アイスランドのミステリーなどというのを検討する機会があったので、ちょっとご披露を。

 アイスランドといえば金融恐慌で一躍有名になりましたが、最近ではなんといっても、火山灰でヨーロッパの空を「ライト兄弟以来の静けさ」にしてしまいましたよね(その模様は、こちら【http://wordpress.local/1272586673】やこちら【http://wordpress.local/1280449884】をどうぞ)。

 ところで、まさにその火山をネタにしたミステリーがアイスランドにあったのです。

 それは、イルサ・シグルザルドッティル(カタカタ表記はあやふや)のミステリー第3作 Aska。著者は、すでにヨーロッパを中心に27カ国で翻訳され、評価の高い女性作家です。

 ストーリーは……

 1973年に起きた火山の噴火で、灰に埋もれてしまった小島の村(これは、実際に起きた噴火をモデルにしているようです)。火山灰の下に眠っていた地域の発掘が、34年ぶりに(本作は2007年に発表されたのです)はじまることになります。

 主人公(シリーズ・キャラクター)の女性弁護士ドーラのもとに、かつてこの村に住んでいた男性から、生家の発掘を阻止してほしいという依頼が舞いこみます。

 しかし、火山灰に埋もれた地域はすべて市の管理下に置かれているため、申し立ては退けられます。

 34年の時を経て開かれた彼の家の地下室にあったのは、3人の死体と1個の首!

 ……という印象的な導入部。

 ここに、関係者の不可思議な死がからみ、先の見えないストーリーが展開していきます。

 アイスランドといえば、人口約30万人の島国。かの地の犯罪事情について、シグルザルドッティルはこんなふうに言っています。

 ——アイスランド人の99.9%は、重大な犯罪にかかわることはない。警察が追うのは、残り0.1%、すなわち300人でよい。しかし、その半数は、すでに獄中にいる。警察の仕事は楽なものだ。現実のアイスランドで起こる殺人は、ほとんどが衝動的で愚かで、あとさき考えない類いのものである——

 ちなみにこの著者の名ですが、アイスランドの前首相もシグルザルドッティルといいました。そんな狭い国で同姓なら縁戚関係かしら……と思ってしまいそうですが、これはまちがい。

 アイスランド人には、姓がありません(ほら、ビョークとか)。

 シグルザルドッティルは、いわゆる父称。父親の名に、男子なら「〜ソン」、女子なら「〜ドッティル」をつけて呼びならわすのだそうです。

 つまり、イルサ・シグルザルドッティルは、「シグルザルの娘イルサ」というわけですね。

 アイスランドは、9世紀ごろから移民が入り、島のなかで伝統をたもちつづけてきたため、古い慣習がそのまま残っているのだそうです。アイスランド語も、ほかのスカンディナヴィアの言語が他国の影響を受けて変化したのに対し、かつての複雑なまま受け継がれているのだそうですよ。30万人しか使わない言葉だけど。

 アイスランドには、以前小山正さんが触れた【http://wordpress.local/1261496141】ゴールド・ダガー受賞者アーノールダー・インドリダーソンなど、いい作家がいるようです。

 スウェーデンにはヘニング・マンケル、スティーグ・ラーソンがいるし(もちろんシューヴァル&ヴァールーも)、ノルウェーにはアンネ・ホルトや、邦訳が出るらしいカーリン・フォッスム、それに扶桑社がチャレンジした(けど話題になりそこねた)トム・エーゲランがいて、北欧のミステリーには世界的に注目が集まっています。

 そんななかでも、アイスランドは究極かもしれませんね。言語の壁はさらに高いけど。