扶桑社 販売促進部Mの ケッチャム鬼畜営業日記
今はなき芳林堂書店池袋本店。文庫担当の書店員だった私はケッチャムと出会った。
なぜか扶桑社のミステリー文庫で棚からいちばん売れる作家。ふーん、ケッチャム……全然知らない。スティーヴン・キング絶賛? キングの「絶賛」は当てにならないからな〜と思いつつ、『隣の家の少女』を購入。
1ページ目で夢中になり、徹夜で一気に読了。あまりのむごさと美しさに圧倒され、その日のうちにPOPを書き、上司の許可もなく扶桑社に100冊を発注。売り場の一等地に山積みにする。以降、平台から『隣の家の少女』がはずされることはなかった。
その後、芳林堂書店池袋本店は2003年12月末日をもって閉店。不思議な縁に導かれ、私は扶桑社に入社することになった。所属は販売局の販売促進部(書店営業部門)。
時は流れて2012年。
ケッチャムのデビュー作『オフシーズン』と、その続編『襲撃者の夜』に続く、食人族シリーズの第3弾が発売となる。
これは局内唯一のケッチャム・ファンの社員が、新刊『ザ・ウーマン』の発売までの鬼畜な日々を綴った日記である。
●2012年7月18日(水)
ケッチャムの新刊の発売が9月末に決定! いよいよケッチャム祭りの始まり。
この興奮を誰かと分かち合いたいと思い、Twitter上のケッチャム仲間たちに新刊発売のニュースを発信。瞬く間にリツイートが重ねられ、日本中のケッチャムファンたちの、「楽しみ!」「待ってたよ!」という喜びの声が続々とタイムライン上にあがってくる……感動。
●7月30日(月)
新刊『ザ・ウーマン』のゲラが編集部より届く。震える指で最初のページをめくると、冒頭の引用文が佐川一政の言葉!!
「あなたがたは彼女とキスしたがる。ぼくは彼女を味わいたがる。おなじことですよ」
ぎゃー!ヤバい!!鼻血出そう。
●8月22日(水)
編集者とともに、紀伊国屋書店新宿本店さんを訪問。
文庫担当の森瑞人さんは、オリジナルのケッチャム占いパネルを作った“ケッチャム王子”として有名な方。
森さんの尋常でないケッチャム愛にこちらのテンションも上がりまくり。
ご担当の小出さんと森さんのお二人にケッチャム祭りのアイディアを色々いただく。森さんには、既刊6点すべての推薦文の執筆をお願いする。「頼まれなくても書くつもりですけど♪フフッ」と爽やかな笑顔で返答。さすがケッチャム王子。
興奮さめやらぬまま、文教堂書店三軒茶屋店へと足を運び、中川浩成さんにケッチャム祭りへのご協力を依頼。
中川さんは、数多くの書籍のPOPや帯の推薦文を手がけ、仕掛け販売で埋もれた名作をヒットさせてきたカリスマ書店員。多趣味でホラーにも造詣が深い。既刊の帯に載せる推薦文をお願いすると、快諾。やった!
そしてもう一人、ケッチャムとなれば絶対に欠かすことができないメンバーが吉祥寺に。猫とケッチャムを愛する心優しき書店人、啓文堂書店吉祥寺店の漆原健さんにも推薦文を依頼。目を輝かせて引き受けてくださる。
なんと心強い3人。
●8月27日(月)
拡材は以下のものを製作することに決定!
・『ザ・ウーマン』B5パネル
・ケッチャムの既刊6点を紹介したA4パネル
・既刊6点それぞれの帯(3名の書店員さんの推薦コメント入り)
・棚用 作家名プレート
・ケッチャム応援団(書店員さん)用オリジナル缶バッジ
・『隣の家の少女』手書きPOP
海外ミステリー文庫、しかもよりによってケッチャムで、ここまで拡材に手間とお金をかけるのはきわめて異例なこと。「やりたいようにやれ!」と許可してくれたF局長に感謝。
●8月29日(水)
帯の推薦文を依頼していた某作家さんから、スケジュールの都合上無理というお断りの返答が……残念。
●9月3日(月)
編集部より良い知らせ。新刊発売に向けて、ケッチャム応援団の書店員さんにご協力いただいたり、いろいろな仕掛けを準備していることを、著者が大変お喜びになっているとのこと! 嬉しい!! 残業がんばれます、ケッチャム先生!
●9月4日(火)
注文書作り。
盛り込みたい要素が多すぎて、A4用紙一枚に入りきらない…A3の両面に思いの丈をびっしり書きたい……。あれこれ作り直してるうちに終電がなくなる。
(注:右の画像はクリックでPDFファイルをひらきます)
●9月5日(水)
昨夜作った注文書を『隣の家の少女』の実績上位1000書店にFAX送信。
刊行から14年間に『隣の家の少女』を売った冊数順の書店リストをチェックしていたら、上から7番目に、今はなき芳林堂書店池袋本店の名が。あのとき、ただ好きだという理由だけで『隣の家の少女』を平積みしていた私が、扶桑社に入社して、ケッチャムを紹介する側になるとは……。胸が熱くなる。
●9月6日(木)
昨日流したFAXの返信が続々と届いてる!注文数も多く、手書きのメッセージ付きのものもあり、本当に嬉しい。
そして、3人の書店員さんからの推薦コメントが出揃う。
既刊6点『隣の家の少女』『オフシーズン』『襲撃者の夜』『黒い夏』『閉店時間』『森の惨劇』の帯のデザインの作製。
販売部文庫担当のYと二人で一作ずつ文言を練っていく。5時間に及ぶ作業。生涯でこんなに「食人族」という単語を連呼することは後にも先にもないと思う……それもまた幸せ♪(←ケッチャム脳)
●9月7日(金)
「I ❤ケッチャム」という缶バッジを作っても良いかどうかケッチャム先生におうかがいをたてたところ、快諾! その上、「缶バッジ僕も欲しい!あと缶バッジを胸につけた書店員さんの画像も送ってね!」とのおちゃめな回答が! この情報をTwitterで流すとまた全国のケッチャムファンが大盛り上がり☆
●9月12日(水)
缶バッジ業者からデザイン画像がスマホに送られてきたので確認。全然違ーう!
出張先の仙台の街を歩きながら何度も缶バッジ業者に電話。血の色や形、文字の書体、大きさ、傾きなどを細かく指定。何度説明しても伝わらないので、とうとう路上のベンチで紙にデザインを描き、それを撮影して送信。
●9月13日(木)
新刊『ザ・ウーマン』の初回配本申込みの締切日。初版10000部に対し、254書店さんから、5525部の注文が集まった。
そして、注文殺到につき、『隣の家の少女』『オフシーズン』『襲撃者の夜』の重版が決定!思わずガッツポーズ。
●9月14日(金)
今日の正午が缶バッジのデザインの締め切り。出張先から血のたれ方の修正指示を何度も電話でしていたら、スマホの充電が切れる。駅ビルのトイレのコンセントに勝手に充電器を差し、「たれてる血の右から1番目のと3番目のをもっと長くして。違う違う、下まで突き抜ける感じで! いや、文字じゃなくて血が!」などと大声で指示を出していたら、不審者扱いされて清掃のおばちゃんに追い出される。
●9月24日(月)
朝イチの宅配便で、『ザ・ウーマン』パネル、缶バッジ、棚プレート、ケッチャム既刊パネルが続々と社に届く。今日中に発送しないと新刊の搬入に間に合わない!
(注:上の2画像はクリックでPDFファイルをひらきます)
夕方から全社員参加のボウリング大会だったのだが、参加できるわけもなく、全国の書店さんへ発送作業。
●9月25日(火)
新刊『ザ・ウーマン』がいよいよ取次に搬入。入荷の早い書店さんでは今日の午後から店頭に並ぶ。
ケッチャム祭りの開幕宣言とともにTwitter上に缶バッジの画像を公開。直後からリツイートやメッセージの知らせが届き、商談の間に受信メール数が30件、40件と溜まっていてびっくり。タイムラインを見ると、「ケッチャム」「缶バッジ」「ザ・ウーマン」の単語があふれている……涙が出そう。さあ、ケッチャム祭り開幕!!
(文教堂書店三軒茶屋店様、紀伊國屋書店新宿本店様)
(啓文堂書店吉祥寺店様、住吉書房東戸塚店様)
(伊野尾書店様、伊野尾店長)
(書店員さん缶バッジ姿)
全国の書店様でケッチャム祭り、開催中です!
そしていよいよ10月20日(土)より、シアターN渋谷にて映画『ザ・ウーマン』公開!
http://www.the-woman-movie.com/
映画公開を記念して、ケッチャム×扶桑社のもう一つの仕掛けが始動する予定!!
お楽しみに!
「惨劇は終わらない」……
扶桑社 販売促進部M |
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人見知りの営業。 ケッチャムと『孤独のグルメ』と『四丁目の夕日』の話題になると目が輝きだす元書店員。 ツイッターアカウントは @miki_m_1102 。 |
【参考】
●金子浩氏「初心者のためのジャック・ケッチャム入門」
http://wordpress.local/1305006517
●扶桑社ミステリー通信
http://www.fusosha.co.jp/mysteryblog/