すでに広く報道されていますとおり、翻訳者の浅倉久志さんが2月14日(日)午後7時、心不全で逝去されました。1930年3月29日生まれ。享年79。

 1962年に翻訳家としてデビュー、初の長篇翻訳作品は64年のルイス・パジェット『ミュータント』。それ以来、カート・ヴォネガット(・ジュニア)やフィリップ・K・ディック、ウィリアム・ギブスン、ジャック・ヴァンス、コードウェイナー・スミス、R・A・ラファティ、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアなどの作品の翻訳から、確かな鑑識眼に裏打ちされたアンソロジーの編纂まで、SFの翻訳での業績は語りつくせません。

 ホラーの分野では、映画《ショーシャンクの空に》の原作、中編「刑務所のリタ・ヘイワース」を収録したスティーヴン・キング『ゴールデンボーイ』も忘れがたい一冊です。

 ミステリ・ファンであれば、アメリカン・ユーモアの精髄を絶妙な翻訳で伝えた『ユーモア・スケッチ傑作展』をご記憶の方も多いでしょう。『アンドロメダ病原体』でマイクル・クライトンを日本に紹介した功績も忘れてはなりません。またハードボイルドの熱烈なファンでもあった浅倉さんは、この分野でもリチャード・ホイトの『デコイの男』にはじまる〈私立探偵ジョン・デンスン〉シリーズや、リイ・ブラケット『非情の裁き』の訳業を残されています。ユーモア・ミステリでは、ロン・グーラート『ゴーストなんかこわくない—マックス・カーニイの事件簿 』や、リチャード・ティモシー・コンロイ『スミソン氏の遺骨』にはじまる3部作をご記憶の方も多いでしょう。

 作品の魅力を生き生きと伝えるあとがきや未訳作品の紹介、お人柄をうかがわせる洒脱なエッセイでも、たくさんの読者を楽しませてくれました。その一部は、唯一のエッセイ集『ぼくがカンガルーに出会ったころ』に収録されています。

 その多大なるご功績を讃え、ここに深甚なる哀悼の意を表します。浅倉さん、これまで本当にありがとうございました。