〔前編は→こちらから

【これまでのあらすじ】

フランス・ミステリー、エルロイといった各企画の気合いの入りっぷりに、風呂上がりの1杯の心地よさも吹っ飛びビビりまくる挟名紅治。幸いにも『生還』読書会に人が集まり、しかも参加者約10名ちょいのなか、男性2名というモテモテ状態(当社比)となった! すっかり調子に乗った挟名だったが、そんな彼の前に突然ある人物が現れる!

 あ、あなたは……。『生還』読書会に現れたその人物の名は、文藝春秋編集者・永嶋俊一郎氏! ちょっと待て、エルロイ部屋はまだ始まっていないぞ! まさか、ハードボイルド部屋からの刺客か……。いえいえ、永嶋氏はもともと『生還』が好きで、こちらの様子が気になって来てくださったのです。感謝。

 永嶋氏によれば、『生還』の魅力は、通常のミステリが持つ「事件の発生→秩序の回復」といった収まりの良さを打ち破っている点にあるとのこと。つまり、「閉じる」結末が基本、要求されるミステリというジャンルにおいて、あえて説明をキッチリつけない部分を残す「開いた」結末になっているわけです。

 そうそう、ある方から「なんか恩田陸の小説を連想しました」という意見も出ました。まさに恩田陸って、オープン・エンドを好んでいる作家の1人ですよね。恩田陸と「開いた」結末の関係について興味を持った方は、『夏の名残りの薔薇』に収録されている杉江松恋氏の解説を読んでみると良いかも。

 ああ、そうだ、こんな意見もありましたな。「この作品って、3Fミステリーを好きな読者は絶対面白いと感じる気がします」

 イエス! 僕もそう思ったからこそ、読書会の課題作に選びました。

『生還』に限らず、フレンチ作品は女性の一人称視点の語りで物語が進行するわけで、サスペンスが展開する合間にも仕事したり恋人とイチャついたりと、そこらへんの私生活のシーンをしっかり書き込んでいるわけですね。しかも、主人公がみなハードボイルドの主人公よろしくあちこちを駆けまわって捜査するって、レディ・ガムシュー物の雰囲気に似ているじゃないか。だからぜひフレンチ作品は、3F読者にこそ読んでもらいたい小説なのです。あ、でも、「この主人公が好きなひと〜!」って質問したら、誰も手を挙げなかったなあ……。

 と、議論が盛り上がる中、永嶋氏に続き2人目の飛び入り参加者が登場……って、誰かと思ったら『生還』の解説を担当した川出正樹氏じゃないか!

 川出氏によれば、『生還』はじめニッキ・フレンチの小説に登場する主人公はイギリスのサスペンスには珍しい“戦う”ヒロインである、とのこと。確かに、『生還』の主人公って、逃げ惑うことなく反撃に出るもんなあ。川出氏も言ってたけど、まるでディック・フランシスの小説に出てくる人物みたいだよな。ちなみに川出氏のおススメニッキ・フレンチ作品は『素顔の裏まで』『記憶の家に眠る少女』だそうです。『生還』を読んでニッキ・フレンチのファンになった方は要チェックね。

 このほか、「“パンツ”と“パンティ”って2種類の訳が出てくるんだけど、何か意味あるのかな?」なんて意見も出てくるなど(すごい細かいところ気付くな、みんな!)、終始和気あいあい、楽しい読書会となりました。来てくださったみなさん、本当にありがとうございました。

 終了後、川出正樹氏が私に一言。「イヤミス作家ニッキ・フレンチなのに、和やかな読書会だったね」

 確かにそうだ!!! ニッキ・フレンチなのに! イヤミスなのに!

『生還』読書会レジュメ

おまけとして(真夜中に慌てて作って)当日配布したレジュメをアップしておきます。

作品の真相について触れている部分があるので、未読の方はご注意を。

『生還』読書会レジュメ.docx 直

挟名紅治(はざな・くれはる)

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・ミステリー愛好家。「ミステリマガジン」に作品解題などを執筆。

・当サイトで【挟名紅治の、ふみ〜、不思議な小説を読んで頭が、ふ、沸騰しそうだよ〜 略して3F】を好評連載中。

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