みなさまこんにちは、瀬名秀明です。
いつも「シムノンを読む」をご覧いただき、本当にありがとうございます。
今回は別件のお知らせで参りました。
いま黒田藩プレス(https://www.kurodahan.com/wp/j/)という出版社が、「Kurodahan Press Translation Prize」を開催しています。公式告知URLはこちら。
https://www.kurodahan.com/wp/e/khpprize/
これは日本語で書かれたショートストーリーを英訳する翻訳コンテストで、毎年おこなわれていますが、今年の課題作品に拙作「AIR」が選ばれています。
黒田藩プレスは『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』(山田順子訳、2010)のように海外の文芸作品を邦訳出版するだけでなく、日本のホラー、SF、ミステリーなど多彩な小説作品を積極的に英訳し、世界に発信している出版社です。ほかでは見られない、こう来たかと唸るようなラインアップが特徴的ですね。
今回「Kurodahan Press Translation Prize」の課題となった拙作「AIR」は、最初『異形コレクション 48 物語のルミナリエ』(光文社文庫、2011、現在は品切)に寄稿したショートショートです。その後、若干の改稿を加えて、拙短篇集『夜の虹彩』(出版芸術社、2014)に収録しました。今回の課題テキストは『夜の虹彩』版です。
もちろん短篇集を1冊お買い求めいただければ嬉しいのですが、テキストは応募要項(https://www.kurodahan.com/wp/khpprize/2019prize.pdf)の末尾に付載されていますので、そちらで読んでいただいても構いません。黒田藩プレスからこの小説を課題にしたいとご連絡いただいたときは、正直いって驚きました。自分でもこれが英訳されたときの文章がまったく想像できなかったからです。
そしてすぐさま、自分でもこの英訳文を読んでみたい! と思いました。
応募締切は今月末、2019年9月30日です。
締切近くのお知らせとなってしまい、大変に申し訳ありません。ですがこちらのブログサイトではミステリー翻訳にご興味をお持ちの方も多いのではないかと思い、作者である私から事務局にお願いして機会をいただき、お知らせに参った次第です。
『物語のルミナリエ』は東日本大震災があった2011年に刊行されました。私も仙台で地震に遭いました。最初のうち、私は自分自身の体験をエッセイや小説に置き換えるつもりはなかったのですが、その後、東京の出版社から次々と「いま人々が本当に求めているのは物語だ。ぜひ新作を書いてほしい」という依頼があり、ああ、このような震災は被災地だけの問題ではなく、日本中すべての人にとっての問題なのだと強く感じました。すべての人が被災者だったのです。『物語のルミナリエ』も監修者である作家・井上雅彦さんの強い想いから生まれた本だったと私は思っています。
今回の課題「AIR」は、そんなふうに感じながら当時私が書いた震災についての短い一篇です。井上雅彦さんの小説がお好きな方なら、これが井上さんのショートショートの代表的傑作「よけいなものが」への返歌となっていることに気づかれるかもしれません。「よけいなものが」は私が編んだアンソロジー『贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに』(光文社文庫、2006、現在は品切)にも入っています。
ご興味がありましたら、ぜひ英訳にチャレンジしていただければと思います。翻訳というすばらしい文化は私も大好きです。グランプリ作品を読むのをいまから楽しみにしています。
私の小説は現在、『パラサイト・イヴ』が英語で読めます。これはやはり日本の文芸作品やマンガの英訳紹介に力を入れてきたVertical, Inc.(http://www.vertical-inc.com)からの出版で、ハードカバーとペーパーバック版(http://www.vertical-inc.com/books/parasiteeve.html)は好評のうちに刷り部数すべてを売り尽くし、現在は電子書籍版で購入することができます。翻訳はタイラン・グリロ Tyran Grilloさんがおこないました。
いまでこそ日本の文芸小説はたくさん英訳され、英語圏で文学賞の候補になったりしていますが、当時はまだ日本のジャンル小説が海外に翻訳紹介されるルートはほとんどなく、『パラサイト・イヴ』の英訳版も刊行までにはかなりの紆余曲折がありました。結果的に、当時まだ若かったタイラン・グリロさんが自主的に拙書を翻訳して出版社に持ち込んだ原稿が日の目を見ることになりました。医学用語などの難しい英訳部分は私も全面協力して英訳原稿に書き込んだことを懐かしく思い出します。ハードカバー版はマイクル・クライトン『ジュラシック・パーク』やディーン・クーンツ『インテンシティ』、村上春樹『1Q84』を手掛けた著名装幀家、チップ・キッド氏の鳥肌が立つほど見事な装幀に包まれて発売されました。
私の初期の本は韓国やアジア圏でも何冊か翻訳出版されましたが、そちらは現在、諸事情により品切となっています。それでも、自分の小説が言語を超えて読まれるのはいつの時代でも本当に嬉しいものです。
黒田藩プレスの「Kurodahan Press Translation Prize」、どうぞよろしくお願いします。
瀬名 秀明(せな ひであき) |
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1968年静岡県生まれ。1995年に『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞受賞。著書に『月と太陽』『新生』等多数。 『石の花』などで知られる漫画家・坂口尚氏の未完コミック作品をリブート、小説化した長篇『紀元ギルシア』が、《WEBコミックトム》にて連載中(http://www.usio.co.jp/read/kigen_greecia/index.html)。 ■最新刊!■ ■解説:瀬名秀明氏!■ |
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