態が続き、ネットの古書店では定価の倍近くまで高騰していた原作が、映画の公開に合わせて文庫化されたのはめでたい。寡作のグルーエンだが(著作は4作)、本作のほかにデビュー作の「もう一度あの馬に乗って」(ヴィレッジブックス)も紹介されている。

※2012年2月25日公開予定。

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三橋 曉(mitsuhashi akira)

書評等のほかに、「日本推理作家協会報」にミステリ映画の月評(日々是映画日和)を連載中。

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