皆様お待たせ致しました! いよいよ本屋大賞プレゼンツ〈翻訳小説部門〉発表です。
大賞 フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(酒寄進一訳 東京創元社)(14票)
おめでとうございます!!シーラッハ『犯罪』が、とうとう1位獲得です!!いやー、素晴らしい。
では2位から3位までを発表いたします。
2位 サルバドール・プラセンシア『紙の民』(藤井光訳 白水社)
3位(同数)アンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』(岩本正恵訳 新潮社)
ケイト・モートン『忘れられた花園』(青木純子訳 東京創元社)
おめでとうございます!!
今回は全国68名の書店員が各自3作品ずつコメント付きで投票しました。
全国の書店員一人ひとりが思い入れのある作品に投票した結果です。ほかにも多数の作品が票を集めたなかで、この4作が大きな支持を得ました。これはすごいことです。
ほかにも翻訳愛の書店員が投票した熱いコメントやいち押し作品については、『本の雑誌別冊 本屋大賞号』でぜひお読みくださいませ!
では大賞&入賞作品のレビューをご用意致しました! 執筆者は「ハヤカワミステリマガジン」の〈HMMブックレビュー〉担当者の一人、新鋭大学生ライター・影山ちひろ君です。ピンときた本があったらぜひ読んでみてくださいね。
フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(酒寄進一訳 東京創元社)
昨年、颯爽と登場し一躍話題作となったこの『犯罪』。記念すべき第一回本屋大賞翻訳部門の大賞に輝いたということで、これを機に未読という方はぜひ読んで頂きたい一作。
本書はドイツの刑事弁護士である著者が、現実に起きた事件をベースに描いた全11作の短篇集だ。
何が人を犯罪へと踏み込ませてしまうのか。その心理、その魔性を捉え裁ききることが可能なのか。考え続けるほど心ざわつく人間の根源的な部分が、さまざまな犯罪の事例を通して浮き彫りにされていく。そして、そういった人間のもつ不定形な部分を、圧倒的に簡潔な文体で描いているというのが本書の特徴であり魅力なのだ。情報を限りなく削ぎ落として物語が構築されることで生まれる余白に、読者は想像を否応なくかきたてられてしまう。芸術品ともいえる素晴らしい犯罪小説です。続編である『罪悪』とあわせてぜひご一読を。すごいぞ。そして受賞おめでとうございます!
サルバドール・プランセシア『紙の民』(藤井光訳 白水社エクス・リブリス)
メキシコで農家を営むフェデリコ・デ・ラ・フェは最愛の妻に出ていかれた傷心を抱えながら暮らしていた。以前から感じていた空からの不穏な視線、なぜ妻は出て行ったのか、自分の運命はどうして狂わされたのか……。そこで彼は一つの結論に達する。全ては自分を空から見下ろすあの土星(=作者)のせいであると。自由を求め、失われたものを取り戻すためにフェデリコは幼い娘と共に移住したロサンジェルス郊外の町でギャング集団と共に対土星戦争を開始する。
どうなってしまうのか見当もつかない”対土星戦争”の行方を見守る一方、全知の予言者ベビー・ノストラダムス、カトリックであることを隠しながら戦うレスラー、サントスなどなど……さらなる個性的な人物が次々と登場し、とにかく作者の想像力が縦横無尽に疾駆する様が抜群に面白い。それらが斬新なレイアウトで重層的に語れる本書は、”奇書”とよばれるもののうちの一冊でしょう。でも、読むと笑えて悲しいのだ。それがすごい。奇想の自由さ、虚構であることの面白さを存分に味わえる物語でありながら、切なさや喪失感といった普遍的な感情が流れるこの独特の世界観。珍しいもの好きだけでなく、読書好きならぜひご一読あれ。
アンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』(岩本正恵訳 新潮クレストブックス)
記憶はいつか失われてしまうというのは自然の摂理だ。けれどもその一方には受け継がれ、新たに生まれていく記憶も確かにある。アンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』は「記憶」をテーマに静謐な諦念と希望を描いた六作の物語からなる短篇集だ。
表題作「メモリー・ウォール」では、記憶をカートリッジに保存し自由に再生できるようになった近未来が描かれるが、O・ヘンリー賞を受賞した「一一三号村」ではダムに沈む中国の村を、作品の最後を締めくくる「来世」ではナチス政権下の孤児院で暮らす少女の姿を描くなど、その題材に統一性は持たされていない。けれども、時代が変われば舞台も変わり、舞台が変われば「記憶」も変わる。誰かにとっては忘れたくない記憶であっても、別の誰かにとっては思い出せない記憶かもしれない——そういった「記憶」の様々な側面が浮き彫りにされていく。読むことで物事に対する自分の視点が置きなおされるような愉悦と、物語で語ることの強さと魅力を味あわせてくれる素敵な作品だ。
ケイト・モートン『忘れられた花園』(青木純子訳 東京創元社)
1913年、オーストラリアの港にたったひとり取り残されていた身元不明の少女を、とある夫婦がネルと名付けて育て上げる。時は流れ2005年、祖母であるネルを看取った孫娘カサンドラは、彼女が自分にイギリス、コーンウォールのコテージを遺してくれたという事実を知らされる。カサンドラにコテージが残された意味とはなんだったのか? そしてネルはいったい何者だったのか——。
それぞれの想いを胸に前に進む三人のヒロインたちの運命が生み出す、時をこえた美しく魅力的な謎。それらが時系列を交差させた巧みな語り口で紐解かれていく様はまさに読書の愉悦そのものだ。『秘密の花園』や『嵐が丘』など、英国古典小説へのオマージュを見つけながら読むのも楽しい。鮮やかな筆致で紡がれた素敵な読書時間をもたらしてくれる豊穣なゴシック・ミステリだ。
わたくし猫谷書店は本日、影山君を連れて本屋大賞授賞式に潜入中です。明日の11日は翻訳小説大賞企画者&実行人でいらっしゃるオリオン書房・白川浩介さんへのインタビューと、授賞式のレポートをお届け致します。『犯罪』翻訳者、酒寄進一先生ご登壇もレポしますぞ。
明日もどうぞお付き合いくださいませ。
猫谷書店(ねこやしょてん) |
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翻訳ミステリ愛の書店員です。昨年【『死刑囚』売上100冊できるかなっ?】を寄稿させて頂きました。相変わらず本屋で働く毎日です。 |
影山ちひろ(かげやま ちひろ) |
1990年生まれ。慶應義塾大学在学中。 ミステリマガジンなどで原稿を書いたり、対談の構成をしたりしております。 趣味は読書と釣り全般! よろしくおねがいします。 |