杉江松恋(以下、杉江) いよいよ明晩(というか今夜)開催ということですがミステリ酒場第二弾「ジェイムズ・エルロイ酒場」。豪華ゲストを招聘して、私の中ではだいぶ盛り上がっているわけですよ。※プロモーションビデオはコチラ

霜月蒼(以下、霜月) 改めて見ると、すごい顔ぶれですよね。アンダーワールドUSA三部作の翻訳者である田村義進は当然として、もう一人のゲストがライトノベルという隣接領域の浅井ラボだもの。その他、客席には犯罪小説を心から愛する有名作家・評論家が大挙して訪れるとの報もありますし。今日本にいるデイヴィッド・ピースも、可能であれば来たいと言ってるんでしょう? くそ、おれ行けないんだよなあ。

杉江 会場はファッション情報の発信地・代官山(山羊に、聞く?)だというのに、どれだけノワールなんだ、その顔ぶれは(笑)。そもそもゲストに浅井ラボを招聘するという着想は霜月蒼の差し金なんだっけ。

霜月 そんな感じですね。去年、評論家の川出正樹さんに薦められて賀東招二『フルメタル・パニック!』を読んでみると、これ、明らかに往年の冒険小説の嫡子なんですよ。そこからはじまって浅井ラボさんの『されど罪人は竜と踊る』だとか深見真さんの『ヤングガン・カルナバル』といった作品を読んで、ゼロ年代以降、オトナの小説では絶えてしまったように見えた海外ミステリの血脈はこっちで生きてたんだ!と衝撃を受けたんです。浅井さんの短編集『Strange Strange』なんてジャック・ケッチャムとスプラッタパンク・ホラーを合わせて2で割らない、みたいな壮絶な小説でした。装幀はラノベなのにね。だいたい《魔法少女まどか☆マギカ》だって血涙ノワール系の冒険小説でしょ?

杉江 あんなに予定調和を裏切る話はないしね。最近はライトノベルの読者も平均年齢が上がりつつあるというけど、翻訳ミステリーのジャンルよりは間違いなく下回っているからね。この間、浅井氏と打ち合わせをしてきたんだけど、ものすごい読み込みぶりでした。浅井氏もライトノベルを含めた現在の小説の傾向には疑問を持っているようだし、エルロイという現象を切り口にしてうまく話題を膨らませていけたらといいなと。

霜月 疑問というのは?

杉江 一例を挙げるとキャラクターの造形ですね。小説のキャラクターはプロットと不可分に結びついているわけだけど、読者に対する顧客満足をあまりにも重視した結果、親しみやすいキャラクター、予定調和のプロットが氾濫する傾向にあると思う。実作者として浅井氏はその辺の状況を敏感に察知しているはずだし、だからこそエルロイに関するトークなんて本業とは違うお仕事を引き受けていただけたんだと思うのですよ。

霜月 エルロイ作品の主要キャラって、エルロイ自身の投影ですものね。どう考えても、読者の満足のためにキャラをつくってるとは思えない。新作の『アンダーワールドUSA』だって、全キャラが自分のことしか考えていない。第一章の「混迷」を予備知識なしに読んだ読者は面食らうでしょうね。これはどこに行き着くんだ?って。FBI捜査官のドワイトが自分を救うために動いてくれているのに、ウェイン・ジュニアはとんでもない行動に出てすべてをご破算にしかけるでしょう。「なんで、おとなしく待ってないんだよ!」って思うんじゃないかな。

杉江 しかもその破綻を覆い隠すためのドワイトの動きもかなり場当たり的だしね。あっちこっちで綻びかけている計画を、無理矢理力技でなんとかするのがエルロイ小説の登場人物なんだ。だからこそ先が読めないし、その継ぎ接ぎ感が妙に現実じみている。不気味だよね。

霜月 おれ、三部作は全部ちがう話な気がするんですよ。文体からして全部ちがう。行動と心理のまぜ加減が全部ちがう。ざっくり言うと、個人の妄執が国家とかマフィアみたいな巨大な暴力装置にのみこまれて搾取されてゆくプロセスが『アメリカン・タブロイド』から『アメリカン・デス・トリップ』を経て『アンダーワールドUSA』の第三部で極点を迎える。そこから個人の妄執を個人の手にとりもどして幕を閉じる、というのが最終作の後半3分の1だと思ってます。だからこそ『アンダーワールドUSA』はすごくロマンティックな話になってゆくんですよね。個人の妄執の物語なわけだから。と、まあ、これだけの内容を二時間のトークに収めるというのはほぼ不可能だと思うんだけど、なんとかがんばってください。

杉江 がんばるよ。濃厚すぎて翌日熱出すな、来場者も出演者も(笑)。浅井氏も協力的で、エルロイ判定というのを企画してくれたんだよ。

霜月 なんですか、それは。

杉江 世の中の森羅万象のすべてをエルロイ的なものと非エルロイ的なものに分類する、読者参加型企画なの。会場に持ってきてくれたものがあれば、なんでも判定するよ。たとえば人間としての霜月蒼は、間違いなくエルロイ箱に入ると思うんだけど……。

霜月 いやいやいや、おれ人間としては真っ当な市民ですから。そんなとこに入れられても嬉しくないでしょ、エルロイ箱って(笑)。

杉江 というわけで来場者の方には何か持参してこられることをお勧めします。ただし、生ものとか腐りやすいものは止めてね。ゴミ箱じゃないんで。

霜月 盛況をお祈りします。で、ミステリ酒場は今後どうなるんですか?

杉江 8月31日に番外編としてゾンビ酒場をやるけど、その後は未定です。だいたい2月に1回ぐらいのペースでやれればいいと思うんだ。紳士淑女の社交場みたいな感じで。

霜月 今回の場合でいうと、エルロイにはそんなに関心がない人が「ミステリ酒場があるから行ってみよう」という感じで来られるような場にしたいということですね。それで触発を受けて、「じゃ、エルロイ読んでみようか」と、読書の幅が広がれば言うことなし。

杉江 ですね。だから、どんなミステリ酒場がいいか、どしどし意見を送ってもらいたいと思います。「こんな作家の話題で盛り上がりたい」という要望は歓迎ですよ。

霜月 意外な名前もあがってきそうですね。

杉江 個人的にはトニー・ヒラーマン酒場とか、ジョナサン・ヴェイリン酒場とかやりたいんですけどね。

霜月 やりましょうヴェイリン!……ってニッチすぎるよ!

[出演] 浅井ラボ 田村義進 杉江松恋

[司会] 井田英登

[日時] 2011年8月24日(水) 開場・19:00 開始・19:30 (21:30〜22:00終了予定)

[会場] 風土カフェ&バー「山羊に、聞く?」(東京都渋谷区代官山町 20-20 モンシェリー代官山 B1F)

   (東急東横線「代官山」徒歩1分)TEL:03-6809-0584

[料金] 1500円(当日券500円up)

(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途2ドリンク(総額1,000円)をご購入いただきます)

お支払いを確認でき次第、整理番号をメールでご連絡します。

お申し込み時に住所をご記入いただきますが、チケットの送付はいたしません。

当日会場受付にて、名前、電話番号、整理番号をお伝えいただければ入場できます。

※満席の場合は、立ち見をお願いいたします。

※お支払い後のキャンセルは一切受け付けませんのでご注意ください。

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[券種] お客さんも直接質問・発言し、意見をぶつけ合うのが「Live Wire」の特徴ですが、USTREAMで動画中継もしますので、

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