『海外ミステリ・ハンドブック』のうちあわせの際にカバー&本文デザイナーの森ヒカリさんにお伝えしたカバーのコンセプトは——

「ハンディー、キャッチー、ラブリー」

 ——でした。

 想定読者をビギナーさんとし、目玉企画の海外ミステリ作品〈100冊ガイド〉を気軽に楽しんでもらいたい。

 編集部では社内企画が通った時から考え続けました。何度も。

 そして「作品ガイドの紹介枚数は1作品2枚」「客観的なミステリの評価・構造分析ではなく書き手の想いの入ったエッセイで」「本文デザインの文字間・書体にこだわり読みやすく柔かい印象になるように」といった規則にのっとり編集を進めました。

 楽しんでもらうということから、今まさに読者が楽しまれている事柄をフックにして紹介するのが一つの方法。《SHERLOCK》のようにすてきなキャラクターが主人公をはるミステリを集めよう、《相棒》のように二人の友情にきゅんとくるミステリを紹介しよう、そんなふうに入りやすいカテゴライズをしました。

1.〔個性豊か〕キャラ立ちミステリ

2.〔新発見いっぱい〕クラシック・ミステリ

3.〔カッコいい!〕ヒーロー or アンチ・ヒーロー・ミステリ

4.〔どこかユーモアがある〕〈楽しい殺人〉のミステリ

5.〔胸にぐっとくる〕相棒物ミステリ

6.〔もはや一大ジャンル〕北欧ミステリ

7.〔風土色豊か〕英米圏以外のミステリ

8.〔読み出したら止まらない〕エンタメ・スリラー

9.〔後味がくせになる〕イヤミス好きに薦めるミステリ

10.〔時代を作る・作った〕新世代ミステリ

 二十数年前に刊行した『ミステリ・ハンドブック』にはなかった用語、コンセプトが入っており、時代は変わっていくのだなあとあらためて感じます。

 今回の『海外ミステリ・ハンドブック』はこの「マニア向けの」『ミステリ・ハンドブック』があったからこそ刊行ができました。その前を辿ると、ハヤカワ・ミステリ文庫が一九七六年の創刊から今までミステリを出し続けていたから多様な作品群があったわけで、そもそも1945年に早川書房が創立してミステリ編集者がバトンをつないできてくれたからこそ、ミステリのガイドブックを刊行するに到ったわけです。

 その意味で、本書は早川書房のミステリ編集者全員で作った本といえます。何人いたかもう数えることもできないくらい多くの編集者の仕事が、つないでつながれて「読者に海外ミステリを楽しんでもらいたい」という想いのこもった1冊のガイドになりました。10年、20年、30年さらにつながれて、100周年100冊ガイドをお届けできたらと思います。

(早川書房編集部)