しかし、ここでも1位にするのはシャクなので、無理に2位にしてみた。我ながら強引だとは思うけれど許されたい。で、1位がジョン・ハート『川は静かに流れ』。某翻訳家が主宰する読書会のテキストになったとき、36名中18名(半分だ!)に批判され、深く傷ついて帰宅したのがついきのうのことのようだ。あんなに批判されるとは思ってもいなかった。このぶんでは各種のベストでも上位は難しいかもしれない。そういえば、『ハドリアヌスの長城』とか『モスクワ2015年』とか、私の熱烈ベスト1が「このミス」や「週刊文春」で11位とか12位とか、ベスト10を微妙に外した年を思い出す。個人的なベスト1が、みなさんのベスト1と重なったことが一度もないのだ。今回も11位あたりかも。
しかし、だからこそ、強く推したい。私が推さなかったら誰が推すのだ。ジョン・ハートの第1作『キングの死』(これも傑作だ!)が家族小説であったように、今回も家族小説である。私が書いた新刊評を引く。
「主人公のアダム・チェイスが5年ぶりに故郷に帰ってくるところから始まるこの長編は、2008年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作だが、読み始めるとやめられなくなる」
「5年前に故郷を離れたのは殺人事件の容疑者として逮捕されたからだ。結局は無罪放免されるものの、居づらくなって彼は町をあとにする。戻ってきたのは幼なじみのダニーが、人生を立て直すにはアダムの力が必要だと連絡がきたからだ」
「そこに、アダムが幼いときに母が自殺したこと、父が再婚して弟と妹ができたこと、学校をさぼってダニーと遊んでいたこと、実の兄妹のように育ったグレイスのこと−−そういう過去の回想がどんどん挿入されていく」
「すなわち、小説のコクに溢れているのが第一。人物造形にすぐれているので何気ない風景までもがきらきらと光っていることも、この作者の美点としてあげておきたい」
書き写しているうちに初読のときの興奮が甦ってくる。いい小説だ。胸に残る小説だ。