カープ女子の奥様、こんにちは。オリ姫のお嬢様、ごきげんよう。わがドラゴンズも女性ファンをドラジョとかドラ娘とか呼ぼうって話がありましたが、定着しませんでした。でも、だからといってスワローズの「ヤクルトレディ」ってのはやっぱり違うと思うのよ。何の話だ?

 まずはダイアン・デヴィッドソン『クッキング・ママの最後の晩餐』(加藤洋子訳・集英社文庫)から。なんとクッキング・ママ・シリーズ最終作です。1994年に訳出が始まって22年、全17巻をすべてきちんと届けてくださったことにまずお礼をいいたい。ドロシー・ギルマンおばちゃまシリーズもそうだった。いつの間にか訳出が止まることの多いコージーで、よくぞここまで……ありがとう集英社文庫(感涙)。

 で、このシリーズは女子ミス史においてとても大事なので、ちょっと長く書きますね。このクッキング・ママはのちのコージー界の流れを作った里程標的作品なんです。バツイチのシングルマザーでケータラーという職業を持ち、レシピがついて、ロマンス(途中で結婚)もありという設定。あ、ケータラーでレシピつきというのはキャサリン・ホール・ペイジフェイス・フェアチャイルド・シリーズがほぼ同時期に始まってます。でも影響を与えたという店では、クッキング・ママの方に軍配があがる。

 ただ、のちの量産型コージーと違うのは、このシリーズにはアメリカの家庭にからむ社会問題がテーマにあったこと。特にDV。ヒロインのゴルディがDV夫から逃げ出すところからシリーズが始まるのも象徴的だし、トムと結婚する第4作くらいまでは、ホントにコージーかというくらいシビアで暗い。DVの問題はその後も随所に登場します。

 他にも教育問題や保険、教会などなど、社会との関わりがこのシリーズは大きかった。ケータラーという仕事も決して「お仕事コージー♪」という感じではなく、DV夫から逃げた若い女性が幼い子供を抱えて自活する道、ということで始めたわけだし。

 ところが、時代の流行なのか、6作目の『クッキング・ママの検屍書』あたりからかなあ、今のコージーにも通じるような「好奇心で無鉄砲に首を突っ込む」というゴルディのキャラが目立ってきて、8作目『〜の真犯人』以降は、「周囲は止めるのに無鉄砲に首を突っ込んで危機一髪でトムに助けられる」というパターンがしばらく続きます。思えばこの頃は、量産型コージーが出始めた時期です。そういうのが求められた時代だったのかもしれない。正直にいうと、ここで私、脱落しかけました。

 ということで、このシリーズは良くも悪くも今のコージーの元になってるわけです。でもね、本書はいいよ。久しぶりに、謎と謎解きがメインの、しっかりしたドメスティック・コージーを読んだ気分。夫と息子、トラウマを乗り越えたヒロイン、頼りになる同僚、信頼できる親友、犬。そんな要素がしっかり入った上に、「ゴルディの無鉄砲な調査」にはすべて警察の監視がつき、ゴルディもある程度自覚して、夫や警察に隠し事はせずカードをすべて見せるという、読者を安心させる設定にしてあるのがマル。

 そして幸せな大団円。シリーズの完結としてはサイコーじゃないかしら。

 メアリー・クビカ『グッド・ガール』(小林玲子訳・小学館文庫)の謝辞を見ると、本国ではハーレクインMIRAから出たのかな? でも日本のMIRA文庫から出るタイプの話じゃありません。ある夜、突然、美術教師のミアが男に誘拐される。彼女はその後解放されるんだけど、記憶を失っているらしく、誘拐されている間に何があったのかわからない──というのが物語の始まり。物語は犯人のコリン、ミアの母イヴ、そして捜査担当刑事ゲイヴの三人の視点で、「その前」「その後」が入り混じって綴られるという趣向です。

 誘拐をめぐるサスペンスで、話がどこに向かうのか、ハラハラしながらページをめくったね。構造が上手いから引き込まれちゃうのよ。特にミアと誘拐犯コリンの奇妙な共同生活はとってもスリリング。ただ、趣向が勝ちすぎて、ミアやイヴの心情変化の描写が類型の枠内だったのがちょっと残念かな。でもサスペンスとしても、ミステリとしても面白く、一気読みでした。ネタを割っちゃうので言えないけど、日本の人気作家の誘拐ミステリを想起したわー。

 サラ・グラン『探偵は壊れた街で』(高山祥子訳・創元推理文庫)は久々に登場した女性私立探偵小説……なんだけどもさ。うわあ、なんだこのヒロイン! クレア・デウィット、35歳(でも周囲には42歳だと言ってる)。2005年に巨大ハリケーンが襲ったニューオリンズが舞台。ハリケーンのあとで姿が見えなくなった叔父を探して欲しいという依頼を受けたクレアが、その行方を捜すという話。ハードボイルドっちゃあハードボイルドなんだけども、これまでの女性私立探偵をイメージしてると戸惑うよー。

 彼女に探偵のなんたるかを叩き込んだ師匠コンスタンスと、さらにそのコンスタンスの師匠が書いた『探知』という本。このふたつがクレアのバイブルで、その探偵法つったらアンタ、調査というより占いに近い。言うこともいちいち、どっかから電波受信してますか? みたいな? 午前1時過ぎに依頼人にいきなり電話して、「電話は十時か十一時くらいまでにしてもらえないか」という当然の要求に、説明なしで「できません」とだけ返す大人がどこにいる? 壊れてんの街じゃなくて探偵の方じゃん!

 でもそれがなんか癖になる。クレア、何なの? ってのが気にかかる。たぶん好みは分かれると思うけど、クレア本人の謎もあって、続きを読んでみたくなります。評価はそれまで保留、かな。

 M・C・ビートン『メイフェアの不運な花嫁 英国貴族の結婚騒動』(桐谷知未訳・ラズベリーブックス)は変り種。「アガサ・レーズン」シリーズの著者ですね。「メイフェアの不運な花嫁」と「メイフェアの勇敢なシンデレラ」という二作の中編が収録されてます。

 舞台は19世紀初頭のロンドン。過去に事件があったため縁起が悪くて借り手のつかなかったお屋敷に、スコットランドから酔いどれ弁護士と被後見人のフィオナ嬢がやってきます。このフィオナ、ぼんやりさんと見せかけて実はなかなかの策士。その知略でロンドン社交界を渡り歩き(ミステリ的趣向もあってめちゃくちゃ面白いぞ!)、ナイスな夫を手にいれる……っていう話。でもね、これ、主人公はフィオナじゃない。この屋敷の使用人たちなのよ、

 つまり、グランドホテル形式なの。使用人は主人じゃなくて屋敷についてるのね。執事も家政婦も料理人も従僕も部屋係も家事係も皿洗いも厨房助手も、みんな訳ありで、この屋敷から出ていけない。でもその分、家族みたいに結束してる。この使用人たちが、次々と変わるご主人様を、その都度助けてロマンスを成就させるってシリーズなのよ。長靴を履いた猫たちって感じ。だから第2話では、まったく別のヒロインの、まったく別のロマンスが始まる。

 こんな手があったんだねえ。これはおススメです。面白かった!

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 今月の 銀の女子ミスは、リース・ボウエン『貧乏お嬢さま、吸血鬼の城へ』(田辺千幸訳・コージーブックス)だ! シリーズ4作目。英国王室を代表してルーマニア王家の結婚式に参列することになったジョージー。ところが会場は吸血鬼伝説のあるブラン城だった。そして予想通り、不可解な事件が……。

 面白かったーー! ここまでのシリーズでいちばん好き。急いで雇ったメイドのダメダメっぷりなんてもう、完全にコメディよ。お目付け役のおばさんも、その同行者も、キャラ立ちまくり。結婚式前に重要人物が殺されるなんて不祥事はとんでもないってことで、みんなして事件を隠すことにおおわらわ。細かいことが積み重なってさらに笑いを読ぶ。舞台がお城の中(しかも雪に閉ざされたクローズドサークル!)に限定されてるせいか、なんだか上質なシットコムを読んでるような気分になったわよ。

 でもそんな中で、王家に課せられた義務や、地位にたいして要求されることと個人の幸せの折り合いなど、この時代ならではのシビアな側面がさりげなく語られるのがこのシリーズのいいところ。ドタバタだけじゃないんだゾ。

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 今月の金の女子ミスは、15歳だったときの詩人エミリー・ディキンソンをヒロインにしたマイケラ・マッコール『誰でもない彼の秘密』(小林浩子訳・東京創元社)に決定! これガーリーですっごくステキですよ。

 エミリー・ディキンソンは1830年生まれだから、物語の舞台は1845年あたり。エミリーは偶然あった若い男性と、互いに名乗らないままに楽しい時を過ごす。また会う約束をして別れたが、数日後、エミリーの家の敷地内で、その彼の死体が見つかった……。

 いやもう奥さん、初恋ですよ初恋。自分と関わりのある人が、正体不明のまま無縁墓地に葬られようとしているのがたまらず、調査を開始するエミリー。ミステリとしての真相にはさして意外性はないんだけども、「くるぶしが見える短いスカート」とか「手作りのバター(しかも、買えるものを手作りすることこそが家庭婦人の務めであるという母親の教え)」とか「植物標本」とか「洗濯の日」とか「うるさいからと処分されたお兄様の雄鶏(去勢済み)で作るチキンパイ」とか「クローバーとスイカズラと青リンゴの味の蜂蜜」とか「病弱アピールの母」とか、もうね! こういう時代と生活と小道具がね! すみからすみまでガーリー成分の細密充填!

 しかも調査に協力する妹がまたいいんだなあ。おしゃまだけど冷静で、突っ走る姉のブレーキになる。妹が姉に向かってこういうの。「エミリー、あなたがやったことはみんなはしたなくて、あなたらしくないけど──でも、すごく正しいわ」……ここ、何度も読んだね。19世紀の良家の子女にあって「はしたないけど正しい」という価値観の素晴らしさ!

 詩人エミリー・ディキンソンを知らなくても何の問題もありません。日本で言えば、与謝野晶子の少女時代みたいなもんかなーくらいに考えておけば……いや、ずいぶん違う気もするが、まあいいか。もちろん知ってれば、随所にまぶされた「現実の取り入れ方」に驚けるんだけど、でも、まったくのフィクション、ガーリーミステリとして楽しむのでも充分です。

 シックなピンク地に花や虫があしらわれた装丁は、部屋の本棚に面陳したくなるくらい素敵だし、カバーを剥ぐと、誰しも1枚はこういう柄のワンピース持ってるわ、という小花模様。心の中の乙女がきゅんきゅん言うよ!

 しかもこれ、高名な文学者の少女時代を探偵にするというシリーズで、このあとはブロンテ姉妹やオルコットの話も書かれてるんですって。楽しみでしょうがない。期待も込めての金の女子ミス進呈だ!

大矢 博子(おおや ひろこ)

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  書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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