森の惨劇/Cover

ジャック・ケッチャム(Jack Ketchum)著/金子浩訳

扶桑社ミステリー/定価780円(税込)/発行年月日:2010/08/10

ベトナム戦争からの帰還兵リーは、心に深い傷を負って現実生活に適応できなくなり、人里離れた山中で愛犬とともに暮らしています。マリファナを栽培しながらの夢と現が交錯する生活。しかし、そこに人気作家ケルシーを中心とした仲間6人がキャンプにやってきて……。

山に気楽な気分で入ると、大変なことが起きる……。

なんとなく現実の事件にも当てはまる気がしてぞっとしますが、今回のお題は、

ケッチャム版「ランボー×13金」

傑作『オフシーズン』『隣の家の少女』のあいだに書かれた、“もっともケッチャムが危険な作家だった”最初期の問題作です。

と、扇情的にちょっとあおってみましたが、

中身はケッチャムらしい、切り詰めたドライな筆致と、酷薄で嗜虐的な描写、ある種のリリカルな文学性を示す、彼にしか書けない「まさにケッチャム」という作品となっています。

殺戮とグロテスクのグラン・ギニョル。

神話的な恐怖をたたえた“迷宮としての森”。

緊迫感あふれる“狩るもの”と“狩られるもの”のゲーム。

悲しいまでにせつなく、やるせない帰還兵の心のかたち。

作家たちの織りなす、不思議な愛のかたち。

そして、すべてをのみこんで動きつづける、運命の車輪。

ホラー・サスペンスとしても、“ベトナム戦争”小説としても、一級品。

『隣の家の少女』だけではないケッチャムの世界を、読者の皆様にも味わってほしいと切に祈っております。夏のひとときを、ケッチャム片手にぜひひんやりお過ごしください……。(編集Y)

『森の惨劇』翻訳者の金子浩氏による「イチ押し本」はこちらです。あわせてお読みください。(事務局)