ミステリ試写室 film 11 野蛮なやつら/saveges
前回紹介したリチャード・スターク原作の〈PARKER/パーカー〉もそうだったが、今年の前半は原作ものの日本上陸がめざましい。この春先に公開されるものだけでも、トム・ブラッドリー原作の〈シャドー・ダンサー〉、デイヴィッド・ミッチェル原作の〈クラウド アトラス〉、ドン・デリーロ原作の〈コズモポリス〉、ジョージ・V・ヒギンズ(!)原作の〈ジャッキー・コーガン〉と、ミステリ映画のタグ付け可能な注目作がずらり。今回ご紹介する〈野蛮なやつら/saveges〉も、そのひとつだ。
原作者は、ご存じドン・ウィンズロウ。ニューヨークのストリートが出自という、青臭くもチャーミングな探偵役ニール・ケアリーのシリーズをひっさげ彗星のように登場し、大活躍していたこの作家が、21世紀に入るやパタリと鳴りを潜めてしまったのは、映像方面へと進出していたからだと思しい。その頃の仕事のひとつ、アメリカのNBC製作のテレビドラマシリーズ〈UCアンダーカバー 特殊捜査班〉は、日本でもテレビ東京やAXNでオンエアされたが、2005年には作家業の方もリブート、『犬の力』を皮切りに再び目のさめるような活躍を見せているのは、ずでにご承知のとおりだろう。
過去には、〈ワイルド・スピード〉シリーズのポール・ウォーカー主演で『ボビーZの気怠く優雅な生活』の映画化(日本公開タイトルは〈ボビーZ〉)もあったが、映像の世界への感心が深いことを窺わせたのは、2010年の『野蛮なやつら』である。映画のシナリオ形式が随所に顔を出す特異な文体は、独特の詩情ともあいまって、一篇のよく出来た映像作品を思わせる仕上がりで、刊行と同時に映画化の話がもちあがったという。オリバー・ストーン監督によるプロダクションがとんとん拍子に進んだのも、むべなるかなといっていいだろう。
というわけで、まずは予告編をどうぞ。
セレブな美女のオフィーリア(ブレイク・ライブリー)とともにコンドミニアムで暮らす植物学者のベン(アーロン・テイラー・ジョンソン)と元傭兵のチョン(テイラー・キッチュ)は、カリフォルニアのラグナビーチで、大麻の栽培というヤバイ商売に精を出していた。しかし、それをメキシコの麻薬カルテルに嗅ぎつけられたから、さぁ大変。送られてきた脅迫状がわりの殺人映像に浮き足だった彼らは、国外逃亡を企てる。
ふたりの栽培技術と販売ルートを手に入れたいカルテルは、オフィーリアを拉致・監禁するという荒っぽい手段に出てきた。覚悟を決めたベンとチョンは、オフィーリア奪還のため、仲間たちの助けを借りながら念入りな襲撃計画を練りあげる。
〈明日に向かって撃て〉直系ともいうべき、恋人まで共有するベンとチョンのコンビは、まさに現代のブッチ・キャシディとサンダンス・キッドだが、なんといってもこの犯罪映画の面白さを盛り上げるのは、個性際立つふたりの悪漢たちだ。カルテルの女ボス、エレナを演じるサルマ・ハエックは、〈デスペラード〉のヒロイン役で一躍有名になったが、仲間も震え上がる組織の女首魁と、家族のことで頭を痛める母親役という両面を見事に演じている。
一方、ベニチオ・デル・トロは〈ユージュアル・サスペクツ〉や〈スナッチ〉でミステリ映画好きにはおなじみだろうが、人の命など屁とも思わない冷血漢でありながら、ボスのエレナにはまったく頭があがらない。それでいて人一倍の欲と野心で、あれこれ裏工作に余念がないというワルだ。中盤以降の先の読めないオフビートな展開の面白さは、この悪役たちの暴走ぶりに負う所が大きいといって過言じゃない。
そして、もうひとり忘れてはならないのが、DEAの捜査官として登場するジョン・トラボルタである。ベンとチョンから賄賂を受け取りつつ、カルテルの殺し屋にも色目を使うこの胡散臭い小悪党が、終盤は思いもかけない役まわりで、物語を驚天動地の結末へと向かわせる。かのタランティーノも真っ青のクライマックスといっていいだろう。
原作者のウィンズロウは脚本にも参加し、自らの原作がまるでシノプシスに過ぎなかったかのように、もうひとつの物語として本作を再構築してみせた。映画はヒロインであるオフィーリアの独白で幕をあげるが、この一人称がのちのちの伏線になっていくことに注目したい。結末にはヤッホーと叫びたくなること必至。原作が贔屓のあなたも、イマイチだと思ったあなたも、この映画はぜひ観るべきですよ。
映画づくウィンズロウは、映画化を前提に本作の前日譚にあたる『The King of Cool』をノリノリで書き上げていて、その他にも『カリフォルニアの炎』と『犬の力』の映画化も進行中だという。ウィンズロウと映画の蜜月は、まだまだ続きそうな気配だ。
※3月8日(金)よりロードショー公開予定
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三橋 曉(mitsuhashi akira) |
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