kindleにステキなお手製のカバーをかけている奥様、こんにちは。iPadのケースをビーズやラメでデコっているお嬢様、ごきげんよう。七福神でも挙げられていた『火曜日の手紙』『ローマで消えた女たち』は7月電子化予定なので、来月の紹介に回しますわね。一ヶ月待っててね。

 武田ランダムハウスから出されていたリヴィア・J・ウォッシュバーンの〈お料理名人の事件簿〉シリーズが、ヴィレッジブックスで再開されましてよ! シリーズ第5作『焼きたてマフィンは甘くない』(赤尾秀子訳・ヴィレッジブックス)は、元教師ばかりが集う下宿屋を切り盛りする六十代のフィリスがヒロイン。今回は感謝祭のお祭りで、飾り付けの案山子の中から死体がゴロリという事件。

 これね、実はこの手の量産型コージーにしてはかなり珍しく、謎解きがとてもきちんとしている! 犯人が誰かというのはけっこうあからさまに怪しい箇所があるので気付く人も多いだろうけど、「なぜ」「どうやって」にはかなり感心したよ。小さなエピソードがきれいに伏線として生きてくる。いやあ、なめてました。謝ります。この手にありがちな「順に人を疑って詮索して、いきあたりばったりで犯人にぶつかる」というパターンに辟易してる読者にはお勧めです。

 ただ、気になることもある。コージーにおけるヒロインの年齢や設定には、ちゃんと意味があるもの。ミス・マープルやブロンクスのママ、アンジェラ&キャレドニア、おばちゃまスパイのミセス・ポリファクスが「おばあちゃん」なのも、アガサ・レーズンやヘンリー・Oがバリキャリからのリタイヤ組なのも、物語のテーマとリンクしてる。

 が、少なくともこの巻に関して言えば、フィリスにはそれがない。彼女が六十代であるという設定が何のためなのかイマイチ見えないのよね。でもまあ、小さな町での生活感、おいしそうな料理場面というあたりは鉄板。しかもミステリの様式がしっかりしてるという点では、お薦めです。キャラで読むタイプの読者には、ちょっと個性と毒が薄いかな。

『私の職場はラスベガス』に続くシリーズ第2弾、デボラ・クーンツ『規格外ホテル』(中川聖訳・創元推理文庫)は、ラスベガスのカジノホテルでトラブルシューターとして働く三十代半ばのラッキーがヒロイン。今回もトラブル続出で大忙しです。

 わははは、楽しい楽しい。ユーモア、ロマンス、お仕事小説といったあたりが絶妙にミックス。路線としてはエレイン・ヴィエッツやマーガレット・デュマスをもっと盛りだくさんにしてドタバタを強めたって感じかな。

 ただ、登場人物は多いし、そのどれもがアクが強いし、事件は同時多発的にバタバタするし、それに輪をかけてラッキーはバタバタするしで、ノッちゃえば一気なんだけどノレないと苦労するタイプのお話。人間関係けっこう複雑なので、『私の職場はラスベガス』から読んでおいた方が、序盤で戸惑わずに済むかと。

 奇蹟の合作が一冊にまとまりました。スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス『被告人、ヴィザーズ&マローン』(宮澤洋司訳・論創海外ミステリ)は、ふたりの代表的なキャラクターであるミス・ヒルデガードと弁護士マローンが協力し合って謎をとく短編集。序文の「やる気満々のヒルデガード、飲む気満々のマローン」てのが名フレーズ過ぎる! 詳細は「クラシック・ミステリ玉手箱」でストラングル・成田さんが魅力たっぷりに紹介して下さってるのでそちらをどうぞ。

 ふたりの作家がそれぞれのシリーズキャラを出して合作する例と言えば、ビル・ブロンジーニとマーシャ・マラー夫妻の『ダブル』(名無しの探偵とシャロン・マコーンの共演)とか、同じくビル・ブロンジーニとコリン・ウィルコックスの『依頼人は三度襲われる』(名無しの探偵とヘイスティング警部の共演)ってあたりしか浮かばないんだけど、他に何かあったかな? 

 カーラ・ノートン『密室の王』(羽田詩津子訳・角川文庫)はミッシング・チャイルドを扱った社会派サスペンス。現在21歳のリーヴはローティーンのとき、小児性愛者に三年以上も監禁されていた経験を持つ。事件当時からずっと診てくれているラーナー医師のカウンセリングを受けながら、癒えない傷を抱えて生活している次第。

 そんなとき、別の町で1年以上行方不明だった少女が監禁された状態で見つかります。ラーナー医師はケアのために現地に向かうけど、被害者の家族はリーヴにも来て欲しいという。同じ痛みを持った女性だから、被害者の少女と話して欲しいというのね。それを受けて医師に同行したリーヴは、まだ他にも行方不明の少女がいることを知って──。

 著者はもともとこの問題に造形の深いノンフィクションライターとのことで、被害者のメンタルや報道によるセカンドレイプの様子はさすが。犯人の奸計、犯人との追いつ追われつの精神的なチェイス、アクションなど、サスペンスとしても読みどころ満載なんだけど、これはやはり、忘れられない強烈なトラウマにひとりの女性がどう向き合い、どんな道を選んだかというところに主眼を置いて読みたい。サスペンス部分より、むしろそちらが著者の書きたかったことだと思う。銀の女子ミスにするか最後まで迷いました。

 そんな『密室の王』と最後まで争った今月の銀の女子ミスは、信頼と実績のリース・ボウエン『貧乏お嬢さま、空を舞う』(田辺千幸訳・原書房コージーブックス)だ! シリーズ三作目、この巻から翻訳が田辺さんに変わりましたね。

 お馴染み貧乏お嬢さまのジャージーが久々に里帰り。ただし内務省からのミッション付き。最近続発する王位継承者を狙う事件について情報収集を頼まれたのだけど──。帰ってみると兄は大けがで療養中、仲の悪かった姉はアメリカからの来客にほとほと参ってジョージーに頼る始末。しかもジョージーまで危ない目に……。

 もうね、安定して面白い。過去二作では貧乏な中でお嬢さまがどう暮らしていくのか、その工夫のしどころが面白かったんだけど、今回は実家で(貧乏ではあるけど)食べるものがあって馴染みの使用人たちがいて、ちゃんと貴族としての生活をしてるのが新鮮。だからいつにもましてジョージーの「育ちの良さ」が出て、読んでて爽やかなのよ。そこに「お客さん追い出し作戦」とか「急に増えたお客さんの料理をどうするか」といった極めて生活感溢れるコミカルな場面が入って来る、その面白さと言ったら! 毎回違った視点で楽しませてくれるホントに上質なコージーです。

 犯人はやや唐突だけど、イギリスの歴史を垣間見る興味深さで相殺。そして小さなエリザベス王女が可愛いよ! これはぜひスーザン・イーニア・マクリール『エリザベス王女の家庭教師』と併せてお読みいただきたい。

 今月の金の女子ミスは、ベリンダ・バウアー『ラバーネッカー』(満園真木訳・小学館文庫)に決定!

 主人公はアスペルガー症候群の少年、パトリック。彼は幼い頃、父親が交通事故でなくなるのを目撃し、以来「死」について考え続けてきた。理学系に才能があったパトリックは長じて大学で解剖学を専攻。ところが実習で献体の解剖をしているときにあることに気付き、この遺体は殺されたのではないかと疑い始め──。

 解剖学を学ぶパトリックの章と、昏睡患者を収容する病棟の章の二本立てで物語は進みます。病棟のパートでは、意識はあるもののそれを伝える術を持たない患者が殺人を目撃するという話が書かれ、もちろんパトリックの章と絶妙に絡んでくるわけよ。何がどうつながるのか、パトリックの推理はどこに向かうのか、もうドキドキよ!

 本筋のミステリ部分は決して捻っているわけじゃなく、むしろストレートと言っていい。ただ主人公がアスペルガー症候群という設定で、周囲の感情やルールを巧く把握できないことに加えて自分の探究心にはストレートに従うため、「やだー、ちょっと待てーー!」とヒヤヒヤしたり、「あ、夾雑物なしに物を見るってそういうことなんだ」と蒙を開かれたりする、その心理的なサプライズがミステリをいっそう盛り上げてるわけです。

 パトリックはとってもキュートで、探偵役としては実に魅力的。けれど同時に、周囲の人は彼に近ければ近いほど難しい問題があるってことが伝わってくる。周囲がとるべき行動の「正解」って何?──というのは『密室の王』でも感じたことですが、本書は「他者を見る」とはどういうことなのかについて、いろいろ考えさせてくれます。

 そして読み進むと、サプライズはひとつじゃなかったと気付かされる。それを知ったとき、それまでとは別の感情がぶわーーーっと沸いてきて、もうたまらん……。さっき、「本筋のミステリ部分は決して捻っているわけじゃない」と書いたけど、本筋以外がめちゃくちゃ捻ってあって、それがいちいちビックリなの! それがぜんぶ、「他者を見る」とはどういうことか、につながるの!

 これを「女子ミス」に入れてしまうと逆に読者を狭めてしまうかもなーという懸念もあるんだけど、面白かったので選ばずにはいられない。男性も女性も読むが吉!

大矢 博子(おおや ひろこ)

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  書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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